137.踏破者、将軍を問い詰める。
「ふん。兵分けや通常業務の割り振りなどは管理部門に任せているので私は知らんな。」
兵たちの管理が行き届いていない現状を管理部門のせいにしようとするネレウス将軍。
だが、そんな言い訳を許す気はない。
「見苦しいぞ。最終承認は貴様だろうが。」
「…決裁しなければいけないことが多すぎるもんでね。いちいちすべての内容を覚えてはおれんよ。」
「じゃあその管理部門の責任者を呼べ。同じことを聞いてやる。」
「残念だが、我が軍は多忙でね。質疑なんぞ職務に支障をきたすようなことはさせられんよ。」
「管理部門が忙しいって?全員で事務作業でもしているのか?」
「…ああ、魔族の攻勢が強まっている上に人員不足なのでね。巡回経路や時間の見直し、兵の配置や休息のタイミング。検討せねばならないことなどいくらでもあるからな。」
俺はティアに目配せする。
ティアは首を縦に振る。
「よし、じゃあその管理部門とやらへ行ってみようか。」
俺のその言葉にネレウス将軍は立ち上がる。
「おい!!貴様そんな勝手…」
「心配要らない。作業の邪魔はせんよ。あくまで見学さ。ね?王女殿下。」
「ええ、モールドの国防軍は領主管轄です。皆さんがしっかりと働いている所を見て総監督者の評価に反映させなければなりませんからね。」
そう言ってにっこり笑うティア。
対照的に言葉を失うネレウス将軍。
「行きましょう。」
「管理部門の事務所はここに来る途中にありましたね。」
「あ、ネレウス将軍も一緒に来てくださいね?彼らがどんな内容の仕事をしているか説明してもらわなければ我々では分からないでしょうから。」
そう言ってティアを先導して執務室を後にする。
ネレウス将軍も無言で付いてくる。
俺は『管理部』と書かれた扉まで来るとその扉を遠慮なく開け放つ。
そして無遠慮に部屋の中へと入って行った。
その部屋は席が15席ほどあったが、在籍していたのは3人。
2人はデスクに突っ伏して寝ており、責任者と思われる席にいる男は入ってくる俺たちに興味がないと言わんばかりの様子で一瞥もくれることなく書物を読んでいる。
「…これが忙しい部署ですか?」
ティアがネレウス将軍を睨む。
「チッ。…カーマン!!これは一体どういうことだ!!」
ネレウス将軍の言葉に書物を読んでいた男がビクッと跳ねる。
そこで漸く俺たちが訪問してきたことに気が付いたようだ。
「ネ、ネレウス将軍閣下!?ど、どうされましたか!?」
「どうされましたかだと!?聞いているのはこっちだ!!他の奴らはどうした!?」
そこで管理部門の責任者と思われるカーマンは俺たちの存在に気づいたようだ。
そして同時に怠慢の責任を自分が取らされそうになっていることにも。
「…皆休憩中です!!」
「…なんだ休憩中なのか。それはすまなかったな。さ、ティア王女殿下、彼らの休憩になりませんので戻りましょう。」
そんな言い訳で逃げ切れるとでも思っているのか?
「いや、ここで他のメンバーが揃うのを待ちましょう。彼らの仕事ぶりを見なければ評価ができませんからね。」
俺はそう進言する。
カーマンの顔がヒクつく。
「そうですわね。休憩なのですからそう待たずに全員揃うでしょう。何分位の休憩なのですか?」
ティアの言葉にカーマンは言葉を返せない。
当然だろう。
ネレウス将軍も再びカーマンを切る方向にかじを切る。
「カーマン。休憩時間は?」
カーマンは一度俯くと、今度は意を決したように顔を上げる。
「休憩などではありません。ここに居ないメンバーは大方町に繰り出しているのでしょう。」
「なっ!?なんだと!?貴様それでも管理部門責任者か!?」
なんだとと言いたいのはこっちだ。
こんな三文芝居面白味のかけらもない。
「ネレウス将軍もご存じのとおりです。部員の勤務態度が悪くなってきたときに相談したでしょう?子飼いの女性の相手に忙しくて『放っておけ』の一言で済まされましたが。」
「そんなことあるわけないだろうが!!出まかせを言うな!!」
お?ちょっと面白くなってきたな。
思いの外部下が噛みつくじゃないか。
「勤務態度の悪い奴を放っておけば他の人間もまじめにやっているのが馬鹿らしくなるでしょう?おまけに将軍は女遊びに夢中で執務室から出てくることはない。そうなればどうなるか分かりますよね?あれよあれよという間にこの有様ですよ。今や出勤率が半分以上になることはないですよ。」
「貴様よくもそんな出鱈目をペラペラと!?」
「出鱈目ではありません。何でしたら執務室の奥の部屋をご確認ください。来訪者があることが分かれば女性たちはそこに隠れているでしょう。」
それは面白い情報だ。
俺はシファを見る。
シファが首肯する。
質も質の奥の部屋には人が居るという事だろう。
「外の兵士たちにしたって同じ状況でしょう。都市の防衛のための巡回だけはやらせていますが、他はもうめちゃくちゃですよ。バカ騒ぎしてもサボっても文句も言われない。最近は税金を払わなくて良くなったうえに飲み食いしても安い。遊びたい放題ですよ。」
ほんとペラペラと喋るな。
だがお陰で詰みの状態だ。
「彼が言っていることが本当かは執務室の奥の部屋を確認すれば分かるでしょう。…もし真実だった場合、どう責任を取ってもらいましょうかね。」
俺はネレウス将軍を睨む。
ネレウス将軍の顔は青ざめていた。
ネレウス将軍部下に裏切られるの巻きでした。
彼の更生までもう少しお付き合いください。
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