106.踏破者、調査結果を研究所と共有する。
侯爵家の調査を終えた俺たちは一旦アルカディア魔道具研究所へと帰還する。
そしてそのまま会議室へ。
所長であるエレオノールさんも交えて調査結果を報告する。
まずは研究所に依頼されている『魔物を操作する魔道具』の用途についてだ。
シファに頼んで異空間収納から『計画書(案)』とだけ書かれたファイルを出してもらう。
「【複製製作】とか聞いた時にはそんな魔法実在するのかと疑っていましたが…こうして目の当たりにすると…いろいろ恐ろしい魔法ですね…。」
「ひょっとして~、私たちの納品書も複製してますか~?別に困るものじゃないんですけどね~。」
「いや、あの時はこの研究所が犯罪に加担しているかどうかを見極めたかっただけだから何もしていない。」
これは本当。
「良いですよ。僕の事務室には見られて困るようなものは置いていませんから。あ、その納品書のメモ書きは侯爵家に見られるとまずいですが。」
そう言ってクックと笑うジルオールさん。
しかしその笑いも侯爵家で入手した計画書を見始めると自然と消えていく。
「使役した魔物の軍勢に国家転覆…具体性は確かに良く分かりませんが、良からぬことに使うというのはやはりというか…これで確定ですね。」
ここでジルオールさんはエレオノールさんの方を向く。
「姉さん。この魔道具については研究を行わずに達成できなかったとして報告を上げる方針でいいかい?」
どうやらジルオールさんは今回の魔道具製作依頼については袖にしたいようだ。
だが、エレオノールさんの表情は険しい。
「そうね。と言いたいところだけど、何も成果無しと言うのはマズいかもね。なんだかんだ侯爵からの資金提供がないとやりくりも難しいし…。それに他の研究所で開発を続けるからと言って研究内容を開示するよう求められることも考えられるわ。その時に実は研究してませんでしたという訳にもいかないわね。」
口調がマジモードになっているという事が、この研究所にとって侯爵家の依頼を達成できないことが非常に立場を危うくするという事を物語っていた。
「俺から提案なんだが、いいか?」
2人は俺が口を挟んできたことに驚きながらも首肯する。
「この先侯爵家は俺が潰すからどのみち新規のスポンサー探しは必要だ。幸い俺にはティア王女とパイプがあるからその方面でも少し相談してみるよ。人々の生活の向上を目指しているこの研究所が無くなるのは俺も避けたい。」
「そうですね…。このような後ろ暗い所のある侯爵家と関係を続けていくべきか。なんて考えるまでもありませんでしたね。すみません。」
「いや、とは言えだ。ヴァン侯爵家から資金の援助が打ち切られたとしても、ティア王女とは言えすぐさま資金面の融通が利かせられるとは考えにくい。ヴァン侯爵家へ仕掛けるのも何時とは言えんし、今すぐ手を切るというのも向こう見ずな気がするな。」
俺としてはヴァン侯爵家とつながっている闇組織をすべて壊滅させるつもりなので、その調査や仕掛け時などは慎重に行いたいと思っている。
「そこでだ、今回の依頼は一部を達成したという事で納品するのはどうだろうか。表向き、ハンターの育成用として依頼をされているんだろ?例えば『使役できる魔物は1匹』『使役できる魔物はCランクまで』とかの制約を付けて1個当たりの魔道具のコストを跳ね上げてやればいい。」
「なるほど!!人が倒せないような魔物が使役出来ず、かつその数が限定できれば悪用も出来ないという訳ですね。」
「ああ、かつ侯爵の要求を満足する形であれば文句も言えまい?」
「確かにそれなら…。」
エレオノールさんとジルオールさんの表情を見るに研究所の方針は決まったようだ。
後はこの2人が上手いことやってくれるだろう。
「では俺たちは一旦戻るよ。また何かあれば連絡してくれ。」
そう言って俺とシファは研究所を後にした。
「それで、この後はどう動くの?」
拠点への帰りの道すがら、シファが尋ねてくる。
「とりあえずはティアに報告しておこうかと思っている。ヴァン侯爵家とその後ろにいる闇組織は壊滅させるとして、第二王子派閥の上位貴族のスキャンダルは王戦にはプラスに働くだろう。加えて、侯爵家が没落した際に路頭に迷った有益な組織を囲い込めれば一石二鳥、いや、三鳥だろ?アルカディア魔道具研究所以外にもそう言った組織はあるはずだ。ティアには今からその選別と有事の際にすぐ融資という形で動けるように手はずを整えてもらわねばな。」
「…ジークは頭が悪いわけじゃないのね。行動がぶっ飛んでるから認識しにくいけど、先をちゃんと見据えている気がするわ。」
「…失礼じゃないか?」
こう見えて子供の時から聡明だと言われてきたんだぞ?
一応貴族家の出でもあるし、政治的な所も多少は理解しているつもりだ。
「それが終わったら今日持ち帰った書類と格闘だな。特に帳簿からは不自然な金の流れを洗わなけりゃならんから気合入れないとな。」
「ジーク、あのファイル全部目を通すの?いったい何日かけてやるつもり?」
「俺とシファ、シルバにメルとリル、レクシアは…どうだろうな。頭は弱そうだし…。まぁ複数人で手分けしてやれば数日で終わるだろ。」
「…それ、私もやらなきゃダメ?」
「…当然。」
少し上目づかいで可愛く拒否を示してきたシファに心を鬼にして告げる。
でも何かご褒美を上げてもいいなと思うあたり、俺もだいぶ入れ込んでしまっているようだ。
また便利な魔法を作り出してしまいました。
もうこの系列の下位互換魔法が使えないとなると…新魔法のレパートリーが…。
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