1.無才の男、鑑定を受ける。
連載始めます。
10日程は1日3回更新していきます。
その後はストック状況により…という感じでしょうか。
いろいろ勉強していきたいと思っていますので、評価やコメントいただければ幸いです。
「…あなたは【無才】です。」
非常に申し訳なさそうに。
と言ってもそれは僕-ジーク・フレンブリードにではなく辺境伯の父に対してなのだが。
しかし神父ははっきりとそう言った。
それを聞いた父の顔色が驚愕に変わる。
「神父殿!!それは間違いではないのですか!?」
「残念ですが…、我らにすぐ分かる噓をつくメリットはありません。」
父の顔色が驚愕から絶望、そして怒りに変わる。
そして無言で部屋を出て行ってしまった。
「【無才】…か。」
ここでは15歳になると皆教会で才能を鑑定する。
才能はある意味指針のようなもので、ないとだめというわけではないが、その分野において才能のないものが才能のあるものに勝つことは絶対にできない。とまで言われるものである。
一部は才能に関係しない職に就く者もいるが、大半は才能に恵まれた分野の職に就くことから人生の指針的な意味合いを持つ。
…無才と言われた僕はどの分野の職についても底辺の仕事しかできないということが今宣告されたというわけだ。
「では私はこれで…。」
僕に鑑定を行ってくれた神父さんが執事長に挨拶をして部屋から出ていく。
貴族の人間の鑑定は教会ではなく貴族家で行われることも多いため、呼び出しを受けることも初めてではないだろうが、『無才』の鑑定結果を伝えたのは初めてなのだろう。若干困惑の残ったまま、しかし僕の方に視線を送ることはなかった。
部屋には執事長のシルバと僕だけが取り残される。
「…坊ちゃんもお部屋にお戻りください。」
「…僕はこの後どうなると思う?」
シルバは長年父に仕えてきていたため、よく父の事を理解している。
そして忖度はせず、しっかりと進言すべきことは進言すべきという実直な人柄だ。
シルバなら変にごまかさずに話をしてくれるだろうと思ったので聞いてみたのだ。
「…お坊ちゃんは聡明ですので、ある程度の状況は理解されていると思います。父君は帝国、魔境と隣接しているこの領地を守れるように『剣術』のような武才を期待されていたのだと思います。」
「うん。僕もそう思う。」
「ここからは推測ですが、…当面は才能については伏せられたまま、政的イベントはすべて回避されることになると思います。」
「…いないもの扱いということだね。」
「…はっきり言えばそうです。そしてその後ですが…。良ければ絶縁の上領外に追放。悪ければ…処分でしょうか。流石に血を分けた親子で処分はないと思いますが…。」
これは予想以上にやばい状況だと理解した。
いないもの扱いになるというのは何となく予想したが、処分されるところまでいくとは…。
「先ほども言いましたが、坊ちゃんは聡明です。日々の剣術訓練でもしっかりと成長されていると先生よりお聞きしています。ですが、【無才】の烙印はこの後の人生について回るでしょう。どれだけ優秀な成績を修めようとも、先のない【無才】より、才能のある方を選ぶ。この国の人間はそういう考え方をします。…この後どう生きていくか、それを考えるのは早い方がいいでしょう」
そういうとシルバは部屋のドアを開け、僕に部屋を出るように促す。
僕は本音を話してくれたシルバに礼を言って部屋を出た。
「【無才】……か」
自室に戻った僕は先ほどと同じ言葉をつぶやく。
まだ実感がないというのもあるんだろう。
シルバの言葉に嘘はないと思うが、まだそんな危機的状況ではないと思いたかったのかもしれない。
僕は一旦考えることを止め、仮眠をとることにした。
異変が始まっているとは気づかずに。
◇◇◇◇◇
気が付くと部屋の窓からはしっかりとした日差しが出ていた。
直感的に思ったのは朝の剣術訓練をすっぽかしてしまったという思いだった。
「……師範怒ると怖いんだよな。でも時間になっても起きない場合は誰かが起こしてくれてたのに……」
そこで気が付く。
朝はおろか、昨晩は夕飯も食べていなければ風呂にも入っていない。
疑問に思った僕は部屋を出て廊下を歩いているメイドに声をかけた。
「昨日と今朝の事なんだけど…。」
メイドから返ってきた返事の内容に僕は驚いた。
昨日の鑑定の後、父から命令が出ていたらしい。
曰く、必要最低限しかジークに関わってはいけない。
曰く、ジークの教育に関しては今後すべてキャンセルとする。
曰く、この件について吹聴することを固く禁ずる。
どうやら早くもいないものとして扱われ始めているのだと遅まきながら理解したのだった。