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第四十六話(2)

「おいおい、どっから湧いてきやがる」



未だ大鐘楼塔頂点に居座るレンガとリーシャを睨む瞳有り。

それも一つではなく、空を埋め尽くさんばかりにどこからともなく現れる、鳥のドラゴン。



「レンガさん、ホシドリの花粉にはドラゴンを呼ぶ力は無かった筈では?」


「……専門的な知識も無い俺の仮説が間違ってるだけなら何も問題は無いんだがな」



オーランの街では学者気取りで問題の解決に尽力したレンガだが、本来は戦いと祈祷以外はからっきしである。

故に、眼前に広がるドラゴンの群れと、そして彼らが"自分達を一瞥して去っていく"ことの説明には難儀していた。



「敵意が無い……?

いえ、違いますね。これは……、優先順位、でしょうか」



リーシャの言葉通り、アザレと呼ばれる鳥のドラゴンはレンガとリーシャを視界に入れ、時折吠え威嚇の真似事はしてくるものの、それ以上のことは絶対にすることなく地上に降下していく。

まるで誰かに導かれるように。



「…………リーシャ、上から見よう」


「それは……? いえ、わかりました」



大鐘楼塔から更に天を登る。

ドラゴンは遥か遠くの山々から煙のように列をなしてやって来ているのがこの高度ならばよくわかる。


だが、レンガが確認したがっていたのはドラゴンの出自ではない。



「どうだ?」



地上に降りたドラゴンが砂粒よりも小さく見える高さで、リーシャは常人離れしたその神の眼をもって地上を見下ろしていた。

そして、それらがある奇妙な形を描いていることに気付く。



「……………………これは、円形? いえ。

…………おそらく王都グリアノス全域に大規模な魔法が展開されています。

そしてドラゴンはその魔方陣をなぞるように降り立っているようです」


「ってなると誘引魔法か……? 特定種を呼び寄せる類いなんて聞いたことがねえな。

魔族の魔法か? いや、それも気になるが……」


「王国軍が市内でドラゴンの対処に当たっているみたいですが…………、妙ですね」



リーシャは無意識に腰に差した神剣の柄に手を伸ばし、天上から市井を見据える。



「王国軍の対応は、完璧です」


「へえ………………。

ああ、そうか。それが駄目なのか」


「はい、"完璧すぎる"んですよ。

衛兵の配置に無駄が無さすぎます。

これではまるで、どこにドラゴンが降ってくるのかわかっているのかのような……」



こうしている今でも茶色い鳥の形をしたドラゴンは次から次へと現れる。

そしてそれぞれの分担でも決まっているかのように整然と降下し、流れるように屈強な王国の兵士やドラゴンハンターに迎え撃たれ屍を晒している。


レンガには卓越した視力は無い。

だが、リーシャとは異なる類いの神の眼は魔神ゆえに持ち合わせていた。


見るではなく、観る。

あらゆる物事の流れを、外側から俯瞰する。

観測者と表現するには干渉に過ぎ、傍観者と呼ぶには核心に迫り過ぎるその力。


人はそれを"気のせい"と呼び、気付かぬ内に手放す。

僅かな風の揺らぎ、鳥のさえずり、魔素の乱れ。

この世を構成する全てを最小単位で感じ、脳が無意識下で警鐘を鳴らした結果、言葉では言い表せない違和感が発生する。


それを能動的に知覚し、異常の源泉を捕捉する異能。

魔神の眼には、見えぬものこそ明瞭に映っていた。



「……………………ハッ。そりゃ兵士の出し渋りもしねえわけだ。

王宮に大病院、でけえ学校に記念広場まで襲われてるってのに」



どこもかしこもドラゴンだらけだ。

なればこそ、異様に映る。




「バレンディア王国軍作戦指揮施設、『人類砦』あるいは『女神の目』。

なんでお前のとこだけ静かなんだ?」

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