107.踏破者、王女へ調査結果を報告する。
拠点に戻ってラマシュトゥ伝いにティアのスケジュールを確認すると、ちょうど先程王都に帰還したところらしい。
少し休ませてほしいと懇願もされたが、俺の都合を優先させてすぐに面会する運びとなった。
今は王城へ向かう準備をしている最中である。
一介のハンターではなく、王族専属騎士としていくので相応の服装へと着替えたりしているのだ。
「シルバ、頼みたいことがある。」
俺は衣類を回収しに来たシルバに言う。
「何なりと。」
俺は侯爵家で帳簿の複製を入手したことと、その帳簿から闇組織への手掛かりを探そうとしていることを簡単に説明する。
「で、後で俺とシファも加わるから先に調査を始めておいてくれないか?」
「承知しました。メルとリルがそう言った作業を得意としておりますのでご期待に添えると思います。」
「そうなのか?…何というか、意外だな。」
「そうですね。彼女らは素行に問題はありますが、事務作業に関して言えば相当の練度を有しております。そこいらの執事では相手にならんでしょうな。」
「…孫バカの可能性があるから半分聞き流しておくが、それでも素行…というか性格か?に問題があるとは認識しているんだな。」
「まぁ、貴族家に仕えるものとしては失格なレベルであるとは認識しています。」
「それでも矯正はしないんだな。」
「彼女らの個性ですから。人は機械にはなれませんので。」
「まぁいいんだがな。俺も別に貴族ではないし。じゃあ帳簿の件頼んだぞ。」
「畏まりました。」
その後、同じく着替えを終えたシファに侯爵家で入手した資料を全て出してもらい、それをシルバ達に手渡して拠点を出た。
途中レクシアに会ったので帳簿の調査の事について聞いてみたが、『帳簿など見たことはない。財布の中に使用する分の現金があればいいのだろう?』とか言ってたのでこの件からは外すことにした。
やはりあいつは脳筋だったな。
拠点を出た後は真っすぐ王城へ。
王族専属騎士の記章を提示すれば検問はスルー出来るのでそんなに時間はかからなかった。
王城から王族の居住区へ。
前の第一王女のように絡まれでもしたら面倒だなと思っていたが、道中は誰とも会う事はなかった。
ティアの自室の前まで来るとドアをノックする。
「ジークだ。」
「お入りください。」
返事を聞いて部屋の中へ。
ティアはソファに座ってお茶を飲んでいた。
後ろで侍女が3名せわしなく荷物の整理をしているところからも、『先程王都へ帰還したところ』というのも本当に先程だったのだろう。
因みにラマシュトゥはベッドで仰向けに寝ていた。
魔神に従者としてのマナーみたいな概念はないので諦められているのだろう。誰からもその様子を指摘されてはいないようだった。
俺とシファはティアの対面になる位置に座る。
近くで見るとティアの顔には疲労の色が見える。
碌に休みも取らずに王都とフレンブリード領のスリアドの往復を強行したのだ。
そりゃ疲れも溜まる。
と言うかそうさせたのが俺であるという事はこの際言いっこなしだ。
「それで、今回はどんな要件ですの?…正直、隕石騒ぎの後始末で大きなストレスがかかっているので胃に優しい内容だとありがたいのですけど…。」
「その前に人払いを頼めるか?」
俺のその言葉に少し驚いたティアだったが、すぐに侍女を部屋から出すように指示を出す。
部屋の中に残っているのはティア、ランドールさん、ラマシュトゥ(睡眠中)、シファ、俺だけになる。
ここで俺はシファに侯爵家で入手した計画書(案)を出してもらい、ティアに渡した。
内容を確認するティアの表情に険しいものが入る。
「アルカディア魔道具研究所にコンタクトして彼らが潔白であることを確認した後で協力体制を敷き、侯爵家の調査を行った。結果、侯爵家は闇組織と繋がりがあり、国家反逆をも企んでいる可能性があることが判明した。そのほかの余罪については現在調査中だ。」
「…話が飛躍し過ぎて頭が割れましたわ。」
「割れたのかよ。良いから聞け。レベッカの件で睨んでいた通りの調査結果であったことから、俺たちはこの後侯爵家と繋がりのある闇組織を洗い出したのち全て潰すことにした。」
「…誰からの依頼でなくともですか?」
「ああ、これは俺がこう言うのを許せないってだけの話だ。損得じゃない。」
「であればそれを止めることはできませんわね。まぁ止めるつもりもありませんけど。それで、私は何をすればいいのです?」
「侯爵家を潰した後だな。第二王子派閥のスキャンダルであることを報じることと、侯爵家参加の組織で有益な所を囲う準備だ。」
これに少し考えるそぶりを見せるティア。
だが、その意図を正確に汲み取ったようで神妙に頷く。
「分かりました。こちらでも秘密裏に事を進めておきましょう。…猶予はどれくらいですか?」
「侯爵家と関連のある闇組織の全容が見えていないから何とも言えんが、おそらく2~4週間のうちに仕掛けることになるだろう。」
「あまり時間はありませんね。急ぐようにしますわ。…しかし、ジークさんを王族専属騎士に抱えてからこっちはずっと荒波に飲まれているような状況ですわ。少しは休ませてください。」
「その荒波を越えた先が王座なんだ。我慢しろ。」
一つため息を吐いたティアだったが、すぐに真剣なまなざしを俺に向ける。
どうやらこれで話は終わり。という訳ではないようだ。
「ところで、ジークさんとシファお姉さま。いつもより距離が近くありませんか?」
ティアの視線は俺とシファを交互に見やる。
俺は予想外の方向の質問に詰まり、思わずシファの方を見やる。
シファはその視線をなにか勘違いしたのか、頷いてティアに告げた。
「ティア。私とジークはもう相思相愛なの。もう男女の仲なの。だからあなたの想いには応えられない。諦めて。」
「な、な、な、なんですってー!!!!!」
取り乱すティアを楽しそうに眺めながら腕を組んでくるシファ。
やってやったと言うような表情だが、俺はため息しか出なかった。
5日間の馬車旅の疲れ…新幹線3時間でダウンする私からすると想像を絶するものなんでしょうね。
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