13.無才の男、配下を得る。
「とりあえずそっちの事情は理解した。」
腕を組んで仁王立ちする俺の前にはルシフェルが正座している。
土下座という暴挙で戦闘を終了させたこいつはそのまま自分の事情を話し始めた。
人の管理を行おうとしている神なる存在を討つべく人を成長させるダンジョンを運営していたという内容だ。
「はっきり言って意味が分からん。だいたい神なんているのかよ?」
「私は天使と呼ばれる存在だ。…今は堕ちているが。この存在を持って信じてもらえんだろうか…。」
「そう言われてもな…。あんたが天使とか言われてもピンとこないし…。」
『我も一応神族に連なる存在だぞ!!』
「ややこしくなるからお前は話に入ってくるな。」
この話が本当かなんてウソ発見器でもないと判断着かないよなぁ…。
ものの本にはそう言った魔道具も存在すると書いてあった。
何でも裁判を行う際に主張の正確さを確認するために使われるそうだ。
というかぶっちゃけこいつの都合なんてどうでもいい。
俺は欲求不満なのだ。
漸く簡単に倒せない相手に巡り合えたと思ったらその相手がさっさと投降したのだ。
そのせいでイラついてるのが分かる。
あ、そうだ。
「ルシフェル。あんたのダンジョンマスターの力で強い魔物作れるか?いったんそいつと戦ってスッキリしないと何も頭に入ってこない。」
『いや、其方はこの状況で何を言っているのだ…。もうすっかり戦闘狂ではないか…。』
「シュラは黙ってろ。」
「…残念ながら、私の能力で作れる魔物には制限がある。90階層ボスのリッチキング位が限界だ。」
ダメか…。
リッチキングなんてただの雑魚だ。
この話さっさと終わらせて強い奴と戦いに行きたい…。
神なんて奴が本当にいるなら戦いに行くのはやぶさかではないが…こいつが助かりたくて嘘ついてる可能性もあるしな…。
リッチキング…リッチキングか…。
「…試してみるか。」
「は?」
俺は正座するルシフェルに対し右手をかざす。
「【眷属化】」
「え?…あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
ルシフェルは一瞬意味が分からないといった表情を浮かべた後、いきなり雷魔法を受けたかのようにのけぞり、苦しみだす。
そしてそれが収まると、信じられないといった表情でこっちを見てくる。
『け、眷属にしたのか?』
「ああ、これならこいつが言っていることが本当かどうか確かめられるからな。ルシフェル、質問だ。虚偽の回答は許さない。…さっきの話に嘘偽りはないな?」
眷属化の意図を理解したルシフェルが居住まいを正して答える。
「誓って真実だ。」
「…そうか、本当の話か。ならばその神とやらに挑むのも悪くない。俺は猛者と戦いに行く。出口はどこだ?」
『其方その戦闘狂キャラでこの先進むのか?』
シュラの言葉はスルー。
「あの魔法陣に入れば外に出れるようになっている。」
見ると部屋の中央に青色の魔法陣が浮かんでいた。
シュラを鞘に戻し魔法陣に向け歩き出す。
と、背後から声を掛けられる。
「えーと、目的が達せられたのなら【眷属化】を解いてほしいのだが…。」
「え?」
俺は歩みを止めてルシフェルを見る。
【眷属化】の解除?
どうやって???
「「…………。」」
『…眷属化関係はどちらかの死亡、又は最上級の解呪薬でなければ解消できなかったはずだ。…確かだが。』
「「ええええ!?」」
『いや、半端な覚悟で眷属化を使用した其方が悪い。』
「いや、知らんぞ!?…ハッ!?どちらかの死亡という事であれば今なら全力で殺し合いできる!?」
『その戦闘狂キャラ続けるんだな…。眷属関係は主従関係だ。従僕が主を攻撃できるわけがなかろう。』
「でも殺意は抱けるんだな。行動は抑制されているようだが。」
ルシフェルがニコニコしながら怖いことを言っている。
握りこぶしがプルプルしているから本当なのだろう。
「まぁ解除できないんじゃ仕方ないな。よし、ルシフェルも付き合え。よくよく考えたらどうやって神に挑むかも知らないんだったわ。」
「え?」
「俺と一緒に来い。俺はこの後世界をめぐる旅をするつもりだ。その途中で解呪薬が見つかるかもしれんし、お前がいれば神に挑むチャンスを逃さずに済む。」
「わ、私にお前に付き従えというのか??」
ルシフェルが顔を真っ赤にしている。
「ダンジョンから外に出たら神々に検知されてしまうんだぞ!?人族の配下に入ったなどと知られれば私は良い笑いものだぁ!!」
「『知らんわ。』」
顔を覆って悶えるルシフェルの首根っこを掴んで、引きずるようにして魔法陣に入る。
瞬間、視界が真っ白になった。
こうして俺は冥級ダンジョン【アビス】を攻略したのだった。