127.第二王女、王に呼び出される②
王戦。
この王国で行われる次期国王を決める戦いだ。
とは言っても実際に剣を取って戦う訳ではない。
これまでは経営者としての資質を問うため各地の領地経営をさせて最も領地を繁栄させた者を選ぶことが多い。
だが、その方法や基準は当代の王が決めることになっており、過去には隣国との緊張状態の時の王が強さを求めて候補者に兵を育てさせて殺し合わせたという記録も残っている。
「随分と悩んだのだがな、此度の王戦は領地経営とすることにした。」
私はほっと胸をなでおろす。
今は隣国とそこまで険悪な状態ではないので可能性は低いと思ってはいたが、人死にが出るような方法でなくて良かった。
まぁジークさんたちが居るので直接戦闘という方法だったら勝てる見込みは高くなるのだが…。
「期間は5年。この間君達に領地を貸し与える。そこで領地経営をしてもらい、経営者としての手腕を確認させてもらおう。」
5年。
思ったより長い期間だ。
「ではまず評価基準からだ。基準は3つ。『領地をどれだけ繁栄させることが出来たか。』『領民の満足度がどれだけ向上したか。』そして最後だが、今回は領地経営の最終年に余への贈り物をしてもらおうかと思う。その『贈り物の評価』。その3つを総合して決める。」
贈り物についてはこれまでに無い評価基準だが、おおむね領地を繁栄させることが評価に繋がるようだ。
「『領地をどれだけ繁栄させることが出来たか。』については税収を基準としよう。領地が豊かになれば税率を上げられるし、人が多くなればそれでも税収は増える。『領民の満足度がどれだけ向上したか。』については半期に一回全量民に対して王国から経営者に対する満足度調査を実施する。これについては事前に回答を強制するような指示を出したりしていることが判明すればその時点で王戦脱落とする。」
思わず顔をしかめる。
おそらくラズール兄様あたりも同じ表情をしていると思う。
税収と満足度。
この二つはどちらかと言えば相反する項目なのだ。
税収を増やすには税率を上げるのが手っ取り早いが、税率を単純に上げるだけでは満足度が下がってしまう。
つまり、満足度が変に下がらない適正な税率を定めて、その上で人を増やす。
そういった事をしていかなければならないという事だ。
私たちの表情を見てか王が少し笑う。
珍しく嗜虐的な笑みだ。
「最後の『贈り物の評価』だが、これについてはそれぞれ領地経営をしてもらう5年の間に何か『特産物』を作ってもらい、それを贈ってもらおう。価格は基準に含まず、そのものの評価だけで見ていく。」
今度は特産物と来た。
これについてはもう経営を始めてから考えないといけないなと思う。
ここで王は一泊置いて周囲を見渡す。
皆が王の次の言葉を待っている。
後は皆の関心が最も集まる決定事項なのだから。
「では、貸し与える領地についてだ。ラズールには王都西部、ドルフォン領を。オーヴェンには王都東部、フレンブリード領を。オリヴィアには王都南部、サイモン領を。ティアには王都北部、シュタイン領をそれぞれ貸し与える。」
これは…それぞれの候補者に試練を与える選定だ。
私が貸し与えられるシュタイン領は王国最北部にあり、魔族領と接している。
魔族からの侵攻も多く、軍事関係者が中心となっている領地。
おそらく平和主義である私に彼らを御せれるかを言う点を視ようとしている采配だ。
ラズール兄様はその逆。
ドルフォン領は聖王国セアルドと隣接する領地。
聖王国とは長らく友好な関係を築いていたためこの地にはまともな軍事能力がない。
しかし最近聖王国内の情勢が変わり、不穏な空気が流れていると聞く。
ラズール兄様に課せられた課題は辺境領地としての一定の軍事力を育てる事なのだろう。
オーヴェン兄様はもっと単純。
フレンブリード辺境伯の凋落により人が離れ経営が圧迫している領地の立て直しが出来るか。
頭の弱いお兄様の経営者としての手腕を見極めたいという意図だと思う。
オリヴィアお姉様に貸し与えられたのはサイモン領。
王都南部は自己防衛以外に軍事力を使用しないという方針を明確にしている永世中立国の魔法都市ザルモンテと隣接している。
人の行き来も多く戦争もないこの地域はすでに十分なほど栄えている。
自己中心的なお姉さまがこの地の豊かさに溺れて私利私欲に走らず、より発展させることが出来るかを視ようとしているように感じる。
全体を通して見ると、ラズールお兄様とオーヴェンお兄様に有利、私とオリヴィアお姉さまには不利な配置だ。
ラズールお兄様はそうでもないけれども、オーヴェンお兄様の貸し与えられた土地は今が底辺。
現在の状況を基準に向上量を評価基準にされているので最も伸びしろがあるのだ。
一方で魔族との戦争状態にあるシュタイン領では土地を豊かにする方向に注力することが難しく、オリヴィアお姉さまのサイモン領は既に栄えているので伸びしろが最も少ない。
男尊女卑とまでは行かないかもしれないが、女王になるならこのくらいのハンデは覆せと言われているような気がする。
「異論はないな?では、これより【王戦】を開始する!!」
王の宣言と共にこの国の命運を決める戦いの幕が切って落とされた。
いよいよ王戦始まりました。
やはりフレンブリード領に行くことになったオーヴェンさんが台風の目!?
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