表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/64

第五十三話

『神徒』

魔族への昏い感情が渦巻き始めた十数年前の王都に、突如現れた神の使い。

その力は絶大にして絶無。

天を操り地を砕く無双の魔法を携え、敵を葬るごとに人々は歓喜していた。


彼女らが光の落とし子と呼ばれる背景には、とある不幸な事情も重なっていた。

嵐によって飲まれた街。

山火事によって食われた麓の大集落。

例を見ない大干魃だいかんばつと砂塵に沈められた砂の都。


奇しくも自然的な現象に襲われ数えきれない程の命が消し飛んだ。

そこに現れた力の化身達。

明るいニュースと言えば、魔族領への侵攻作戦が秒読みだのと言ったものばかり。

バレンディア王国は徐々に、確かに、力へと傾倒しつつあった。


賢き者は知っていた。

神の使いなどまやかしであると。


貴き者は理解していた。

その力が如何におぞましいものから生まれたのかを。


バレンディア王国は、マナギア共和国から"受け継いだ"その魔法を確かに昇華させていた。


必要なのは膨大な想量と、魔素を誘導するための意思。

だが、一人の感情をあてにすれどもそれでは動かすエネルギーの膨大さに追い付かず、生み出すかたちを整えることが出来ない。


そこでバレンディアのふるき呪術者が編み出したのが、千を超える人々の意思の統一だった。


広すぎる街に溢れる途方もない数の人々に全く同時に同種の感情を持たせることに、しかし彼らは苦心することはなかった。

人が抱く感情の中でも、際立って強く訴えかけるもの。

"恐怖"を媒介にした、統一だった。


あるいは炎、涸れ、雨、風。

誰しも人はそれらに怯え、図らずしも思いを同じにする。

それはやがて大きな一つの意思となり、膨大な想量に作用し悪夢の奇蹟を実現させる。


今、この式礼庭園にて。

軍王ミハエラ・ハーミットもその秘術に手を染める。




「『第一神徒 キラクルス・キルバニー』

その神の雨たる化身に」



一つ、恐れよ



「『第二神徒 ライラ・シエラ』

その神の血たる写し身に」



二つ、呪えよ



「『第三神徒 ゼラキア・ゼノン』

その神の息吹たる依り代に」



三つ、捧げよ



「『第四神徒 ミラ・マスカレア』

その神の乾きたる代替に」



四つ、祈れよ



「『第五神徒 サイオン・オルファ』

その神の凍てたる魂に」



五つ、叶えよ



「『第六神徒 ラヴィエル・リィン』

その神の炎たる降臨に」



六つ、殺めよ。汝、神の子。




「生まれよ

『第七神徒 エレノア・グリアノス』」




遠いどこかで爆発音が響く。地が焼かれ大気を汚し肉が燻り焦げ落ちる。

数多の命が運命のふるいにかけられ消えゆく。

たった一つの、新しい命のために。


冠する恐怖の名は『竜害』。

引き裂く爪と、砕く牙。

人外の魔法を携え、空を駆ける翼持つ災厄。


咆哮一呵。

その産声はどんな兵器よりも破壊的であり、空を汚す魔族とそのしもべたるドラゴンを蝿虫のように落とす。


携角有翼のその姿こそ、神の獣たる繚乱。

かくして第七神徒、エレノア・グリアノスは降誕した。




・・・




「あー、こりゃヤバイな」



誰かがそう言えば



「そうですね。接続術がこれ程完璧なものとは思いもよりませんでした」



誰かがそう返す。

彼らは人であり、人ではなかったが、灰が降る王都を高みから見て何をするでもなかった。

否、正確には何をすることも出来なかった。

いくら彼らとて、"これをどうにかすることは出来ない"。


これはあらかじめ決められた運命。


鳴る筈のない鐘の音が、またも響いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ