囚われの
「えーっと、これはどういうことで?」
「どうやら勘違いしていたみたいだね」
「いや、それより下ろしてほしかった」
「あ、すまないね」
女騎士スザンヌに殺されかけていたところをテッドに助けてもらっていた。
「今しがた、僕に干渉していたスキルが解かれてね。周囲を警戒していたが、どうやら彼らは僕にスキルをかけたものではなかったみたいだ」
「…何言ってんだ?」
「こっちの話さ。さて、スザンヌ。いや魔族のミラーよ。スザンヌとロイドはどこにいるのか吐いてもらうぞ」
「やべー、話についていけねえ…」
状況を冷静に判断するならスザンヌが敵でテッドが味方。だとすると刺されたロイドも敵だった?
というか剣で刺されて意識失いそうだったのに思考がすっきりしている。腹を見れば傷は治療されていた。水の精霊とはチートだったのか?攻撃にも回復にも使えるのか?
「精霊魔法か…」
「水の精霊はあまり攻撃は得意ではないけど、それ以外のことなら大体なんでもこなせる」
水がスザンヌに纏わりつく。水の抵抗で体の動きを鈍化させられスザンヌは逃げることもままならない。
「こんなもの!」
「ノースランドの兵士は優秀ではあるが、あまり特筆して強い兵士はあまりいない。つまり時間を稼げば君を囲むくらいの増援を呼び込むこともできるのだけど?」
「ふっ、ふふふ…、なるほど、これは拘束しただけなのね?精霊魔法には疎いから魔装具に問題が発生するかと勘違いしてしまったわ」
余裕のない表情をしていたスザンヌの顔が一変し、不気味な笑い声を漏らす。懐から取り出した羅針盤のような謎のアイテムが怪しく光りだす。
「転移する気だ!」
「何?そんなことさせるか!」
「もう遅い!あんたたちはこれでも食らっていなさい」
スザンヌは空いていた右手から何かを投げつけた。
「伏せろ!爆弾だ!」
「ばいばーい」
スザンヌが消えた瞬間。爆風に飲み込まれた。
「何事ですか?」
「城内で爆発があった模様です」
旅の疲れを癒すために自室で眠っていたところ、衝撃が伝わってきた起こされた。堅牢な城が揺れるくらいの爆発に不安を覚え、周囲を慌てふためいているメイドに聞けば爆発があったという。
寝ぼけていても、私はワイズとの約束、テッドからの相談の2つを思い出し、心臓が締め付けられそうになってしまった。2人きりで始まった旅路だというのに、すぐにマリエルが加わり、しかもマリエルは名前で呼び捨て、仲睦まじげな様子をありありと見せつけられムカついた私は、ハルトに少し冷たく当たってしまっていた。1人悩み、ついでに2人の人物から相談事を受けていた私は少しずつ疲労し、旅の疲れもあって久しぶりの自室に安心し一瞬で眠っていた。そして一大事が起きてしまった。当事者にハルトがいなければ…、巻き込まれていなければ…。
焦る感情を隠すこともせずに階下へ一直線に降りていく。
「ハルト!」
爆発が起きた中心にハルトがいた。
「あっぶねー」
「大丈夫だったかい?」
「それ2度目だぞ」
「水の精霊は防御面は最高峰だからね」
「ふー、心臓止まるかと思ったぜ。助かったぞテッド」
「どういたしまして」
なんで私より仲睦まじげなのでしょうか?
「ハルト、大丈夫ですか?」
「姫様!大丈夫ですよ」
む。
「ハルト、大丈夫ですか?」
「あ、あれ?…大丈夫ですよ?」
…。
「ハルト、大丈夫ですか?」
「むしろ姫様大丈夫ですか!?RPGのNPCみたいになってますよ!?」
ハルトが意味わからないことを言っていますが、同じ言葉を3回連続で言えばこちらの意を汲み取ってくれるというワイズの助言は役に立たなかったみたいですね。
これではまるで私がバカみたいではありませんか?
「ハルト」
「姫様?」
「ハルト」
「…いや、その…」
「ハルト!」
「な、なんですか?…クレア」
「ふふっ、無事で良かったです!」
前言撤回、ワイズの助言は役に立ちますね。
「ようやく僕の心労が終わったというタイミングで、目の前でいちゃつかないでほしいね」
「あ、ごめん」
「もっとも新しい厄介事も加わったことだし、その辺は聖女様が来てからにしましょう」
テッドの言葉と同時にマリエルが城門を超えてきた。
「みなさんお揃いでー」
「遅いわ」
「あらあら、空気を読んで遅れてやってきてあげたんですよー?素直になれない自分に悩んで自室に引きこもっていたくせにー」
「そんな理由ではないわよ!普通に疲れていただけで…」
「なんで疲れたのでしょうー?」
「…」
それは…。
「姫様が困ってるから」
睨みつける。
「クレアが困っているから…」
「ふふふ、仕方ないですねー」
あのババア覚えておきなさい。
「端的に説明しましょう。女騎士スザンヌは魔族のミラーでした。申し訳ありませんが取り逃がしました。そしてミラーの所有する魔物のドッペルゲンガーはロイドでした」
「なるほどー」
「ミラーにドッペルゲンガー、他の個体だったのね」
「話についていけん」
そうだった。ハルトは魔族はもちろん魔物にもあまり詳しくなかったわ。魔物解説は私の特権で————。
「ミラーというのはー、コピーのスキルで姿形をコピーしてしまう特殊な魔族ですねー。ついでにドッペルゲンガーは同族のミラーの遺体を使って作り出した魔物ですー。しかもミラーの特性をもっているのでコピー能力も持っていましてー」
「へえ、魔族に変わった種族がいるのか」
「先天的なスキルのためにミラーにしか受け継がれない謎のスキルですけどー」
「ふーん」
あ、あれ?私の役目が…。
「ということはロイドもスザンヌももう…」
「生きているでしょうー」
「生きてるの?」
「コピーは脳細胞の隅々までとはいきませんから、会話や行動は本人の反応をコピーしているので本人と会話していることになるのですよー」
「どういうこと?」
「細かい話をすると日が暮れてしまいますー。今は生きているはずのお二人を見つけに行かなければなりませんねー」
そうね。見つけにいくタイミングでミラーやドッペルゲンガーの詳しいことを教えましょう。
「スザンヌはいいけどさ」
ハルトが真剣な顔をしている。
「囚われたおっさん助けに行かなきゃいけないのかよ」
私もやる気が出なくなったわ。
王都の兵を総動員してスザンヌとロイドの捜索、スザンヌに化けていたミラーの捜索を行っている中、クレア王女からのミラーとドッペルゲンガーの解説をひとまず聞き終えた。
「そういえば、テッドは本当にタイミングよく俺たちの前に現れたよな」
「ああ、そういえば言ってなかったね」
「あれも何かあるのか」
「僕に継続的なスキルをかけられていてね。しかも脳内というか体内というか、直接僕に自信に反応を呼びかけるスキルってことが発覚してね。それがコピーであるスキルとわかったんだ」
「コピーって…」
「今回遭遇したミラーとは別個体のミラーによるものだろうね。だけど結局は大問題だった」
「なるほど」
「そんな折に姫様と例の誘拐犯が普通に出歩いていて、しかも聖女様もお付きの豪勢な旅路をしている一行を目にしたわけだ」
「ふーん」
「いや、ハルト。事の重大性をわかっていないね?」
「いまいちわからん」
「僕は本来なら見て見ぬ振りをしただろう」
「あ、やっぱりそういうものなんか」
「誰が好き好んで話しかけるか」
腫れ物扱いやんけ。
「ただ、僕は何者かにコピーを食らっているから、コピー体が姫様たちに接触する最悪の場合を想定した。まあ、もっとも警戒心が高い君たちに容易に接することは本来はできないのだけれど、僕はこう言った立場でもあるからね」
ロイドは服の内ポケットから何かを取り出した。
「ノースランド特殊部隊?」
「ああ、表向きは冒険者だけどね。それで僕らには王家と直接のやりとりができる特別なコードをもっている。それを使われると姫様たちに接触が可能になってしまう。その可能性を考え、僕自身が先に接し、コピーされていることを姫様に伝え、警戒してもらう必要があった」
「なるほどな」
「姫様には苦労をかけてしまったよ。ハルトの護衛も兼ねていたのに旅路の疲れと合間って寝入ってしまうほどとは…」
「雑魚くてすみません」
「そこまで言っていないって、それで姫様に自身の招いた失態の迷惑をかける代わりに君の護衛を頼まれたんだ。普通の旅路にしか思えなかったけど、ロイドが城にまで入っていく姿を目撃してね。周囲から警戒していたよ。ずっと水の精霊が後をつけていたと思うよ」
「あー、それで魔物感知器が作動したのか?」
「いや、水の精霊は精霊だから、魔物じゃないし」
「あ、そうか」
水の精霊が小さな人間のようなフォルムになって俺の頰をつねる。
「たぶんロイドに化けていたドッペルゲンガーが近づいて攻撃しようとしたのだろうね。でもコピー体の反応を押さえ込んで自分で行動しようとすると魔物探知機が反応したのだろう。ドッペルゲンガーやミラーのコピー能力には意外と弱点が多くてね」
「こいつ役に立ってたのかよって、俺ミラーとドッペルゲンガーに囲まれてたタイミングあったんだけど!?」
「あのときは城内でしかも僕も近くにいたから動けなかったのだろう」
「俺だけを殺すならできたのでは?」
「命をかけてでも成功させたいとは思わなかったのだろうね」
「そんなもんか…」
「そんなものだよ」
ってことはあれか、魔族に対する敵愾心をもっていたスザンヌは魔族の反応を出さずに俺を殺そうとしていたのか。あれ本気で逃げてなかったら死んでたのかよ。
「どうした顔青いけど?」
「嫌な思い出が追加されただけだよ」
スザンヌ本人と仲良くなれるだろうか。




