138.踏破者、将軍と立ち会う。
結論から言うと、ネレウス将軍の執務室の奥の部屋には裸に近い姿の女性が5人いた。
勢いあまってドアを開けようとした俺をシファが止めてくれていなければその姿を直視してしまう所だった。
女性たちの姿を見たティアがため息をつく。
そっとドアを閉めネレウス将軍に向かい合う。
「領主として、いえ、王族として命令します。ネレウス将軍の将軍号をはく奪し、国防軍モールド拠点の総監督の任を解きます。後任が決まるまではジークに総監督代理を勤めてもらいましょう。この件は国防軍本部に報告し、正式な後任を検討してもらいます。」
「ちょっと待ってください!!確かに私にも至らない所がありましたが、挽回のチャンスを!!国防軍は実力主義です。王国騎士団の軟弱ものに総監督などを努めさせては組織がまとまるどころか崩壊してしまいます!!」
もうすでに組織を崩壊させた張本人が言うのだから笑えてくる。
隣にいるレクシアは王国騎士団を馬鹿にされて機嫌が悪そうだが…。
いや、もう一人機嫌の悪い人間が居たな。
「私の王族専属騎士であるジークがあなたに劣るとでも?」
ティアの額には青筋が立っている。
意外と気に入ってくれていたようだ。
「当然です!!このネレウスこそが総監督に相応しいのです!!」
「では、ジークと立ち会いなさい。そのかわりあなたが負けるようなことがあればその処遇を受け入れて下さい。いいですねジーク。」
話を振られた俺は即答する。
「構わんよ。どのみちこの腐った連中は全員調教するつもりだったしな。」
「ネレウスもそれでいいですね?」
「はっ!!寛大な処置感謝いたします!!」
こいつ勝った気でいやがる。
それから俺たちは演習場へと向かう。
普段模擬戦などをする際にはこの場所を使うようだが、使用している人間は誰も居なかった。
と言うか隣の訓練施設すら誰も使用していなかった。
よくもまぁこんな体たらくでこれまで魔族に滅ぼされずに済んだものだ。
俺とネレウスは木剣を持って相対する。
ネレウスを見ると、その顔は嫌らしい笑みになっていた。
「良いことを思いつきましたよ王女殿下。殿下も王族専属騎士が弱いと心もとないでしょう。3人とも俺が徹底的に鍛えてあげますよ。」
そう言いながらその視線はシファとレクシアに向いている。
こいつ何も反省してねえな。
少し調教してやるつもりだったが気が変わった。
なによりシファに色目を使ったのは許せん。
「勝負の決着は?」
俺は怒りを押し込めてネレウスに問いかける。
ネレウスは一度悩む素振りを見せてから回答を口にする。
「では、国防軍モールド拠点式だ。片方が負けを認め、もう片方がそれを受け入れるまで続ける。根性無しにお灸を据えることが出来る方式だ。ちなみに片方が気絶などしで戦闘続行不可能な状態となった場合には回復魔法により戦闘できるようにした上で戦いを続行することもできる。…まさか怖くなって逃げたりせんよな。」
「なるほど、性格の悪さがそのまま出たようなルールだな。それでいいよ。始めようか。」
ネレウスの顔が一層歪に歪む。
吐き気がする。
いつの間にか演習場には拠点へ出て来ていた兵士が集まってきていた。
彼らは事の成り行きを確認しに来たのだろう。
ティアが右手を上げ、
「では始め!!」
振り下ろした。
「はっはー!!」
ネレウスは俺目掛け木剣を力任せに振り下ろす。
良く言えば身長2mの巨躯を活かした豪快な一振りとでも言うのだろうが、そんな大振り当たるわけがない。
俺は半身を引いて自分の木剣をネレウスのの木剣の件の腹に添えることでその軌道をずらすという最低限の動きで攻撃を躱す。
そして木剣をネレウスの手首に振り下ろした。
ゴキっと言う嫌な音を出してあらぬ方向へ曲がる手首。
「ギャァアあああ!!」
木剣を取りこぼし、腕を抱えて痛がるネレウス。
「兵士が簡単に剣を手放すな!!」
ネレウスの脇腹を蹴飛ばして地面を転がせた後、転がった木剣を彼へと放り投げる。
「木剣を取って立て。腕一本失ったくらいで痛がっていては実戦では死ぬぞ?そんなことも忘れたのか?」
「俺はもう大分戦線には出ていない…もう戦えない。降参だ。」
「許可しない。」
「え?」
ここでネレウスは信じがたいものを見たというような顔を俺に向ける。
いや、お前が言ったルールだろうが。
「どうせ部下をいびるためのルールなんだろう?これまでどれだけの人間がこのルールの被害にあったのかは知らんが、今度はお前の番と言うわけだ。安心しろ、俺はサディストじゃない。しっかりとお前が更生したと認めたら敗北宣言を受け入れてやる。」
その言葉にしばし愕然としていたネレウスだが、やがてその顔は朱に染まる。
「っこの若造が!!」
残った左腕で木剣を持ち、俺に向かって突進してくるネレウス。
どうやら気持ちを奮い立たせることはできるらしい。
横薙ぎに振るわれた木剣を下から救い上げるように自分の木剣で叩き上げる。
慣れぬ左手という事もあるだろうが、ネレウスの木剣はたったそれだけの事で彼の手を離れ宙を舞う。
「剣を手放すなと言っただろうが!!」
俺は致命傷とならぬ部位、左腕と両足に斬撃を叩き込む。
骨が砕ける音と耳をつんざく悲鳴が演習場にこだまする。
「もう許してぐれ…。」
終いには涙を流し許しを請うネレウス。
確かにもう剣を握るどころか立つことさえできないのだから誰が見ても戦闘不能だろう。
だが、これもこいつ自身が言ったことだ。
「許可しない。回復させても良いんだろう?試合続行だ。」
「!? この怪我を治せるような回復術士などこの拠点にはいない…!!。もう戦えないんだ!!。」
「国防軍の拠点に回復術師が居ないわけがないだろうが?…サボってっていないのか、怠慢でその程度の回復術さえ使えないのか…。」
俺は辺りに居る国防軍の兵士を見まわす。
皆気まずそうに視線を避ける。
ネレウスの次にはこの兵士たちの根性も叩き直さねばならんな。
「心配要らん。この程度の怪我、俺の連れならすぐ治せる。シファ。」
「こいつに回復掛けるの嫌なんだけど?」
「更生の為だ、耐えてくれ。」
シファは嫌そうにしながらもネレウスに回復魔法を放つ。
あっという間にネレウスの体は元通りに回復する。
何が起こったのか分かっていないネレウスに向かい、俺は木剣を放り投げる。
「もう一度だ。」
そして地獄の時間が始まった。
見事な雑魚キャラムーブをかましているネレウスさんですが、筋骨隆々の2mの大男って、普通に脅威ですよね。
人族の中では普通に強い部類の人間なんです。
一応彼の名誉のために言っておきます。
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