122.踏破者、第二王女と闇組織について話す。
「それで、いったい何があったんですの?『その時』と言うのは侯爵家への突入という事ですよね?…明日と言うのは本気ですか?」
ティアが紅茶を飲む俺に問いかけてくる。
その顔は少しやつれているように見える。
というか会う度に少しづつ疲れが溜まっていっているように見える。
「順を追って説明するよ。というか体調がすぐれないようだが大丈夫か?」
「…誰のおかげだと思っているのかしら…。こちらは気にしなくていいので話してください。」
「? じゃあ話していくか。ティアには侯爵家に調査に入ったって所までだったな?」
「ええ、繋がりのある裏組織をあぶり出すと聞いていますわ。」
「まず、侯爵家の金の流れを確認すると3件の不自然な金の流れがあることが分かった。1つは愛人向けなんだがな。そのうちの1件が闇オークションの組織、エマゴール商会と言うんだが、この組織向けのものだと判明して内部調査を敢行した。」
「相変わらずの即断即決ですわね。」
「迷ってる時間がもったいないからな。そしてそこで顧客データと違法奴隷を扱っていた証拠を押さえた。シファ。」
俺の隣に座るシファが頷き、資料を取り出す。
ティアにその資料を渡すが、何かを躊躇っているのかティアはその資料を閉じたまま中身に目を通そうとはしなかった。
「どうかしたのか?」
「…この中に私が懇意にしている人の名前がもしあったらと思うと…開けるのが少し怖いのですわ。」
気持ちは分からんでもないが、そんな感情に付き合う気はない。
どれだけ仲が良い人であろうと、その人が犯罪者だと分かれば断罪すべきなのだ。
知らなければ犯罪者でもいいんだとはならない。
「これから先、お前が王位に進む中で近づいてくる奴らもいるだろう。中には後ろ暗いことをしている奴らもな。今後、こんなことはいくらでも起こる。その道に進むのなら覚悟を決めろ。たとえ一人になってもやり遂げると。」
俺はティアから視線をずらさずにそう告げる。
彼女の瞳にはしっかりと覚悟の光が灯っているように感じた。
そして彼女は資料を開くとその内容に目を通し始める。
しばらく、静寂の中ページを捲る音が規則的に流れる。
そして資料の中身を見終わったティアはその資料を閉じ、深く深呼吸した。
「確認しました。…幸いと言うべきか、残念ながらと言うべきか、ヴァン侯爵家以上の大物の名前はありませんでしたわね。大半は子爵家以下の下位貴族の名前でした。」
「知り合いの名前はあったか?」
「…残念ながら。私に協力的だった貴族の名前もありますわ。」
「そうか。明日行動を起こすのに合わせて捕らえられるか?」
「さすがに全員は無理ですわね。伯爵家以上の数名なら何とか手を回せるかと言ったところでしょうか。…このことは王に報告して兵を動員する必要がりますが宜しいですか?」
「手段は任せる。」
「わかりましたわ。…これは流石に隠し通せないかもしれませんわね。」
「何の話だ?」
「こちらの話ですわ。続きをお願いします。」
「? わかった。」
ティアは何か懸念を持っているようだが、必要であれば俺達にも言うだろう。
こっちが気をもむような話でないなら聞くだけ無駄だ。
それはティアに任せよう。
「では次だ。侯爵家の不自然な金の流れの最後の1つだが、これの正体が昨日発覚した。行商人だ。」
「行商人?」
「表向きは各地を回っているようだが、定期的に王都に入っている。別に珍しいことではないんだが、コイツがどうも闇商品の運搬役を担っているようだ。」
実はこの行商人と闇組織であるエマゴール商会も関連しているようだ。
おそらくはレベッカのように地方で捉えた商品を王都へ持ち込んでいるのだろう。
ヴァン侯爵はエマゴール商会と付き合う中でその商品搬入ルートを知り、経費削減目的か特殊な要望でもあってこの行商人に接触したのだろう。
ヴァン侯爵、エマゴール商会共に行商人が王都入りしたタイミングで少なくない金額が支払われていた形跡があったのだ。
「なるほど、ちなみにその行商人の名前は?」
「代表はラフールという人物だ。3人組の行商人だな。」
「ラフール…聞かない名前ですわね。」
という事は王家との繋がりはなさそうだな。
「調査が順調だというのは分かりました。ですが、まだ調査・裏取りはまだまだ必要そうな気がするのですがどうして明日摘発なのです?」
ティアの言いたいことはわかる。
今順調に調査が進んでいるが、まだ末端までの全容は見えていない。
根絶を目指すのであればそれが分かってからでもいいという事だろう。
だが、このタイミングでなければならない理由があるのだ。
「実は今日、その行商人が王都に入ってきている。」
ティアの顔に驚きと緊張の色が走る。
流石にそれがどういうことかは理解したのだろう。
「今日商品の納入があって、明日夕刻にオークションが開催されるようだ。エマゴール商会で入手した資料の中に顧客に向けて発送された招待状の残りがあった。」
「…見過ごすわけにはいかないという事ですね。」
「ああ、レベッカのような被害者を減らす方が俺としては優先度が高い。」
「…わかりました。手筈は?」
「俺たちは闇オークション会場に潜入し、商品の保護と参加者の捕縛を行う。ティアには同時刻に闇組織と繋がりのある貴族連中の捕縛を頼みたい。王を説得するなら持っていけ。」
そう言って俺はシファに合図し、エマゴール商会の帳簿と金の流れを整理した資料をティアに渡す。
「これがあれば事後の立証は可能だろう?」
「ええ、…こちらは任せてくださいまし。」
そう言うとティアは侍女に王への謁見の取り付けを指示する。
よし、これで準備は整った。
明日、屑どもを一掃する。
「…そう言えば、ヴァン侯爵の愛人の件についても詳細お聞きしても?」
「? 別に構わんが。なにか気になることでも?」
「ふふふ…。スキャンダルというのは、醜いほど効果があるんですのよ。それに女の敵は徹底的に叩きのめさなければなりませんわ。」
俺はそう言って笑うティアに若干の恐怖を覚えた。
浮気、ダメ、絶対。
ティアの言っていた略奪愛や重婚がセーフなのかは彼女のみぞ知るです。
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