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第二十六話

最近の子供はどうなっているのか。


レンガの呆けた頭に最初に浮かんだ感想はそれだった。

出会い頭にべらべらと捲し立て、何の断りも無く人の頭を蹴り飛ばし、消し飛ばし、謝りもせず訳のわからない提案をしてくる推定十歳前後の少女。


無礼だった。

魔物の方がまだ礼儀と分別をわきまえている。

親の顔が見てみたい、レンガは素直にそう思った。



「ね、どうかな」



後ろ手に組み、覗き込むような姿勢でレンガを見つめるラヴィエル。

不服な事に中々可愛らしい仕草であり、レンガの溜飲は下がる。

という事は無かった。



「断る。

なんでいきなり人様の頭灰にするクソガキの言う事聞かなきゃならねえんだよ」


「………………だって、お兄さん。

身体それ、ただの飾りでしょ」



ラヴィエルの翡翠の瞳が光ったかと思うと、今度はレンガの左目が爆散する。

予備動作皆無の人体破壊魔法の行使。


確実に死は訪れている。

だが、その死が継続する事は無かった。


一部の揺らぎも無く五体満足、当然吹き飛ばされた金の瞳は傷一つ無く、レンガの眼孔に収まっている。


時が巻き戻った、様には感じなかった。

まるで別の景色を上塗りしたかの様な不自然さ。

ラヴィエルの『神の眼』ですらその正体は未だ掴めない。

だが、新たにわかった事ならある。



「お兄さん、一部の生体反射が機能してないんだ」


「…………」


「それも生まれつきとかじゃない。

後天的に獲得した何らかの力によって、危険が危険ではなくなった為に"捨てた"。

身体は魂の纏う衣服だなんて言うけど、お兄さんは服だとすら思ってないんだね」



今さら気を遣っているのか、レンガとラヴィエル、それにリーシャを含めた三人を包む様に半透明の球が出来上がっている。

音と光の遮断だろう、とレンガにはすぐに察しがつく。

球の内部から外は見えるが、おそらく外から見れば景色はぼやけて、不明瞭な音が伝わっているのだろう。



「壊すのが難しい人間はいるけど、どこを壊せばいいのかわからない人間は初めてだなー。

鬱金うごんの固有魔法が不連続性に関係するのは知ってるけど、死を無かったことにするその大規模改変って誰に負担がかかってるんだろ。

教えてくれない、お兄さん?」



途端に饒舌になったラヴィエルに対して、レンガはもはや気だるげな顔を隠さないでいた。

ただでさえ疲れているというのに、この探偵気取りの少女は帰そうとしてくれない。


もういっそ全て消し飛ばしてしまうか。

そう投げやりになっていたレンガだったが、




「滅魔のカシウス、大鷲の猟団団長ジルスター。

両名の捕縛命令、手伝ってくれない?」




聞いた名前が出てきた事で少しだけ眠気が薄らぐ。

ジルスターなる者は知らないが、カシウスとはあのカシウスか。

滅魔などという大仰な二つ名が付いている辺りあの長白髪だろう。


しかし、カシウスの暗躍は外部に漏らされてはいないはずだが、どこで嗅ぎ付けたのだろうか。

あの男がそう言った失敗をするとも思えない。



「この人達、どうも中央と『聖神』ちゃんを嫌っているらしくてさー。良からぬ事を企んでいるそうなんだよね。

滅多に表に出ないカシウスって人はともかく、大鷲の猟団みたいな名も売れてて人数も多い所の団長をラビちゃんの派手な魔法で殺すとなると、やっぱり後々にしがらみが出来ちゃうんだ」


「いいのか、そんな事、部外者の俺につらつらと喋って」


「いいんだよ。

だからね、お兄さん達にこのジルスターっておじさんを殺してきて欲しいんだ。

お礼は『神徒』たるラビちゃんが弾むから、どうかな? ね?」



滅茶苦茶な要求だ、と一般的な常識をろくに持ち合わせていないレンガですら感じていた。

初対面の相手を殺しにかかって、その後に殺しの依頼をするなど正気の沙汰ではない。

幼さゆえか、それともリーシャの様に作られた感情に則ってか。

どちらにせよ、この少女の背景にいる輩はまともではないだろう。




「断ったらどうする」


「どうもしないけど。

レジちゃん達を助けてくれたんなら、かび臭い迷宮に勝手に入った事なんか咎めないし」



意外な反応だった。

戦闘に発展してもおかしくないとした上での踏み込んだ問いだったが、思いの外すんなりとラヴィエルは身を引く。


後ろに立つ中央調査隊の面々は聴こえない会話に耳を澄ましていたが、半透明の球体内に阻まれ息遣い一つ届く事は無い。



「でもさ、あの二人を消して、魔族も消せばやっと人間の世界になるんだよ?

こんなかりそめじゃない、本物の平和が手に入る」


「どうせ人間同士で争うだろ」


「そうならない為に『聖神』ちゃんがいるんだよ。

統一宗教と大聖典、全部準備は整ってる」



熱心に語るラヴィエルに、そっぽを向きつまらなさげに返すレンガ。

退っ引きならない単語がだくだくと溢れ出してくる。

何だか段々と引き返せない所まで来ているのではないか、レンガが嫌そうな顔でそう思った時、




「さっきから人間人間って」




眠たげに眼を擦るリーシャがやっと口を開く。

侮蔑も嫌悪も宿らない深紅の瞳が、ラヴィエルの翡翠を捉え、




「そもそもあなた、人間じゃないでしょう」




不可視の言の刃で斬り裂いた。

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