119.踏破者、脱走者を駆逐する④
スカーレットの踏み込んでの一振りを俺はバックステップで躱す。
続けて2度、3度と刀を振りぬいてくるがその全てを躱す。
剣筋はしっかりと修練を積んだもののようだな。
そして氣とやらによる周囲の把握は俺の位置を正確に捉えてはいるものの、その姿が見えているわけではないようだ。
斬撃は俺の急所を狙っては来ていないのだ。
単にこいつを殺すだけならいくらでも方法があるが…。
ここで俺は【暗】の暗闇を操作し、スカーレットの周囲を開けさせた。
必然的に俺もその身を晒すことになる。
「…何のつもりだい?」
急に視界が確保されたことに戸惑っている風だな。
まぁこちらの優位をわざわざ捨てるような行為だ。
普通は理解できんだろう。
「なに、まともな剣士と相対したのが久しぶりでな。切り結んでみたいと思っただけだ。」
そう言って俺はシュラを中段に構える。
そして【鉄壁】スキルを解除する。
鉄壁は魔力を消費して圧倒的な防御力を得るスキルだ。
膨大な魔力を持つ俺は常時発動しても自然回復する魔力の方が多いため、このスキルは常時発動させていた。
いままでこの鉄壁を貫通されたことはないのだが、最近はそれが少し気になってきていた。
俺はこのスキルに慢心しているのではないか?
どうせ攻撃が通らないからと言って攻撃を受けたり避けたりすることを止めてはいやしないか?
そういった敵の攻撃を捌くスキルが失われていっているのではないか?
もし、鉄壁を貫通する攻撃を持つ敵が現れた時、俺はそ攻撃を捌く腕を磨いていないことを後悔するのではないだろうか…。
そうして今出した結論がこれだ。
鉄壁スキルの封印。
「悪いが俺のリハビリに付き合ってもらうぞ!!」
そう言って俺は一歩踏みこみ真っ向切りを放つ。
「ちっ!!」
スカーレットはその一撃を一歩後退して躱すと、俺の振り終わりの隙に突きを放つ。
俺はそれを体をねじって右に躱し、切り上げを狙う。
だがその前にスカーレットが突き終わりの刀をそのまま俺の目掛け薙いで来た。
俺は攻撃を中断し、シュラを引き上げてスカーレットの刀を受ける。
そして俺はその刀を弾き飛ばしてスカーレットの体勢を崩そうと試みる。
だが、刀を弾くのと同時にスカーレットは大きく飛びのき、距離を取ってきた。
そしてお互い構え直す。
いい。
相手の刃がこちらに届き得るというだけでこの緊張感。
気分が高揚するのが分かる。
いつのまにか周囲の音も聞こえなくなっている。
いかんな。シファとレクシアに任せているとはいえ、他にも敵がいる場なのにこの立ち合いに集中し過ぎてしまっている。
そう考えている頭があるにもかかわらず、神経はより目の前の敵に集中していく。
そしてお互い同時に一歩を踏み出し、再び命を取らんと刀を振るう。
お互い致命傷を与えられない攻防を何度も繰り返す。
だが、その均衡は突然崩れた。
俺の袈裟切りを避けられないと見たスカーレットが、刀でその一撃を受けた瞬間、バキンと音を立ててその刀が折れてしまったのだ。
俺の袈裟切りは多少威力を殺されながらもスカーレットの体に深く入り込む。
噴き出す鮮血と共に仰向けにスカーレットは倒れこんだ。
「…武器の差が勝敗を付けちまったかい。ま、仕方ないさね。」
口からも鮮血を吐きながら、どこか満足そうにも見えるスカーレット。
その姿は戦士として死ねることを本望と考えているように見える。
俺にはその気持ちがわかるような気がする。
切り結んでいる間の満足感はまだ体に残っている。
『ふはははは!!我をその辺の刀と一緒にしてもらっては困るな!!圧倒的な切れ味!!耐久度!!そして刃毀れしてもすぐ回復する自動再生能力!!この結果は当然だな!!』
「よし、お前は一度溶かして打ち直す。」
『えええ!!??え!?殺気!?戦ってる時より濃厚な殺気が放たれておるぞ!?我に対してか!?なぜ!?』
「空気読め。マジで打ち直すぞ。」
『お願いだから止めるのじゃ!!最近出番無いからここだ!!と思って出てみたんじゃ!!』
俺は大きくため息を吐く。
まったく。
いい気分が台無しだ。
スカーレットの様子を見るともうすでに事切れていた。
その表情に変化がないことから、最後のシュラとのやり取りは聞かれていないようで安心する。
ふと周りを見ると、シファもレクシアもそれぞれ役割を果たしたようで並んで手ごろな岩に腰を下ろしてこちらを見ていた。
「シファ殿、ドン引きだ。」
「言ったでしょ。制約を掛ければ楽しめるってことを覚えちゃったから、そのうち貴女に真剣での切り合いを申し込んでくるわよ。」
「それは…命のやり取りをしないやつだよな?」
「あの相手を切り伏せた後の恍惚とした表情を見たでしょ。一回始まったら相手を殺すまで止めないんじゃないかしら。」
「う、ならばその決闘は絶対に受けてはいけないな…。」
どうやらスカーレットとの立ち合いを途中から見られていたようだ。
「ちゃんと相手は見極めてるさ。」
「どうだか。」
「そっちはもう終わってるんだな。」
「見ての通りだ!!」
レクシアが胸を張って後方を指さす。
そこには胸に大きな傷のある禿頭の大男と、見た目外傷のない優男が倒れていた。
そしてもう一人、【光拘束】で自由を奪われた闇商人の姿があった。
顔には何重にも【光拘束】が施されており、表情は伺えないが生きているようだ。
と言うかあれ息できるんだろうか…。
ふと疑問が浮かんだが、別に息が出来なくても俺は困らなので気にしないことにした。
さあ、さっさと事後処理を済ませてしまおう。
久し振りに狂キャラが顔をのぞかせましたね。
これからどんどんこいつヤバい的な所を出していきたいと思っています。
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