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第四十二話

「あそこ、もう魔族の手に落ちたらしい」



そんな言葉の終わり際、空の果てから季節外れの雪が降る。

真白い綿毛に似たそれは、風に乗り王都へとばら蒔かれる。

人々は足を止め空を見て、ある者は驚き、喜び、そして一様に困惑していた。


王都近郊では度々急激な気象の変化に見舞われる。

神徒という天候を支配下に置く存在によるためだ。

だが、第一から第六までの彼女らに雪を降らせる者などいなかったはずだ。

魔族との全面戦争を前にして新たな神徒の誕生か、人々の心は段々と熱に浮かされ、狂気を孕む。


だが、肝心要たる神徒の一人、ゼラキア・ゼノンは知っていた。



「雪じゃないな」



掌に落ちたそれは冷たさを伴わない。

レンガはそれを見て、視た結果わずかに驚く。

今何が起こっているのか、ではない。

これから何が起こるのか。

それを察したからだった。



「ホシドリの花粉だ」


「……ホシドリ、ですか?」



ゼノンの言葉にリーシャが返す。

次元幽閉から解放された二人が最初に訪れた街、オーラン。

その街の近くに広がる薄氷うすらいの森の深部には、とある木々が群生していた。


『ホシドリの樹』

通称竜呼びの大樹。

原理は解明されていないが、その樹在る所にドラゴン在りとされ、またその樹液にはドラゴンを激しく興奮させる作用があることが実証されている禁樹である。

また、枝に花が咲き花粉を散らせば翼を持つ強大なドラゴンを呼ぶとされてはいるが、こちらの説は立証されていない。


そのホシドリの花粉が、どういうわけか眼に見えるほどに大きく、そして王都に雪の如く降り注いでいる。

身体に取り込んで害になるような物ではないが、異常な事態には違いない。



「うざったいな」



言葉と同時に放たれたゼノンの暴風が数キロメートルに渡り天を乱す。

だがどこから降っているのかもわからないそれらは散れどもすぐさま元通り、グリアノスに偽りの霜を下ろす。



「……チッ。

キラがいりゃ楽なんだが」



第一神徒キラクルス・キルバニー。

神の雨を司る、始まりの神徒。

氷雨を顕現させる彼女であれば確かに花粉の飛散は抑えられるだろう。

しかし彼女はこの場におらず、事態の早急な終息は見込めない。



「おい、金眼。なんとか出来ないのか?

軍警省からは何もするなとは言われたが、やっぱ鬱陶しい」


「魔力もやる気も足んねえからなあ。

今の俺が使える魔法なんて、空を歩くことに人の夢を盗み見ること。

あとは星を数えることくらいだ」


「なんだそりゃ」



はぐらかしているようでいて、別に冗談らしくもない言葉。

ゼノンはリーシャを挟んで奥に座るレンガに呆れた表情を投げかけ、とんと塔を蹴り宙に立つ。



「しゃーねえな。アタシはとりあえず前王宮に帰る」


「ああ、お疲れ」


「またお話、しましょうね」



仲の良い友人のように別れる。

一度殺した相手と一分もしない内に打ち解け、歓談する。

狂気の中の沙汰ではない。全員が正気だからこそ、異様と言える一連の出来事であった。


ホシドリの雪が降る。

雨より遅く。雷ほど軽い。

真昼の空に天が泣く。

どこかで獣の鳴き声が聴こえたが、ここはバレンディア王国が首府。

奇蹟の神都グリアノス。


異物など入り込む隙間など無く。

人々は季節外れの大雪に、うすら笑みを浮かべていた。


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