140.踏破者、魔族を殲滅する。(第二王女、俯瞰する。)
城塞都市モールドの北に広がる防壁。
その壁の前に数十人の兵士がそれぞれ武器を構えて魔族の襲撃に備えていた。
眼前に広がる平原には、100人程の魔族が陣形を組んでいる。
俺が到着した時にはまだ戦闘は起こっていないようだった。
伏兵を気にしているのだろうか?
兵を失いたくない俺としては僥倖だ。
防壁の上から兵士たちに叫ぶ。
「皆聞け!!俺はネレウスに代わり国防軍の指揮を執ることになったジークだ!!皆防壁の前で待機、そこを死守せよ!!これより私が打って出る!!」
突然現れた男がそう言えば当然場は混乱するだろう。
だが、説明している暇もない。
俺は防壁から跳び、国防軍の前に降りるとそのまま魔族側へと進む。
警戒する魔族たちに声が届くところまで来ると念のため確認を取る。
「お前たちの目的はなんだ?」
突然人族が一人で向かってきてそんなことを問いかければ魔族も困惑するのだろう。
皆一様に首をかしげている。
だが、魔族の中でも最も位の高そうな奴が返事を返してきた。
「いったい何のつもりだ?我らの目的など当然知っておろうが?」
「念のためな。もし和平交渉の使者であれば、いきなり殺すわけにはいかないからな。」
俺の言葉に今度は笑い出す魔族たち。
「面白いことを言う人間だな。我らの目的は領土の拡大と労働力としての人族の確保だ。どうやら増援もなさそうだしそろそろ行かせてもらうぞ。」
「そうか。…じゃあ生かしておく必要はないな。」
「虚勢を張るでな…ガフッ!?」
俺は油断しまくっている魔族の目の前へ縮地で飛び込み、その喉を切り裂いた。
そして驚愕している魔族たちへと次々とシュラを突き立てて行った。
最後に命乞いをする魔族の首を刎ね飛ばす。
辺りには100人分の魔族の死体が転がり、立っているのは返り血にまみれた俺ただ一人。
それにしてもこの魔族ども随分と弱かったな。
これなら俺でなくとも上手くやればレクシア一人でも行けたかもしれんな。
レクシアとレベッカは俺とシファが鍛えているお陰で随分と強くなっている。
特にレクシアは出会った頃とは別人のように成長していた。
「おおおおお!!!!」
防壁側から国防軍の雄たけびが聞こえる。
振り返ると拠点に居た兵士たちも駆けつけてきたようで、かなりの人数が防壁前に居た。
先頭に居るのはネレウスだろうか?
何か国防軍に対し叫んでいるようだ。
俺が防壁ま戻ると、ネレウスが兵士たちの中から一歩前へと出てくる。
そして軍隊式の敬礼の姿勢をとる。
「ジーク様!!拠点でのあらましをここにいるすべての兵に伝えました。私の言葉だけでは信じてもらえなかったかもしれませんが、先ほどの魔族との戦い!!皆その強さを目の当たりにし、皆目が覚めました!!」
「うん?」
魔族との戦い…?
一方的なのを戦いとは言わんが…。
まぁ目が覚めたというのであればそれでいい…か?
「皆これよりジーク様の元で修練を積まさせていただきたいのです!!よろしくお願いします!!」
そう言ってネレウスは頭を下げる。
「「よろしくお願いします!!」」
続いてネレウスの後ろにいる兵士たちも頭を下げる。
そこにいる全員が俺に向けて頭を下げるという異様な光景が出来上がってしまった。
俺は一つ咳払いをしてから皆に告げる。
「正式な監督者が来るまでの間だが、お前たちを徹底的に鍛えてやる。覚悟はいいな?」
「「はい!!」」
こうして俺は国防軍の鍛え直しを開始するのだった。
◇◇◇◇◇
私は事の成り行きを防壁の上から眺めていた。
ジーク殿が魔族にやられるとは微塵も考えていなかったが、それはやはりその通りになった。
100はいた魔族は瞬く間に全滅している。
「相変わらず師匠の剣は凄まじいですね。」
私の隣で一部始終を共に見ていたのは【剣姫】レクシア。
王国騎士団でも指折りの彼女がそう言うのだからそうなのだろう。
私には剣の凄さは良く分からないが。
ジーク殿が戦っているのを見るとただ相手が弱かっただけのように見える。
「ちなみにどう凄いのか説明できますか?」
私に問いにレクシアは少し悩む。
そしてこれだ!!という説明の仕方を思いついたのか手を打つ。
「師匠の剣は基本に忠実な型を相手に押し付けるスタンスなんです。少し違うかもしれませんが、素手の殴り合いで例えるとジャブを連打している感じですね。大ぶりのストレートやアッパーはない。ですが、そのジャブが尋常でなく早く・強く・正確に打たれる。ジャブだけで相手を圧倒できるほどに。加えて大ぶりがないので防御にも転じやすく、立ち回りに余裕があるんです。」
「思いの外イメージしやすい説明でしたわ。ありがとう。」
レクシアとはここ最近話すようになったのだが、戦闘に関することは天賦のものを持っているように思う。
戦闘面以外は割とポンコツなのだが、こと戦争になれば自身の戦いだけでなく戦況をも正確に見ることが出来そうだ。
指揮を任せてもよさそうな雰囲気を持っている。
それ以外は本当にポンコツなのだが。
「国防軍の制圧も滞りなく終わったようですね。」
眼下では国防軍の兵士がジーク殿に対し頭を下げている光景が広がっている。
しかし制圧って…。
別に制しようと思っているわけではありませんよ?
「しかし…、何というか…。ネレウスの時もそうでしたが、なんだか出来の悪い演劇を見ているような気分ですわ。何というか皆変に熱くて本当にそう思っているのかな?というか…うーん…なんて言ったらいいのでしょうか。」
私は難しい顔をしていたのだろう。
それを見ていたレクシアが少し笑う。
「兵士を目指す者は大なり小なり強さへのあこがれの様なものを持っているのですよ。師匠を見ることでそういった童心と言うか、気持ちが再び現れたのでしょう。」
私には分からない話なのだろう。
私は再び眼下に広がる光景に視線を戻し、ただぼぉっとそれを眺めていた。
魔族側は個体能力が高く調子に乗っているので人族相手なら統制のとれた行動を起こすのは稀です。
以前フレンブリード領を攻めていた魔族は統制が取れていましたが、シュタイン領を攻めている魔族は甘く、侵攻も散発的になっているのでこれまでモールドは持っていたようです。
そう言う設定です。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!