120.踏破者、【指定依頼】の達成を報告する。
王都北ギルドの扉が勢いよく放たれる。
ギルドの中にいたハンター達が視線を投げかける中、その視線を全く気にすることなくあたりを見回す猫人。
王都東ギルドのギルドマスターを務めるフェリスだ。
「フェリス。こっちだ。」
俺の眼前で確認作業をしていた男がフェリスに気付いてこちらに呼ぶ。
「ローレンス!報告は本当なのかにゃ!?」
フェリスがこちらへやってくる。
一瞬、奥の椅子に腰かける俺とも視線が合う。
「今照合中だが、間違いないだろう。脱走した囚人2名とうちのギルド員だ。」
俺たちが生かして連れ帰ってきた3人を手配書と見比べていたのは王都北ギルドのマスター、ローレンスだ。
連れ帰った囚人が無名に近い2名だったため、すぐに脱走者本人かわからないということで今照合作業が行われているというわけだ。
ちなみに照合作業は指紋の照合らしい。
床に寝かされている3人を確認した後、フェリスはこちらを見て満足げに笑う。
「まさかこんなに早く事態を収拾するとは思ってなかったにゃ。やっぱりお兄さんすごいにゃ。」
「思ったより近くに居たんでな。」
「あれ?でも他の脱走者はどこにゃ?Aランクの囚人も見当たらないにゃ。」
「ああ、それなら処理したんだと。場所を教えてもらって今うちの若いもんに確認に行かせてる。荷車を持ってな。」
そんな話をしていると再びギルドの扉が大きく放たれ、誰かが走りこんできた。
「マスター!!ただいま戻りました!!」
「噂をすればだな。おい!!遺体はあったのか?」
ローレンスに質問された男は姿勢を正して答える。
「はい、マークされたポイントに説明通りの状態で。」
そう言う男の横を別のギルド員が2名がかりで布の被せられた荷台を押しながら通る。
自然とギルド内に居たハンターたちが分かれて道を作る。
俺たちのところまできた荷馬車の、その布をローレンスが無遠慮に持ち上げる。
「ベルガルトとスカーレットだな。間違いない。これで確定だな。」
そういうとローレンスは荷馬車の布を戻して俺たちに向き直り、頭を下げた。
「今回の件、北ギルドの不祥事を片付けてくれて助かった。感謝する。」
ローレンスはハンター上がりの鍛えられた体とぶっきらぼうな物言いの男だったので、こういった謝意を示せるのかと若干面食らった。
まぁ悪い気分ではない。
「受け取っておくよ。まぁこっちも依頼でやったことだ。報酬をもらえればそれで問題さ。」
「報酬の件はもちろんだが、これはケジメでもある。このギルドの防備体制の不備と、ハンターの仲間を失ったのは俺の責だ。」
「それはその通りにゃ。『蒼天の月』の損失は計り知れないにゃ。減俸で済めばいいけどにゃ。」
「どんなペナルティでも受けるさ。そして別に『蒼天の月』にも償いをする。」
「相変わらずまじめで暗いにゃ。つまらんにゃ。」
どうやらフェリスとローレンスの仲は悪いわけではないようだ。
「でもベルガルトとスカーレットをどうやって倒したにゃん?2人とも戦闘力は凄く高いにゃん。」
「男の方はレクシアが1対1で倒してるな。残念ながらどんな感じかは俺は見てないが。」
「おおお、流石【剣姫】にゃ。【暴風雨】のベルガルトを真っ向から倒してしまうにゃんて凄いにゃ。」
「ふっ。ここ最近の修行の成果で私はどんどん強くなっているからな。」
「女の方は俺がやった。」
「こっちも1対1でかにゃ!?お兄さんは【百眼】のスカーレットも倒してしまうくらいの実力だったのにゃ!?」
「俺らを送り込んだのお前だろうが。」
ハンターの実力の見極めがどうとか言ってたのに倒せないと思っていたのか?
Sランクと見てるとかリップサービスか?
「いや、うちは3人で協力して少しずつ数を減らすような戦法を取れればいけると思ってお兄さんたちに依頼したにゃ。正面から行くとは思ってなかったにゃ。」
なるほど、そういうことか。
「しかし盗賊団の頭領にまで二つ名が付くんだな?」
「有名どこはにゃ~。ギルドが付けてるわけじゃないけど、自然と呼ばれるようになるにゃ。」
「スカーレットの場合は」後ろにも目が付いてるのかってくらい死角からの攻撃や不意打ちが効かない所からきてるって話だな。捕縛時もうちのギルドで盗賊団壊滅作戦の合同依頼を発して物量で押し込んだんだ。それでもだいぶ手を焼いたって事なんだがな。」
確かにあの氣とやらを読む力があれば不意打ちくらいは回避できそうだ。
…俺にも扱えないかな?
時雨流刀剣術とか言ってたな…時間が出来たら尋ねてみるのもよさそうだ。
「さて、では報酬の話にゃ。お兄さんと魔術師のお姉さんはAランク昇格。【剣姫】のお姉さんはCランク昇格。加えて【指名依頼】達成報酬で70万ギラ。問題無いかにゃ?」
「ああ、問題ない。」
「これでお兄さんたちは晴れてAランクハンターにゃ。加えて『名無し』も規定によりAランクパーティに昇格にゃ。おめでとうにゃ。これでやっと東ギルドにもAランクパーティが登録されたにゃ。難しい依頼を押し付ける先が出来たにゃ。」
「後半本音が漏れてるぞ。てか東ギルドにAランクパーティいないのかよ。」
「東ギルドは市民目線の活動を心掛けてるから比較的難易度の低い依頼が多くて高ランクハンターからは敬遠される傾向があるにゃ。でも難易度の高い依頼が全くないわけじゃなくて、これまでは他のギルドに任せるしかない状況だったにゃ。」
フェリスがうんうんと頷く。
「あ、お兄さんと魔術師のお姉さんはAランクになったから二つ名が付くにゃ。Aランクに上がるまでに俗称みたいなのが無い場合は所属ギルドのマスターが決めて良いことになってるからうちが決めるにゃ!!期待するにゃ!!」
そういうフェリスの目は爛々と輝いている。
二つ名って決められるんだな…。
フェリスに決められるというのは不安しかないが、自分で決めるというのもおかしい…。
任せるしかないんだろうな。
俺は小さくため息をついた。
ギルド内に遺体がある状況に動じる人はいません。
治安の悪い所では普通に町中に死体が転がっているところもある槍そうです。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!