117.踏破者、脱走者を駆逐する②
「こっちはダメだな。というか師匠、手加減が下手過ぎないか?」
レクシアが俺に殴り飛ばされた男の足を掴んで後ろ手に引きずりながらやってくる。
その男の顔は陥没しており、首が千切れかかっていた。
えげつないことになっているな…。
もしかしたら生け捕りにできるかも。でも意識を飛ばせないと声を出されてしまうからちょっと強めにと言う感覚だったのだが…。
これなら首を切り落としてやった方が良かったかもしれない。
まず俺たちは手配書と2人を照会する。
男の方は顔がぐちゃぐちゃになっていて判別しにくかったが、ギリアムで間違いなさそうだ。
白目をむいて今も気絶している女の方はミーシャだ。
脱走者のうちの2名だな。
「ジーク、この子【解析】してみたんだけど、【洗脳】の状態異常にかかってるわ。」
白目をむいた女の方を視ていたシファが告げてくる。
洗脳?
何だそりゃ?
「何時、誰かからは分からないし、洗脳自体も微弱なものから強固なものまでさまざまだけど、誰かそう言ったスキルを持っているみたいね。」
「事前情報にそう言った類のものはなかったな。」
「闇商人か協力者の可能性が高いのだろう?我々がそう言った洗脳にかかる可能性もあるのではないか?」
「ないとは言い切れんな。シファ、知見あるか?」
「あんまりね。ただ、精神感応系のスキルは使用者より強い相手には効かないのが普通だからジークや私は大丈夫だと思う。」
「ちょっと待て、私は!?」
「レクシアは弱いからないとは言い切れない。」
「ぐぐっ、何という屈辱。師匠より弱いのは自覚しているが、貴女の実力は知らないぞ。いうほど強いとも思えんが?」
「神族の私に喧嘩を売るなんて100年早いわよ。」
「はいストップ。」
取っ組み合いのけんかが始まりそうな雰囲気を察して止めに入る。
今そんなことしてる場合じゃないしね。
「じゃあシファ、【強制自白】よろしく。」
シファにそう言いミーシャに気付けを行う。
「う…。何が…。」
「【強制自白】」
意識が戻ったミーシャに間髪入れずにシファが魔法をかける。
すぐにミーシャは視点が定まらなくなり、全身の力が抜けた様にぐったりとしてしまう。
よし、【強制自白】かかったな。
「お前たちはどうやってギルドを脱出したんだ?」
「…う。…あ。」
試しに質問してみたが回答がない。
以前魔族に使った時はペラペラしゃべってたのにな。
「シファ、これ失敗か?」
「魔法自体は問題なくかかってるはず…もしかしたら洗脳の影響かも。【解除】、【強制自白】。」
【解除】は以前レベッカの呪いを解除したやつだな。
洗脳も解除できるという事だろうか。
ミーシャの様子をそのまま窺っているが、特に変わった様子はない。
もう一度同じ質問をしてみようか。
「お前たちはどうやってギルドを脱出したんだ?」
「…私が入れられていた牢の前に人が来たの。それで『ここを出よう、協力してほしいと』男の人に言われて…。その人の目を見て、吸い込まれそうな感覚を覚えて…その後はわからないわ。」
「…その人ってこの中に居る?」
「…レベリオ…この人よ。」
「そうか…他に覚えていることは?」
「…。」
「じゃあ最後の質問だ。あんたはその男が脱走しようと誘ってきて牢の鍵を開け放ったらどうする?」
「…牢に留まるわ。私の罪は服役刑のはずだし、執行猶予も与えられるかもしれないし…。」
俺はその答えに納得する。
気にはなっていたのだ。
賞金首のリスト、彼女の金額だけ異様に安いことに。
理由は明白で、犯した罪の重さだ。
他の脱走者は殺人等の重犯罪者で、彼女の窃盗・強盗とは違うのだ。
なので、彼女が脱走を行う理由は少ない。
「彼女は利用されたって事なのか?」
ミーシャの回答を頭の中で整理していたのだろう。
レクシアがそう聞いてきた。
「おそらくな。おそらく闇商人のレベリオが洗脳術の持ち主だ。もしかしたら脱走を手助けしたハンターかギルド職員かも洗脳されている可能性があるな。」
「洗脳のキーは瞳を見る事のようね。視線を合わせないように注意しましょう。」
「…この女はどうするんだ?」
俺は意識が朦朧としているミーシャを見る。
「まぁ重犯罪者でもないし、操られているだけだったなら殺したりはできんな。ここで寝ていてもらおう。シファ、【強制睡眠】と【聖域結界】を頼む。」
「まぁそうね。分かったわ。」
その場に眠らされたミーシャを結界と共に置いていき、森の深部を目指す。
「…他の脱走者についてはどうするのだ?洗脳されているだけという可能性もあるんだろう?」
声の主は難しそうな顔をしているレクシアだ。
確かにレベリオ以外の脱走者も洗脳状態にされてレベリオの手足として働かされている可能性は高い。
「変わらん。自身の身の安全を優先させろ。戦闘になれば殺すつもりでやれ。だが、必ずしも殺す必要はない。捕縛は無理なく出来る時だけだ。」
俺はレクシアにそう言い放つ。
相手の内情が分かろうと関係はない。
戦闘になれば生き残ることを優先させる。
何百年と戦ってきた俺が順守してきたルールの一つだ。
現実世界の自白剤は後遺症があるそうですが、シファさんの矯正自白は後遺症なく回復しますので心配無用でございます。
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