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風の谷のナウマン象  作者: 真山砂糖
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1 風の谷で一悶着起きました

ここから物語が始まります。

 風の谷は渓谷の中にあり、三方を断崖に囲まれている。住民が谷の外へ出る場合、唯一通らねばならない道がある。うねりながら崖の上へと通じており、道というには広大すぎる。むしろ荒野が険しく坂のように連なっていると言ったほうがいいかもしれない。

 そのうねる荒野の中程で、たくさんのモンスターが一人の男を追いつめている。男の鎧には無数の傷があり、盾は割れて半分以上が欠けている。男自身も満身創痍の状態で、息を切らしている。崖を背にして、男は次から次へと襲い来るモンスターを刃こぼれしている剣で斬り伏せていく。モンスターどもが「キェーーーーーー!」という甲高い声を上げるのとは対照的に、男は低い声でつぶやく。

「ここまでか……」

 男が覚悟を決めたような表情をすると、モンスターたちがサッと道を開け、集団の奥の方から女が歩いて来る。

「ウマシカ様」

 従者の一人が小声で言った。このウマシカという女、青いローブと烏帽子を身に纏い、魔法使い特有の杖を持っている。女の切れ長の目は揺るぎ無い信念を内に秘めていることを感じさせる。この女も目の前の男と同じく、覚悟を決めた表情をしている。そして男と対峙して、ウマシカは澄んだ低い声で言う。

「一介の戦士がよくぞ一人でわれらナウマン教を相手にここまで戦ったな。褒めて遣わすぞ」

 先ほどの従者がウマシカの後ろから男に向かって言う。

「その勇気に敬意を表したい、名は何という?」

「……マモル……戦士のマモルだ……」

「マモルか。俺はバカ犬、格闘家のバカ犬だ」

「……貴様らナウマン教の秘密、確かに手に入れたぞ」

 従者たちの顔が一瞬曇ったが、一方でウマシカは表情を全く変えず、鋭い棘のある言葉で言い返す。

「どのみちお前はここで死ぬのだ」

 マモルは少しニヤリとしながら、鎧の間から伝書鳩を取り出して、空に向かい飛び立たせ、そして叫んだ。

「さあ行け! ナウマン教の秘密を伝えるために!」

「まさか! どこにあんな鳩を隠していた!」

 ウマシカもまた叫んだ。マモルはほくそ笑んでいる。

「簡単だよ、手品だ。戦士になる前は、手品師になろうと思っていたのでな」

「追え! あの鳩を捕まえろ!」

 さっきまで冷静沈着だったウマシカが取り乱した。慌てるウマシカを後目に「俺が行こう」とバカ犬が冷静に鳩を追い、走り出していた。

「ナウマン象は復活させない!」

 ウマシカを睨みつけるマモルの眼はぎらついている。

「こざかしい真似をしおって。やれっ!」

 ウマシカが命令すると、モンスターたちの中から全身どす黒い空を飛ぶ巨大なハエのような男が出て来て、甲高い声で不気味に笑い出す。

「ヒーーーッヒッヒッヒッーーーーー」

 すると、地面や空中から突然数十体のモンスターが出現した。四本足のものや、羽があり空を飛ぶもの、巨大な昆虫のようなもの、いずれも各々が持つ特有の叫びをあげながらマモルに襲いかかった。気力は十分にあったとはいえ、マモルにはもうモンスターを相手にする体力はほとんど残っていなかった。数匹を斬り倒したところで、馬よりも大きな巨体のモンスターの体当たりをかわすことができずに、マモルは崖から落下した。

「うああああああああぁぁぁぁぁぁーー!」

 下まで数百メートルはあろう崖の上から落ちたマモルの叫び声は、すぐに小さくなり聞こえなくなった。

「とどめを刺したのか?」と聞くウマシカに、崖から下を覗き込みながら従者が答える。

「この高さやったら、間違いなく死んでますわ。この下は川やから、探すん大変でっせ。心配いりまへんて」

 少し考えてからウマシカが全員に言う。

「帰るぞ」

「ハッ!」

 ウマシカを先頭に、一団は引き返していった。


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