1.プロローグ 王子の目覚め
短めの番外編のみです。
雰囲気を楽しんでいただけたらと思います
(o_ _)o))!
―― 男は生まれたときから、あらゆることに恵まれていた。
世界の頂点ともいわれる神聖ジスト帝国。
男はその第二王子として誕生し、王太子である兄と同じ師により帝王教育を受けた。
そして、8歳のときには十以上も歳の離れた兄を凌ぐほどの教養を収めた。
また、男は学識だけでなく戦闘術にも秀でていた。
未来の王弟として将軍につくため、帝国の慣例により騎士の訓練も受けていたが、
これが、歴代の騎士でも類をみないほど圧倒的に強かった。
男は剣技に限らず、あらゆる武術の格闘センスがずば抜けて高かった。
10歳になるころには帝国の名のある剣士が手足も出ないほど、百戦錬磨の将軍のような剣さばき、身体さばきとなっていた。
帝国最高の剣術師範との模擬戦が行われた際には、相対した師が震えあがるほどの剣技を披露した。そして、その姿を見た多くの騎士たちが男を畏れた。
しかしそれは、男の圧倒的な強さだけが理由ではなかった。
男が畏れられていたのは、男の戦闘スタイルというか、底冷えするようなその人格ゆえであった。
下等生物を睥睨するかのような、一切の感情をもたない冷たく鋭い氷の眼差し。
模擬戦にも関わらず殺されるかと思うほど躊躇いのない踏み込み。
眼光と殺気だけで他者を震えさせるほど、重くのしかかる絶対支配者の威圧。
勝つためには手段を択ばない非情で冷酷な戦闘術…
相対していないにも関わらず夜も夢に出てきてうなされるほど恐怖したという、一部の対戦者たちの話は、騎士たちの中で畏れとともに広まった。
またさらに、男には帝国では珍しい魔法の素養があった。100人に一人という魔法の素質が。
世界最高位の魔導士に師事し、わずか12歳で後継者として認められるほどの実力を認められた。
それから、男は武芸や魔法での実践に長けてはいたが、何より仕組みを構築する学問を好んでいた。
機械や防具、魔道具などを扱う工魔学が一番得意だった。
また、帝王学、語学、地理学、物理学、数学、魔法科学というような、
どちらかといえば、論理だった規則性のある学問を得意としていた。
―― そして、あらゆる分野における天賦の才と、その酷薄な態度から、
男は臣下たちから畏敬とともに『異才の氷王子』と呼ばれていた。
しかし、男には苦手なものがあった。
文化や倫理など、感情・人格的な要素が強く数値化できない学問だ。
人間味を養うような学問は、知識として記憶することはできても、感覚として身につけることができなかった。
特に、『“愛”などという目に見えず、変動的で感情的、信用のおけないものなど、切って捨ててしまいたい』と思うほど毛嫌いしていた。
何の役にも立たない、詐欺の常套文句に等しいものにすぎないと考え、愛を題材にした歌劇・小説なども、ひととおり知識として学びはしたが、ひどく幼稚で下劣なものだと嫌悪した。
それだけでなく、男は成長するに従い”愛”するという言葉を耳にするだけで、胸やけがして酸っぱく苦いものが込み上げて、吐き気を催すようになった。
同時にひどく鬱々とした気分が男を襲った。
仲睦まじく帝国を統べる男の両親をみるたびに暗鬱とした、否定したい気持ちに駆られた。
愛などまやかしだ、と。
国民からは、『国王陛下夫妻の愛し合う姿は微笑ましい』『幸せな国だ』と何かにつけ男の両親ははやしたてられているが、愛で国が幸せになるならば、国費の大部分を占めて維持されている騎士や武器、戦力などいらないであろうと、全く同意できなかった。
(今もなお、隣国との小競り合いから守られているのは、愛のある政治などによるのではなく、
確実に敵を追い詰める国策をいくつも張り巡らせているからだ。
…そう、愛などいくらあっても、国を守ることなどできないのだから。
愛など、欺瞞だ。
―だがなぜ、私は“愛”という得体のしれないものを、これほどまでに忌み嫌うのか―
男にはわからなかった。
しかし、男は気づいていなかったが、
実際のところ、男は愛を嫌っていたわけでも、愛を知らないわけでもなかった。
男はただ、愛することを畏れていたのだった。
そして、男が15歳になったばかりの、とある日。
男はふと気まぐれに王城内を散策していた際、地下で魔力の歪みを感じた。
それは普段の男なら気に留めることもないほど微弱なもので、
男も王城に張り巡らされた結界から生じた魔力の吹き溜まりのようなものだろう、と考えた。
しかし妙に気になって魔力の歪みが強く感じられる方向へと歩みを進めた。
それは、王族しか知らないその地下への階段へと続いていた。
魔力の歪みを辿りながら、地下深く見たこともない通路にたどり着いた。
そこは、遠くから見たときは左側へと緩く曲がる一本道の角に見えていた。
しかし、角にきてみると、男は強い違和感を覚え、その壁の鈍角に解析魔法をあててみた。
すると、壁に見えていたそこには、隠蔽された空間の入口が存在することがわかった。
男は躊躇いなく、その壁に見える場所をすり抜け隠ぺいされた空間へと足を進ませた。
すると、まっすぐな狭い通路が現れた。
その先には、強力な隠蔽防御魔法が施されているであろう術式が浮かぶ、古代王族の紋章が描かれた扉が見えた。
男は、何かに引き寄せられるように、迷わずその扉へと駆け寄った。
そして、扉に手をかけることもなく、そのまま扉へと吸い込まれるように進んでいったのであった。扉は幻影である、と男にはなぜか確信があった。
扉が幻影である代わりに、常人が決して入り込めないような強力な防御魔法があったのであろうが、不思議と男にはなんの魔法抵抗も感じられなかった。
幻影の扉を抜けると、
そこには、小さな部屋があった。
その部屋は地下とは思えないほど清潔な空間が保たれており、
部屋の中央には、宝石がちりばめられた豪奢な金の台座がキラキラと輝いていた。
輝く台座の上には、宝石入れのような浅めの金でできた箱があり、中には美しい紅のビロードが敷かれていた。
その上に、女性用の美しい首飾りに似た装飾具と、緑の魔石のようなものがついた短い杖のかたちをした魔道具、
そして、鈍く明滅する珠がその上に置かれていた。
それは、宝を保管しているものとも考えられたが、男には、これは遺品だ、という直感に似た確信があった。
そして、この部屋は墓堂なのだ、と思った。
なぜか、ひどく懐かしい気持ちがわき上がり、装飾品に触れようと中央に近づいていった。
そして、台座のすぐ後方に、少し低くなった銀色の台座があることに気がついた。
その上には、まがまがしく艶めく巨大な2本の角があった。
男はひゅっと、息をのんだ。
全身の血の気が引き、瞬時に蒼ざめ、男の指は小刻みに震えた。
しかしながら、男は思わず吸い寄せられるように、その巨大な角に触れた。
――その瞬間、眩い光が部屋中に溢れ、部屋を覆うほどの魔法陣が浮かび上がった。
とたんに、男の身体が霧のように霞み、空間がゆがむー
――くそ、転移陣かっ―
ドサッ
―そう気づいたときには、男は、見知らぬ土地、知らぬ邸の庭に転移していた―
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