125.踏破者、後始末を押し付ける。
しばらくすると闇オークション会場に大量の騎士たちが流れ込んでくる。
先陣を切っていたのはティアだった。
「何してんの!?」
俺の言葉は無視して騎士たちにオークション参加者の拘束を指示するティア。
騎士たちはティアの指示通り動き出す。
騎士たちを見送って仕事は終わったと言わんばかりに一息ついてティアがこちらを向く。
「ジーク、ご苦労でしたわね。」
あ、今は外行きモードなんだな。
さっきの騎士たちの手前そうなるか。
俺もその芝居に乗ってやる。
俺はティアに向き合うと敬礼の姿勢を取る。
「ティア王女殿下、手筈通りオークション会場の制圧、完遂いたしました。」
「ええ、侯爵家の方も同時突入で物証に加えて証人も複数確保しました。もう逃げ道はありません。」
そしてティアは俺の後ろで絶命している元王国騎士団長をみやる。
「カルロスさん…騎士団長はこちらに来ていたのですね。」
「ええ、やはり一人だけ飛びぬけた戦闘力を持ってましたよ。一般兵では最悪死者が出ていたでしょうから、こちらに来ていてよかったかもしれませんね。」
実際レクシアと打ち合うくらいの実力は有していたからな。
一般兵に囲まれたところですぐさま取り押さえることが出来るものではなかっただろう。
ティアが陣頭指揮を取っているのも俺の予想外だった。
アピールのつもりなのだろうが、元騎士団長クラスの相手と相対すれば隙をつかれてしまう可能性もある。
そう思っていることを察知したのかティアが弁明する。
「一応私の身はラマさんが守ってくれていますから大丈夫だったとは思いますよ。」
「ラマさん…ラマシュトゥか。来ているのか?」
「ここにおるぞ。」
そう言って何もない空間から突然現れるラマシュトゥ。
これは…転移魔法か?
「妾は建物の外におったのだ。魔法の届く範囲内で中の様子を窺っておったのよ。」
「なるほど、ちゃんと仕事をしていてくれたようで何よりだ。」
「主の命なのでな。ここでこの姿は少々目立つ。一旦建物の外に出ておるな。」
そう言って再び姿を消すラマシュトゥ。
長距離は無理なのだろうが便利な魔法だな。
【無才】の俺なら習得できるか?
今度シファに聞いてみよう。
俺はティアに向き直る。
「行商人の方はどうですか?」
「ええ、ここに来る前に報告がありましたわ。…あったのですが…。」
「…殺してしまいましたか?」
行商人の所へはレベッカとパズズ、レクシアを向かわせている。
レベッカはこの行商人に売り飛ばされた可能性が高い。
もしかすると人さらいの計画を立てていたかもしれない人間だ。
普段は冷静に見えるが復讐の相手を見て平静を保てるかは分からんからな。
「殺してはいないようですが、少し拷問したと聞きました。」
「…殺していないならまぁ、我慢した方でしょう。」
レクシアが止めてくれた可能性もあるかもしれんな。
であれば何か褒美を与えんといかんか。
何がいいかな?
「その点あなたは我慢しなかったようですわね。」
ティアはもう一度元騎士団長を見やる。
「本当は全員殺してやろうかとも思っていたんですよ。貴族連中を生かしてやっているんだから我慢した方でしょう?」
「確かに、貴族に人死には出ていませんね。護衛は何人も死んでいるようですが。」
「忠告に従わないような屑ばかりですよ。」
そう言って俺はにっこりと笑う。
会場の前列付近にいる貴族の女から「ヒッ」と短い悲鳴が上がる。
「…そこで笑える神経を疑いますわ。それに主催者側も随分派手にやっていましたね。」
「一応幹部連中は生かしておりますよ?情報も持っていないような下っ端は全て処分しましたが。」
ティアは頭を抱える。
今後の事を考えれば「やりすぎではないか」という批判が起るのは間違いないだろう。
その批判に対しどう対応するかを考えているのだろうか。
それに関しては若干申し訳ない気持ちもあるが、今回は全員粛清したい俺の望みを譲歩してやっている。
これ以上は無理だ。
俺は一歩ティアに近づくと小声で話しかける。
「レベッカも含めてになるが、俺たちは聖人君子ではない。法にも縛られない。許せないものは許せんのだ。これは被害者にしか分からない。対応に困るのなら放棄するのも手だぞ?」
ティアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに凛とした顔つきに戻る。
そして決意の籠った声で返事を返す。
「手放すつもりはありませんわ。…確かに私共の感覚ではやりすぎではないかと思う所もありますが、許容範囲です。その力が民の為になるよう動いているときは止めるつもりはありません。」
「良い覚悟だ。悪いが後処理は頼むぞ?ラマシュトゥ。聞こえているな?しっかり守れよ?」
『御意に。』
返事は期待していなかったがどこからか声が聞こえる。
もしかしたら声だけ転移という事も出来るのかもしれない。
俺とティアはオークション会場となった建物を出る。
建物の外では、誰も侵入できないように建物を囲う様に騎士たちが並んで立っていた。
それの外側では野次馬が遠巻きにこちらを覗き込んでいた。
「ティアはああ言っていたけど、正直私はもっと凄惨なことになると思っていたわ。」
不意にシファが話しかけてくる。
こいつは良く俺の事を理解しているな。
「正直、最初は全員処分するつもりだったからな。奴らを前に憤怒を押さえられる自信はなかった。」
「じゃあなんで?」
「んー。直前の脱走者討伐の件でストレス発散でもできたかな?」
「…ありえそう。」
うん、自分で言っていてありえそうだ。
「定期的なガス抜きは必要ってことだな。これからは自重が求められる案件前には適当に神さまでも召喚して相手してもらうか。」
「その発想はない。絶対ない。」
俺達は騎士の間を抜け、帰路についた。
やはりジークさんは我慢していたようですね。
まぁ歯ごたえのない相手も全滅させたところで満足していたとは思えませんが…
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