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第三話

結局二人は街から出て、街道のそばの草原で考え事をしていてた。

昼下がりのこの時間、人通りは依然として多かったが、あぐらをかくレンガと正座をするリーシャの二人は、はたからみればピクニックに来たカップルにしか見えないだろう。

あまり人には聞かせたくない内容の会話のため、レンガは一応『振動の魔法』で防諜対策までしていた。



「俺たちは、どうすりゃいいんだろうな」



レンガの呟きは、野に吹く風に流されかける。

いかんせん、情報量が多すぎた。

150年も空ければ当然世界は変わるだろうが、しかし限度というものはないのか。



「私は地下迷宮ダンジョンとやらに行ってみたいです」



辛うじて拾ってくれたのは、昨日まで幾億と殺し合ってきた友だ。



「魔族も、モンスターも気になりますし、王国の親衛隊なる者達も一度見てみたいです」


「……」


「彼らがどれだけ強いのか。

そして、その身体を斬った時、どんな顔をするのか、胸が高鳴ります」



胸に右手を当て、恐ろしいことを言うリーシャ。


そうだった。強さしか興味の無い彼女は、こんな時でもぶれることはない。

自分だけうじうじと悩んでいるのが馬鹿らしくなるほどの前向きさ。


もはや取り返せないものに思いを馳せるのは時間の無駄だ。


失ったのなら、また新しいものを探してみるのも一興だろう。



「決めた」


「……何をですか?」


「図鑑を作ろう」



突拍子の無いその言葉でも、リーシャは驚くことはない。

そもそも、その胸中はともかく、彼女が驚いた顔を作っているのをレンガは見たことがない。


なんでもあるがまま受け止めてくれるから、レンガは彼女に向けて神をも滅ぼす魔法の数々を放てたのである。



「何の図鑑ですか?」


「魔神の図鑑」


「……?」


「わからねえ事だらけの冷たい世界だ。

魔神オレが見て、面白いと思ったものを詳細に書き記して、纏めて、本にしてやる。

ドラゴンもモンスターも、神も奇蹟も地獄も天国も、気に入ったもん全部だ」



子供の頃、虫が好きだった夕闇ゆうやみ 恋餓れんがは、昆虫図鑑を作ることに夢中になっていた時期があった。

ただ、それは全ての昆虫を標本にして一冊に纏めたいという思いから来るものではなかった。


自分の好きなものだけを集めて、両親に見せた。

自分が何を好きなのか、他の人に知って欲しかった。


結局、中学生になる頃に両親は居なくなり、その思いは忘れ去られていたが、今こうしてしがらみから解放されて、ようやく思い出せた。



「誰に見せるかは今は決めちゃいねえが……。

そんなもん後から考える。のんびりしてたら、それこそ世界が変わっちまうって身をもって知ったからな」



立ち上がり、伸びをするレンガの顔はとても晴れやかで、青い空と少しの雲によく似合っていた。



「お前も来るか、リーシャ?」



無限の魔法を放つ右手を、正座したままの彼女へ差し出す。



「気に入りました。

お供しましょう」



万物を断つ剣を握る右手で、彼の手を握り返し立ち上がる。


遠目から見れば、ただの仲の良い恋人かそこらに見えただろう。

しかし、内実は大きく異なる。


魔神と剣神。


ともに神の名を冠する二柱は、かりそめの平和をうたう世界で、ついに互いの手を取ってしまう。




「んじゃ、装丁作りと、記念すべき1ページ目も兼ねて……」


「ええ。

ドラゴン狩りに、向かいましょう」




世界は、破滅から一歩遠ざかり、

終焉に一歩近付いた。

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