147.踏破者、湖畔の町へと到着する。
「準備出来ましたわ。よろしくお願いします。…出来るだけ上下移動は無い方向で。」
領主の館からティアとラマシュトゥ、それと侍女が1人が出てくる。
そして全員が馬車の中に入り込む。
今日はこれからマグカル湖の湖畔にあるムーカルの町へと行き、マグカル湖の資源活用について調査を行う予定だ。
既に同行する有識者は馬車に乗り込み、後は出発するだけとなっている。
「じゃあ行ってくるよ。レクシア、ネレウス、この都市の事は頼んだぞ。いざという時はパズズに言えばこちらとは連絡取れるはずだからそうしてくれ。」
「分かりました。」「は!!お任せください!!」
国防軍は元々軍人の集まりなので、規律さえしっかりと守らせれれば一般兵程度の戦力にはなるだろうと思っていたが、予想外に皆実力をつけてきている。
まだまだ魔族と1対1渡り合えるほどではないが、100人規模の攻撃を受けたくらいなら最悪俺が駆けつけれる位は耐えられるだろう。
ハンターの数も増えて来たし、安心してモールドを離れられる。
「では行ってくる。」
そう言って俺は御者席に座る。
隣には当然のようにそこに座るシファ。
「スレイプニール。行ってくれ。」
『承知した。』
言うなり走り出すスレイプニール。
一瞬で都市の端まで走り抜けると、防壁を軽々と飛び越える。
あ、上下運動止めてと言われていたな。
馬車から悲鳴が聞こえる。
おそらくスレイプニール初体験の有識者たちだろう。
少し可哀相な音をしてしまったな。
だがその後の道程は順調そのもの。
30分程でムーカルの町へとたどり着く。
御者席から馬車の中を覗くと、やはり有識者たちの顔が青い。
一方で以前変な顔をしていたティアはすました顔をしていた。
「着いたぞ。」
そう馬車の中に声をかけ、御者席にシファを残して飛び降りる。
町に入る手続きをする為だ。
門の前では衛兵が2人、明らかに慌てた動きで何かをしている。
かと思ったら俺が声をかける前にその門は閉じてしまった。
どうやら得体のしれない奴らが来たと判断されたようだ。
門を閉じられたことに若干ショックを受けながら門の向こうへと声をかける。
「新領主であるティア王女殿下一行だ。連絡は入れているはずだ。開門してくれ。」
「う、嘘だ!!町長から連絡が来たのはついさっきだ。こんなに早く本物が現れるはずなんてない!!」
門の奥からそんな声が聞こえてくる。
そんなこと言われてもな…。
どうやって説得すりゃいいんだこれ?
「私の姿を見てもらえませんか?」
それはいつの間にか馬車を下りて俺のすぐ横まで歩いてきていたティアの声だった。
門の奥ではどたどたと言った音が聞こえていたが、しばらくすると防壁の上からひょこりと衛兵が顔を出す。
そしてティアの姿を見るや硬直する。
「テ、ティア王女殿下だ!!開門せよ!!」
硬直が解けた衛兵から指示が飛ぶ。
数秒してズズズと音を立てながら門が開く。
開いた門の先では上から覗いていたのとはまた別の衛兵が緊張した面持ちで立っていた。
「さ、先程は失礼いたしました!!どうぞお通り下さい!!」
いや、通門手続きはどうしたよ?
別に要らんなら要らんでいいが…。
俺はシファに合図して馬車を町の中へ入れる。
まずは町長に挨拶しにいかないとな。
っと、忘れてた。
俺は直立不動で俺達を招き入れた衛兵2人を振り返る。
「そうそう、帰りはもしかしたら門を通らないかもしれんからよろしくな。」
衛兵2人は俺の言う事が理解できないのかお互い見合っていた。
まぁその時があったらどういう事かは分かるだろう。
俺は町長宅へと進む馬車を追いかけて歩き出した。
◇◇◇◇◇
「はい、マグカル湖についての調査と言う事であれば好きにしていただいて構いません。」
ムーカルの町の町長は、少しふくよかな体の人のよさそうなおじさんだった。
なんでも前町長だった父親が往生したことで若くして町長となることになったが、自身では人の上に立つのは向いていないと思っているとの事だった。
「我々もマグカル湖については陸釣りで多少の恩恵を受けているだけですので…。もし魔物の脅威がなくなり本格的な漁が行えるのであれば願ったりです。」
「了承いただきありがとうございます。では早速調査に取り掛かりたいと思います。もし漁が出来るような状況になりましたら、試験管系の話はその時に。」
そう言ってにこりと笑うティア。
ティアとしては自分の領地の町の町長に吹っ掛けるようなことはしないだろうが、利権関係は先に取り決めておいた方が良いだろうにな。
使えることが分かってから自分たちのものだと主張しても後の祭りと言うものだ。
自分でも認めている通り、人の上に立つ人物ではないようだ。
まぁ王族を前にしてビビっていただけという可能性もあるが…。
一方でもしかしたらティアはわざとそう言う提案をしてこの町長の器を図っていたまであるなと思い当たる。
と言うか間違いなくそうだろう。
「私の顔に何かついていますか?」
おれがティアの顔を見ていたことがバレた。
「私の事を抱きたくなったのでしたらいつでも受け入れる準備は出来ていましてよ?それがシファお姉さまと一緒になる近道ですわ。」
ほんと、このふざけた嗜好が無けりゃいい統治者になるだろうに。
俺は小さくため息をついた。
マグカル湖調査編スタートです。
今回は最近出番のない彼にも活躍してもらうとしましょうか。
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