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第四十一話

気まぐれに空の散歩をしていればお気に入りの場所に先客が。それも末妹たる神徒に聞いた興味深い話の中に出てきた人物ともあれば食い付かずにはいられなかった。

それがなぜか大鐘楼塔の頂上で三人並んで座りお喋りに興じることになっている。

付き合う必要性など感じられる筈もない。

だが断るという選択肢を優先させる理由も今は無かった。


主に王都グリアノスと、それに縁深い街々を守護するバレンディア王国軍。

軍警省に管理される彼らはまさしく王国の剣であり盾である。

国内における最大戦力である彼らだが、とある理由で最高戦力と呼ばれることはなかった。



「封神省、それがアタシの所属だ」



第三神徒ゼラキア・ゼノンは国家機密に匹敵するその事実を、何の躊躇いもなくレンガとリーシャに打ち明けた。

人々は神徒の存在を認知している。

ただしそれはあくまで"便利で強大な兵器"としてであり、個人の性格や子細な出自、能力などを率先して調べようという者はいない。



「そんな組織あったか?」


「無い。おおやけにはな」


「秘匿された殲滅部隊ですか。まあ別に珍しくもありませんね」



三人で同じ方向に爪先を向け、足を宙に放る。

ピクニックでもしているような気軽さだが、ここは地上百二十メートル、大鐘楼塔頂上。

見る者が見れば、異様な光景ではあった。



「アタシと同じ、『愛の魔法』によって造られた奴が集まってんのさ。

上司も部下もいない。

他の組織が子供だったアタシらを手駒にしようと色々画策したみたいでな。昔の管理者集団は皆死んだよ」


「ですが貴方達は手に負えなかった。

それで放逐されたと」


「厳密には違うな。

現国王が傀儡になってから軍警省のお偉方が力を持ち始めて、アタシらは戦場に駆り出された。

禁忌である愛の魔法による被造者って事実は当然伏せられて、聖神だとかいうわけのわからん存在が気付けばアタシらの母親になってたよ」



父親も母親もいない。

一なる魔法から生まれたゼノンには、それらがどんな物で、何を与えてくれる者なのか、想像の域を出ることはない。



「アタシらの名が売れ始めたら経済省の連中が今度は軍警省と揉めだしてな。

みだりに禁忌を見せびらかすなだのが話の争点だったらしいが。

その結果アタシらは封神省送りになったのさ」


「お上に逆らう気は無さそうだな」


「殺せれば何でもいいからな。今だって苦しい。

ずっと水の中にいるみたいで。肺いっぱいに鉄の匂いを吸い込んで、血を啜って、肉をまなきゃ死んでるのと変わらない」


「…………」



超大規模想量変換術式『愛の魔法』

やはりというか、その根幹は変わっていないらしい。

戦のために造るのだから、当然動機も必要だ。

人を、命を殺すということには多大なエネルギーを用いる。それは何も物質的な問題だけではない。

その手で直接殺めた者の精神にかかる負担のことだ。


共和国マナギアの研究者達によって懸念された事案は、人格の未発達、及び先天的な欠落によって解決された。



「ガキの頃は殺したくて辛かった。

虫やドラゴンじゃつまらねえ。人の形をしたものを壊したくて、嗚咽が出るほど泣いて叫んで、馬鹿みたいな規模の魔方陣で封印されたこともあったな」


「そうかよ。ま、そればっかりはどうしようもねえ。

俺もリーシャ(こいつ)も、偉そうに説教出来る程綺麗な道歩んできたわけじゃねえしな」


「ええ。しかし、中々面白い話が聞けました。

ところでゼラキア、あなたは今王都で起きている事態をどれほど把握しているのですか?」



レンガ達には"何かが起きている"、ということしかわかっていない。

不穏な動きをするのは魔族だけではない。

王国軍に竜学者協会スカラーズ、ドラゴンハンター等も水面下で動いている筈だ。

だが期日は近いはずなのに、派手な動きがほとんど見られない。

ある意味最も不気味な動向をしているのは、侵攻している魔族ではなく、攻め込まれているはずの人間側だった。



「アタシらは何も言われてない。おかしな話だがな。

今だってこのグリアノスで魔族が普通に彷徨うろついてる。

でもそいつらには手を出すなだってさ。

第四神徒だいよん第五神徒だいごは国境方面で飢えを凌いでるらしいし」



魔族を滅するために造られた彼女達が、この魔族との全面戦争の際に必要とされていない。

それは異常な事態だった。



「ああ、ミハエラのおっさんがこんなこと言ってたな」



思い出したようにゼノンは口を開く。

ミハエラなる人物は、確か軍警省の上層部の人間だったとレンガはどこかで見た雑誌から記憶していたが、その者が一体何を言ったと言うのか。



「王都から更に北部に行ったとこにあるエスベルグって結構大きい街、知ってるか?」


「いや、知らねえな」


「王都から更に北上、となると魔族領との境界近くですか」



頭の中に地図を思い浮かべるほどのこともない。

他愛の無い世間話と言った空気の中で、ゼノンは事も無さげに口走る。



「あそこ、もう魔族の手に落ちたらしい」


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