2.クレモント島
補足的な前置きです。
読み飛ばしても大丈夫です。
クレモント島は、人口600人ほどの小さな島で、
大小連なる山々と緑豊かな森に囲まれている。
また、亜熱帯に生息する希少な動植物がひっそりと棲み、脈々と美しいいのちを紡いでおり、
植物学者、生物学者たちにとって憧れの島であった。
世界最大の帝国のあるジスト大陸南端から200キロほどの場所に位置しており、
四方をエメラルドとコバルトブルーが交じり合う、幻想的な色彩の海に囲まれていた。
そして、この島は
多種多様な動植物と海洋生物が生息しているだけでなく、利用価値の高い鉱物や天然ガス、油田、多数の貴重な資源が眠っている、世界でも珍しい資源の宝庫であった。
しかし、領民も、領地を治めるクレモント子爵家も、地方調査に余念がないはずの帝国中央の有識者たちでさえも、その資源の存在を知る者は誰一人としていない。
―悲しいかな。
これまで、クレモント島の持つ資源調査には、誰ひとりとして関心を示さなかったため、
クレモント島は、”世界には隠された”資源の宝庫であった―
ただ、仮にもしその価値に気づいた者が現れたとしても、商売っ気のない呑気な島民たちと領主クレモントにとっては大した変化はなかったかもしれない。
貴重な資源を喜び、愛でるだけで、ほとんど活用されないであろう。
島民の自給自足の水準が少しあがるだろうが、趣味の作品レベルが少し華やかになる程度であろうし、島の生活や経済に大きな変化は見られなかったかもしれない。
クレモント島が世界から注目を浴びることなく、その価値が気づかれずにいたことは、
慎ましい領民にとっては幸いであったといえるだろう。
多少の経済の潤いのために、
帝国の産業の発展に利用され、政治の駆け引きの材料となることも、
密猟者により乱獲・搾取されることなどで島の有り様が変わることも、領民たちは望んではいなかった。そのため、無自覚のうちに資源調査に踏みいることを拒んでいたとも考えられる。
"大きな利益は、それだけのリスクを伴うものだ"という、
クレモント子爵家代々の慎重な監理方針が、領民の心にまで染まってしまったせいかもしれない。
倹約を愛する領主、
カラス・クレモント子爵は、島の中でも辺鄙な場所に、自身で建てた素朴な邸に好んで住んでいた。
子爵は、貴族としての威厳は十分とはいえなかったが、
ざっくばらんな雰囲気の率直な人柄で、帝国からも誠実で信頼できる領主として高く評価されていた。
独自の効率化された領地管理は他に類をみないもので、その手腕はすべての島民に認められており、ひそかに尊敬されていた。
そして何より子爵は、友人のように気安く領民と関わり、大小さまざまな問題に労力を惜しまず向き合い、助けてくれる。
それでいて、朗らかでいつも楽しげな空気をまとっているクレモント子爵を、領民は父のように、または頼れる兄のように慕っていた。
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