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第二十九話

宿の街ストーネスの近郊に突如現れた地下迷宮ダンジョンは、今や封鎖の中にあった。

王都グリアノスより遣わされた迷宮探索の専門家スペシャリストたる、中央調査隊が仮設テントや仮組みの小屋で入り口"だった"場所を囲み、外部の人間の侵入を拒んでいた。


だが、例えもし彼らの目を掻い潜れたとしても侵入は叶わないだろう。

唯一の侵入口たる転移の魔方陣はとある魔神と剣神によって跡形もなく破壊され、未知の術式たるそれを修復するすべなど持ち合わせる者はいない。



「神徒様は無事王都に戻られたようです」



一人の男が畏まった姿勢と声色で、空を見上げる女に声をかける。

昼間纏っていた全身鎧を脱いではいるが、引き締まった身体に通った背筋はさすがに練り上げられた中央調査隊らしいと言ったところか。



「これほど意味の無い報告も珍しい」


「…………違いありません」



レジーナの冗談めかした答えに、部下の男も呆れたように笑う。


『神徒』

名の通り、神が遣わしたつわもの

バレンディア王国が正教にて、女神とされる存在が人の世の安寧と悪の必滅のために放った天上の戦士達。


平穏だったバレンディア王国に突如降誕した彼らは、竜を、悪人を、災害を次から次へと滅し、気付けばその存在と使命を誰一人疑うことの無い域までに王国に知らしめていた。


だが中央調査隊副隊長及び第三班副班長であるレジーナやその上に位置する立場のある者達からすれば、彼ら神徒の存在は認めは出来ても信じることなど到底出来ないでいた。



「天上の女神は何を企んでいるのだろうな」


「副隊長、滅多なことは、その……」



神を疑う発言。聞かされる方もたまったものではないだろう。

部下を苛める趣味は無いレジーナは星を見たままあの赤い髪の少女の姿を思い返していた。


『第六神徒ラヴィエル・リィン』

魔を滅する神の炎。

だが、あれではまるで



(そう言えば、奴らはどこに消えたのだろうな)



陥りかけた思考の沼から抜けきるために、レジーナの思考は他所へと跳ぶ。

赤と黒の混じる髪に濁った金の瞳の青年。

目を疑うほどに美しい金の髪に女神の生まれ変わりと称される赤い瞳の若い女。


奇妙な取り合わせだった。

それ以上に異常な二人だった。

願わくば、もう二度と出会わないように、とレジーナは星に託し、部下の進めている夜営の準備に自らも加わった。




━━━━━━




「あっ見てくださいレンガさん。

ドラゴン飛んでますよ」



星空の下、空を駆ける姿あり。



「なんか露骨に目逸らされたな」


「私達の時代じゃ空を飛ぶ魔法なんてありふれてましたけど、よく考えたらドラゴンのいる今の時代空を飛ぶ人なんていませんもんね」


「バードストライクならぬドラゴンストライクか。

ドラゴン(あいつら)からしたらゴッドストライクだもんな。そら目も逸らすわ」



魔神と剣神は踊るように空を飛ぶ。

三十分も寝たためか二人とも気力は充実。

不活性不代謝不老不死をない交ぜにした身体には健康という表現は適切ではないが、それでもレンガもリーシャも意気揚々と風を切っている。



「さて、遥か前方に見えるは雷雲。

その下には『アシラ連峰』、通称『旅殺しの山』。

右手には流れる溶岩、左手には大豪雪地帯。

どれがいい?」



空中で立つように止まったレンガの眼前には想像を絶する光景が広がっている。

とある理由で王都を目指している二人、最短距離を空から突っ切ろうとした矢先に飛び込んできたのがこの山峰だった。


ここは禁域。

荒れ狂う天候と大地の怒りが同居する絶死の境界。



「一ヶ所ずつまわっていきましょう」


「スタンプラリーみたいだな」



炎が雪が、雷が大地が飛び交う大陸随一の危険地帯。

だがそんなことは人の常識。

二人の知ったことではなかった。



「空を飛んでは王都まで一晩で着いてしまうのではと危惧しましたが、やっぱり道草はいいですね。

旅殺しなんていう物騒な名前も気に入りました」


「全くだ。旅で道連れ、とはよく言ったもんだぜ」


「それただの心中じゃないですか?」



笑って、笑う。

恐れるべき未知が、遠ざけるべき脅威が二人にとっては御馳走だった。


お久しぶりです。

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