12.無才の男、話を聞かない。
ルシフェルは妖艶な笑みを見せながらまた何かのスキルを使用したようだ。
俺の全身を悪寒が走る。
この感覚は最初にルシフェルと会ったときににも感じたものだ。
また鑑定のようなもので俺の状態を確認されたのだろう。
「は?」
次の瞬間、ルシフェルがぽかんと間抜けな顔をして声を発した。
かと思うとそのままフリーズしてしまう。
俺は容姿が整った人が間抜けな顔をしても様になるんだな。なんてことを場違いにも考えていた。
「…いや、ありえない…。一体どうやって…?」
今度は震える声で何か独り言を呟き始めるルシフェル。
「なぁシュラ?あいつは何をしてると思う?」
『…我が思うに、其方の強さを知って驚愕しておるのだろう。』
「俺があいつに届きうる強さになっているってことを認識したって事か。なら、こっちをなめずに全力を出してくれるってことだな。」
俺は何とも言えない空気に緩みかけていた気を張り直し、シュラを構える。
「ルシフェル!!いつまで呆けている!!構えろ!!」
『いや、そうではなくてだな…。』
シュラがなんか呆れたような声を出していたが、俺は構わず精神を集中させる。
こちらの声掛けに気が付いたルシフェルが慌てたように両手を前に突き出す。
「いや、ちょっと待て!!もう私と戦う必要はない!!」
ルシフェルが何か言ったようだが、戦いに集中しきった俺にその音はもう届かない。
両手を突き出したその姿勢を攻撃魔法の発動体制と見た俺は瞬時に【縮地】を使用し奴に肉薄する。
そしてそのままシュラを振りぬく。
「っ!!【神の盾】!!」
カァン
俺の一撃はルシフェルの展開した光の盾によって弾かれた。
斬撃をまともに躱されたのは80階層のボス・フェンリル以来だ。
「良いぞルシフェル!!そうでなくてはな!!」
距離を取ろうとするルシフェルに再度【縮地】を使用し接近すると今度は【剛力】を合わせた斬撃を叩きこむ。
「話を聞けぇ!!」
ガィン
『止めてぇ!!痛い!!』
俺の斬撃は再び光の盾によって防がれる。
まるで鉄の棒で地面を全力で殴ったときのような反動としびれが手に伝わってくる。
シュラが何か言ったようだが「まさか俺に切れないものがあるだと」というよう感覚なのだろう。
俺も同じ感覚だ。
「【剛力】をもってしても傷一つつかないとはやるな!!だが守っているばかりでは勝てんぞ!!」
ルシフェルは、今度は飛翔して距離を取ろうとしている。
徹底して距離を取ろうとする戦闘スタイルから魔法使い型と俺は予想する。
あれほどの防御魔法を使用できる相手だ。
距離を取り高威力の魔法を連発でもされれば手も足も出なくなってしまう!!
俺は【空歩】を使用し空を駆けるも、その速度は【縮地】より遅く、ルシフェルの飛翔には及ばない。
少し距離が空いたと見るや再び奴は両手を突き出してくる。
「参った!!降参するから話を見いてくれ!!」
ルシフェルが呪文の詠唱を始めた!?
高威力の魔法は呪文詠唱や魔術陣の補助を受けて発動するという。
つまり奴はこれを機とみて攻撃に転じようとしている!!
「【暗】」
俺は咄嗟に【闇魔法】を使用する。
途端にルシフェルの周囲に闇の霧が生まれ、視界を完全に遮断する。
同時に俺は【空歩】でルシフェルの上方に向かうよう軌道を変える。
相手の位置がわからなければ高威力魔法も発動できまい!!
そしてこの魔法の利点は、使用者からは中が丸見えだってことだ!!
俺はルシフェルの真上から急降下し、【剛力】に重力加速度を載せた一撃を叩きこむ。
ガァン
だがこの一撃も全方位に発動した光の盾で防がれてしまう。
『いってぇぇぇ!!折れちゃう!!折れちゃうからぁ!!』
「…闇に包まれた一瞬で攻撃魔法を防御魔法に切り替えたか。思考も柔軟だな。」
「『お前(其方)は、話を聞けぇ!!』」
攻撃を防いだものの、空中では踏ん張りが効かないためルシフェルは地上にまで落下している。
またこちらに向かって何か叫んでいる。
呪文の詠唱だな。
「そうはさせない!!」
俺は宙を蹴り、一直線にルシフェルへと突っ込む。
「『こいつダメだぁ!!』」
俺が地上に降りると、再びルシフェルが飛翔体勢に入る。
空中戦では奴の方が早い。
なら飛ばせないようにするだけだ!!
「【圧】!!」
ルシフェルの周囲に重力場を発生させると、奴は体勢を崩して地上に落下する。
「貰った!!【縮地】!!」
ルシフェルの周囲の重力場は発生したままだが、俺は構わずその中に入る。
今度は【剛力】に超重力の加速度を加えた一撃を放つ。
放とうとした瞬間だった。
「お願いですから話を聞いてください!!」
ルシフェルが土下座した。
その戦闘中には取りえない行動に混乱した俺は動きを止める。
集中も切れて周囲の音が入ってくる。
「参りました!!降参します!!私の話を聞いてください!!」
『もう嫌だ!!其方の武器してたら死んでしまう!!心が折れたぁ!!』
え?何この状況?