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145/218

145.護衛隊長、国防軍訓練を見学する②

ネレウス元将軍に連れられて道場の別のスペースに移動する。

そこでは二人一組で向かい合い、剣を重ねる兵士が何組もいた。

先程、ここでは立ち合いをしていないという事だったが…。


不思議に思いながらその光景を眺める。

一方が基本の型のいずれかの斬撃を繰り出し、もう一方がその斬撃の左右鏡写しの斬撃をすかさず繰り出す。

二つの斬撃が重なり、双方弾かれる。

それが、何度も(・・・)繰り返される。


顔がこわばるのを感じる。

ネレウス元将軍はその変化を察知してか満足そうに頷く。


「さすが、お気づきになられたようですね。ここでは斬撃を如何に正確に繰り出せるかを競っています。更に後攻は相手の斬撃に合わせて斬撃を放たなければなりませんので『反射的に』という要素が追加されます。」


ネレウス元将軍の説明が耳に入ってくるが、そんなことが出来るはずはないと頭が理解を拒否している。

だが全体を見れば所々で斬撃を合わせることに失敗し、片方の剣が弾かれ、もう片方の剣が相手に当たるという事も起こっているようだ。


「これはジーク様が正確に剣を振れるようになるためにと実践して下さった方法です。当時の我々相手では後攻のジーク様に全員が剣を弾かれていましたな。この訓練は特に後攻の難易度が高く、まだまだ我々が実践しても満足いく結果にはなっておりません。今は先攻側が斬撃を放つまでにわざと一拍置くことでバランスを保っていますが、いずれそれもなくしていきたいと思っています。」


なるほど、ジーク殿が披露した技だったのか…。

それなら確かにこのような高難度のものになるのも頷ける。

私であればそれを別次元のものとして捉えて頭から切り離してしまうが、彼らはそうではなく再現できるレベルを目指したという事だ。

その向上心、私も見習わなければならんな。


「ですが、この訓練を許可されているのはある程度の修練を積み、その実力をジーク殿かレクシア殿に認められたものだけです。それ以外はこの奥で訓練していますが、相手の斬撃に合わせて適切な防御を行うという訓練をしています。」


「なるほど、斬撃を合わせるのに失敗すると相手の剣を受けてしまうからですね?怪我してしまっては本末転倒ですから。」


「そう言う事です。…では次へ行きましょうか。最後の演習場に。」


そう言うとネレウス元将軍は道場を後にする。

私もそれに続いた。


「演習場では実践訓練をしています。3ステージあるので兵士同士で戦う事もしますが、一番人気は先生型との戦闘です。」


「先生方?」


「ええ、先ほどの道場での質問『どうしてそこまで必死に素振りに打ち込めるか』の問いの答えですが、それは『ただひたすらの修練の末強くなった人を知っている』ことと『修練を続けることで自分たちでもその域に達することが出来る』ことを知っているからです。更にその人たちは『まだ上を目指し日々修練を積んでいる』という事も大きいですね。どうぞ、ここが演習場です。」


ネレウス元将軍が大きな扉を開く。


まず目に飛び込んできたのは中央の闘技台。

そこでは目にもとまらぬ速さで闘技台上を移動し剣を振るうレクシア殿と、その剣に防戦一方になりながらなんとか一撃入れようとしている兵士の姿があった。

粘りを見せる兵士だったが、終にはレクシアの斬撃の直撃を受けて場外へ吹き飛ばされる。

兵士は意識を失ったようだが、驚くべきことに無意識のまま立ち上がり、剣を構えようとしていた。

 

「その心意気や良し!!…治療してやれ。」


レクシアの言葉に反応した兵士たちが3人がかりで意識を失った兵士を運んでいく。

固く握られた木剣ごと…。


「次!!」


「私です!!よろしくお願いします!!」


レクシア殿は立て続けに次の兵士を相手に立ち回る。

何戦しているのか分からないが、その汗の量を見れば10や20で効かないことは容易に想像できる。


「レクシア様は【舞剣】の才をお持ちで、以前王都でお見掛けした時もお強かったのですが、正直、今はその時とは比較になっていません。何でも聞けばジーク様の手ほどきを受けているとか。しかもそのジーク様は【無才】ときたものです。」


ネレウス元将軍は闘技台を見ながら話し始める。


「ジーク様の強さを目の当たりにする前の状態でそれを聞いていれば鼻で笑ったかもしれません。お恥ずかしいことですが、以前の我々はその才に溺れていましたから。ですが、あの強さを知ってしまった私共が感じたのは希望です。才能の優劣ではない、修練によって得られる強さ。我々でも届き得るはずのその強さに強烈に憧れました。そしてその人はまだ上を目指している。それに追いすがろうと思うのは武道にいるものとしては当然の帰結でした。」


「なるほど…。納得しましたよ。」


私とてそのような気持がないわけではない。

以前であれば王女殿下をお守りする職業上訓練に多くの時間を避けられなかった。

だが、今なら…。

不本意ながら私よりはるかに強いラマシュトゥ殿が護衛に付いているので訓練の時間を作ることも難しくない。




「本日はありがとうございました。」


国防軍の拠点前で見送りまで来てくれたネレウス元将軍に礼を言い帰路につく。

頭の中は自分もあそこで訓練を行う光景を想像し、気分は高揚している。


だが、その頭も徐々に冷静さを取り戻し、建部団の拠点が近づくにつれて問題が発生していることに気が付く。


憲兵団のほとんどはジーク殿の強さを知らない。

国防軍の兵たちのように目標があいまいなままあの訓練に放り込めばどうなるか…。


脱落者が続出するのは目に見えている。

あの訓練は常識的に厳しすぎる…


結局この問題に答えを出せないまま私は憲兵団の拠点に帰り着くのだった。

ランドール隊長の悩みは尽きませんね。

はたして憲兵団はこれからどうなるのか!?

もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!

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