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第三十八話

最新鋭の現代様式の建築とは、地下迷宮ダンジョンで採掘された鉱石、通称『魔石』を今までの建築様式に織り交ぜた物を指す。

物理的な耐久度はもちろん、魔素に対する結合反応により魔法攻撃に対してもある程度の耐久性を持つことが最たる評価点である。

希少ゆえに高価、さらには加工可能な者が限られるため、魔石による対魔加工を施す一般家庭は、平均収入で他地域を大きく上回る王都の住民ですらほとんど存在しない。


だが、それはあくまで一般家庭の話。

国防上の重要施設にはもちろん潤沢に魔石が使われている。

例えば、現バレンディア国王の住まう『ラボス宮殿及び離宮』。

例えば、未来ある若者と辣腕な指導者が多く集まる『バレンディア国習院』。


そして最も贅沢に、ふんだんに魔石が使われているのが、バレンディア王国軍作戦指揮施設、『女神の目』と呼ばれる軍事基地だ。



「閣下」


「……」


「ただ今、行政区南通りを警羅していた密兵より、報告が入りました」



足元から天井までの大張りのガラスの窓、王都を一望出来る雄大な景色を背負った一人の男が不機嫌そうに眉をひそめる。

手にいくつも嵌めた豪奢な指輪にシャツを破らんばかりの腹、軍警省の上層部のみが着ることを許された勲章付きの上着を椅子にかけ、ラフな格好で後ろ手に組む。

地位も名誉も財産も、何もかもが同居し主張を緩めない出で立ち。



「追跡対象二番が観光客と思われる者と接触」


「ならば問題あるまい」


「ぇ……? あっ、はい。水準を超えない魔力量の旅人と断定したため、当局としましても重大性の低さから警戒度を下げ監視を付けるだけに留めたところであります」



話の二手三手先を突きつけるような口ぶりに、王国軍の正規服を着た男は迂闊にも狼狽してしまう。

失礼などあってはならない相手だが、渡った修羅場の数の違いが手に取るようにわかる程には雰囲気に呑まれている。

磨かれた床にへたり込みたい気分を抑え、王国軍の上級兵士は剣を振るうよりも先に覚える敬礼をなんとかこなす。



「……私とて暇ではない。わかるな」


「…………っ、はっ!」



『くだらない報告を寄越すな。さりとて些細な報告を怠るな』

理不尽な上官の教えがまさに今活かされている。

あるいは戦場よりもおぞましいこの場所で、三十を過ぎた王国軍の兵士の男は新兵の時分を想起していた。





静かになった広い部屋の中で、男は小さな酒瓶に手を伸ばす。

止める者などここにはおらず、止められる者など国中を探せどいないに等しい。


王国軍を事実上指揮する立場にある『軍警省』。

その権力と権勢は、立場を同じくする他の省と比べても異質であり強大。

事実上の傘下など望まぬとも増え、日が巡る度に手足が増える。


あらゆる強権の頂点に立つ男、それが軍警省大臣ミハエラ・ハーミットだった。



「…………」



瓶を軽く煽り喉を熱する。

腑に落ちる感触と口に残る風味を堪能し、天から王都を見下ろす。

整然とした区画に緑と水路が映えるグリアノス。

潜り込んだ鼠の姿がちらつきわずかに不愉快さが芽生えるが、それも数日の辛抱だった。


新たなバレンディアが誕生する。

その座に付く日は近く、揺らぐことの無い計略は不確定要素を日々排除している。


高まった気分を酒で燃やし、くつくつと笑う。

大望は今、その手中にあった。




・・・




「バレてるぜ、お前」



思考が許容量を超え固まってしまったエィムに投げ掛けられたのはそんな言葉だった。

バレる?誰に?

目の前の異質な男はどういうわけか確かに自分の正体を探り当てている。

だがそれを今さら自慢気に伝える目的は何か、脅しでも無いのならば一体、



「お前、尾けられてたぞ。

ありゃ多分王国の諜報機関かなんかだろ」



奇妙な男が寄越したのは、こともあろうか警告だった。


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