118.踏破者、脱走者を駆逐する③
「反応あったわ。6人ね。」
森の深部に向かう中でシファがそれを感知する。
「6人か。脱走者が5人と協力者が1人か。何をしているかわかるか?」
「…野営準備かしら?すぐそばにテントが3張出来ているわ。火も起こしてるみたいね。」
「なら食糧調達に分かれるかもしれんな。このまま少し様子を見てもいいのではないか?」
「ほう?レクシアは野営経験があるんだな。」
「ふっ、騎士団の訓練でな。あの時は食料を探しに森に入った途端魔物に襲われて…」
「それもありだが、もう2人倒してるからな。帰りが遅いと怪しまれたら突撃するしかない。【遮音】【隠密】を併用しながら風下に回ろう。視認できないギリギリまで近づいて話を盗もう。」
俺の言葉にシファが頷く。
レクシアもその可能性に気付いたか少々がっくりしながらも頷いてくれた。
警戒しなければいけないのは誤って視界に入らない事と、やはり【探知】だ。
だが、脱走をアシストした1人を除いて才能は割れている。
斥候を本職としている奴もいなさそうだしリスクは低い。
実際、俺たちは特に問題なく脱走者のキャンプに近づくことが出来た。
この位置なら風に乗って奴らの声もギリギリ聞こえる。
「…これからどうするんだ?」
「まずは王都から距離を取ります。そして西へ移動して聖王国へ行くつもりです。」
「聖王国セアルドへ国外逃亡か。俺たちの関係もそこまでか?」
「ええ、潜伏するにしても顔を変えるのにも人数は少ない方が良いでしょう。」
「アタシは異論ないよ。どこに居ようとやる事は変わらないからね。この国じゃ顔が売れ過ぎたし国外へ行くならいいタイミングさ。」
「私もやれることと言えば物の横流しだけですからね。聖王国には伝手があるんで顔を変えれば商売はできるでしょう。その時はうちにも商品流してくださいよ?」
どうやら丁寧な口調で話しているのが闇商人のレベリオのようだな。
話の感じからして主導はやはりこの男か。
そして顔が売れ過ぎたと言っているのは盗賊団頭領のスカーレットのようだな。
最初の男は分からないが…2人とも洗脳されていると言った感じじゃないな。
「まだ追手はかかってくるんだろ?油断してるとその辺にもう追手が来てるかもしれんぞ?」
ちょっとドキッとする。
これは最初の男の声だ。
「ベルガルトさんはゴツイのに心配性ですね。ですから念のために斥候職の彼女にトラップを仕掛けに行かせたんじゃないですか。」
「そいつの腕は信用できるのか?」
「一応彼に聞いて、囚人の中で一番高ランクの窃盗職を調達したんです。大丈夫でしょう。」
「実際追手はかかるのかね?」
「まぁかかるでしょうね。ですが…。おい、追手が掛かるとして前の奴らより強いパーティはどれくらいいるんだ?」
「…前のパーティは『蒼天の月』、…Aランクパーティです。…王都には他にSランクパーティが1つ、Aランクパーティが3つありますがいずれも地方の依頼を受けていて王都には居ません。」
「だそうです。あの3人組を撃退した以上、それ以上のパーティはいないようです。数で攻められると辛いですが、それだけの人数を集めるまでに逃げ切れます。」
「情報も引き出せるのかい。ずいぶん便利な能力だね。」
「洗脳できる対象はかなり制限がありますがね。ベルガルトさんやスカーレットさんは勿論、ガレオンさんたちにも効かない不便なスキルですよ。」
これで闇商人レベリオが洗脳の能力持ちで確定だな。
厄介なのはギルド職員が洗脳状態と思われるという所だな。
流石に殺すわけにはいかなくなる。
「しかし遅いですね。食糧調達にもいかなければなりませんし、一度確認しに行きますか。」
「うちの2人に確認させようか?」
「…いや、万一を考えると全員で行動した方が良いでしょう。」
おっと、情報収集はここまでだな。
俺はシファとレクシアに指示を出す。
「レクシアはベルガルトを。シファはギルド職員の男の無力化とレベリオの相手を。俺は盗賊団の3人をやる。…た躊躇わずにな。」
シファとレクシアが頷くのを確認し、茂みを飛び出す。
一瞬で脱走者の配置を確認する。
「なっ!?追手か!?」
勿論気づかれるが先手さえ取れれば問題ない。
「【暗】」
俺は短く魔法を発動する。
一瞬にして脱走者たちが暗闇に包まれる。
俺はそこからその暗闇を操作する。
暗闇を壁のように使い、レクシアとベルガルト、シファとレベリオ・ギルド職員がそれぞれ一つの空間に入るように。
「何も見えない!?いったいどこにいった!?」
残念だが盗賊団はそのまま暗闇の中だ。
何せ俺の魔法で、術者自身は中が見えているのだから。
俺はジュラを抜き放つと、ガレオンとラインハルトと思われる取り巻きの男2人の首を切り落とす。
暗闇に混乱した2人は何の抵抗もなく倒れる。
「ちっ。」
スカーレットは腰に差していた刀を抜き放つと、俺目掛けて刀を振りぬく。
俺は後方へ下がりその一撃を回避する。
しかし驚いた。
見えてはいないはずだが、正確に俺へと攻撃を仕掛けてきたぞ?
良く見るとスカーレットは両の目を閉じていた。
どうやら気配みたいなものを感じて攻撃してきているようだ。
「よく俺の位置がわかるな。」
つい話しかけてしまう俺。
「アタシは時雨流刀剣術の使い手だよ?あんたの位置なんて氣を読めば手に取るようにわかるさね!!」
そう言ってスカーレットは俺に向かって一歩踏み込み、刀を振りぬいた。
刀剣術の使い手なのでなんとなく和っぽい名前にしようかとも思ったのですが、なんとなく止めました。
つまり、モブキャラの名前はなんとなくで決めています。
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