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第二話

祭りに踊る街の中を散策する二人。

文明のレベルは大きくは変わってはいないようだが、それでも見慣れないものは多い。


「もう俺のこと知ってるやついないのかなあ」


「あの石碑があるでしょう」


「あんなもんノーカンだ」


道の両脇に並ぶ屋台の呼び込みの声を無視して、二人は中心部へと向かう。




バレンディア王国。

レンガもリーシャも聞いたことの無い国だった。

いつの間に興ったのか、そしてどのようにして帝国と共和国を"喰った"のか。



「聞くところによると大陸の南部のほとんどを同盟あるいは傘下に引き込んだんだとよ」


「強いんですね、王国とやらは」


「強いか弱いかでしか考えられねえのかお前は」



この時代でも二人の格好が街中で浮くことはない。

魔法で編んだ服を更にアレンジして、この世界に馴染ませた学制服もどきの上にローブを羽織るレンガと、露出の少ない黒のバトルドレスを纏うリーシャ。


後者は少し目立っていたが、祭りの日ということもあり、不審がられることはなかった。


「武器の携行の制限も無いし、たまに鎧やらを着てる奴がいるところを見ると……ギルドの仕組みは生きてんのかな」


「どうでしょう。王国が廃止した可能性も否めませんが」


二人は宛もなく歩いていた訳ではない。

この街の役所が集まる中央区へ、真っ直ぐ進んでいた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「あっ!その格好、ドラゴンハンターの方ですか?」


並び立つ施設の中でも一番大きい場所に入ったレンガとリーシャは、早々に入り口で歓迎を受けていた。


(ドラゴンハンター?称号ならまだわかるが、その口ぶりだと職業のような……)


何か言いかけたリーシャの口をさっと塞ぎ、レンガが会話を進行する。


「ええ、そうなんです。なにぶん地方から来たもので、勝手がわからなくて」


「あっ詳しい説明ですか?任せてください!ここのところドラゴンハンターさんの数がめっきり減っていて……」


随分と騒がしい女性だ。

入り口でスタンバイしていた辺りよほど飢えていたのか。

事務服を着ているところを見ると職員のようだが、随分と馴れ馴れしい。


「このく、……この街のドラゴンハンターの主な仕事っていうのは……?」


「え?やだなあ、ドラゴンを狩って国に奉仕するんですよ!

それは大陸全土で共通でしょう?」


自分の仕事を全うできるのがそんなに嬉しいのか、今にも跳ねて飛んでいきそうな勢いだ。



「………………。なるほど、失礼しました。

……あの、実は言いにくい事なんですが、先日ドラゴンと戦った際に持ち物をほとんど失ってしまって……。

"仕事道具"なんかも全部……」


「仕事道具……。あっ、ライセンスとかですか!?

それは大変でしたね……。最初に発行した場所が王国内ならすぐに再発行出来ますが?」


「ああ、いえ。当面は日銭をなんとか稼いで貯めたお金で武器を買ってやり直そうかなって」


張り付けた笑顔で対応するレンガ。

ちなみにこの間ずっとリーシャは口を塞がれている。



(やはりあったか、ライセンス。

行動に制限がかけられるタイプの物じゃなきゃいいが……。

口ぶりから察するに個人の照会も可能なレベルで発達している……。たった150年でここまで変わるのか)


「あのー、でもお連れの方……、すごく強そうな武器をお持ちのような気が……」


おずおずと尋ねる女性に、今度はリーシャが答える。


「これは儀礼剣ですよ。戦いに使えるものではありません」


「あっそうだったんですね!失礼しました!」




その後、おおまかな説明を聞き、二人は施設を後にする。





中央区の噴水広場は人でごった返しており、座ろうにもベンチはいっぱいだ。

仕方なく立ったまま、二人は小声で話す。



「なあ、リーシャ」


「はい」


「ドラゴンってなんだよ」



さも当然のように役場で女性が語っていたその存在。

だが、150年前はそんなもの存在していなかったのだ。


「おとぎ話のあのドラゴン、ですよね、多分」


「ああ、だがどうやら実在しているらしい」


頭を悩ませる二人に、雑踏のなか何度も靴跡を付けられたぼろぼろの新聞が目に入る。

貴重な情報源だ、いただいておこう。


一度それをローブの内側に隠し、『回帰の魔法』によりレンガは新品同様の状態まで新聞を戻す。

紙面の日付は先ほど役所で見たものと同じ。

使われている文字も150年前とほとんど変わりない。


だが、書かれている内容は想像を超えていた。



「『親衛隊、またも魔族を撃退!』」



「『封鎖されていたリンダ地区の地下迷宮ダンジョンが一等星以上のクラスのドラゴンハンターのみに解放』」



「『不明大陸からの漂流モンスターにご注意ください』」



………。

読み上げたレンガも、黙って聞いていたリーシャも固まっている。




150年もあれば、国が消えたり興ったりするだろう。

エネルギー事情に革命が起きるかもしれない、時代に沿って職業名が変わるかもしれない。

しかしこれは、



「ねえ、レンガさん」


「なんだよ」


「四つ、質問があります」


「どうぞ」



同じ方向を見たまま、広場の喧騒を置き去りにして二人は語る。



「魔族って、なんですか」


「知らん」


「では次。

地下迷宮ダンジョンってなんですか」


「それも知らん」


「ではでは次。

不明大陸の漂流モンスターとはなんですか」


「さあねえ」


「では、最後の質問です」



こほんと咳払いをして、リーシャは気だるげに問う。





「この150年で、世界に何があったのですか」





こっちが聞きてえよ。

そう呟いたレンガの目は、半開きのまま死んでいた。

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