魔族の標的
突如、背後から聞こえたテッドの声に驚いてそのまま緊急回避を決めこむ。初手は緊急回避が安定だ。
「くそっ」
「ぐへぇ…」
俺は路地裏に積み上げられていた荷物や樽の中に埋もれる。なんか気の抜ける声を出してしまったが、ロイドはどうだろう?何か悪態をついていたような声が耳に入った気がする。テッドとロイドの動向を見なければと、雑物をかき分けながら顔を出す。
「ちくしょう…」
ロイドの胸にテッドの剣が突き刺さっていた。
「っ!」
声を上げるな。
力は全部脚力に集中しろ。
俺は戦えない。強さ自体はレベル80相当はあるが、スキルをもたない俺にはレベル50の相手すら務まらない。
とにかく逃げろ。
ロイドを助ける?馬鹿を言え、足手まといが足掻くより、増援を呼び救助もできる可能性があるなら、そっちを選択するべきだ。
俺はテッドが現れた反対側へダッシュする。来た道とは正反対の方向に走りつつも遠回りしながら城の方面に向かう。
ビービービー………。
けたたましく鳴り響いていた魔物探知機が大人しくなる。つまり30mの距離は離した。しかし遠距離攻撃に関してはまったくの無防備であることには違いない。俺は平穏な日常風景の大通りを滑走し、城門までたどり着く。
するとガミガミと怒鳴っている女騎士を発見した。
「どうかされましたか?」
まだ説教中だったんかい。
「ロイドがテッドに襲われた!救援を頼む!場所は城の西側の路地裏だ!」
「わかりました!」
「俺はクレアを呼んでくる」
「ええ!?路地裏への案内は!?」
「近くに行きゃわかる!」
「…それは困りますね。案内してくれないと2人きりになれないでしょう?」
っ!?
いてえ…。
俺の腹に剣が突き刺さった。
「どうやらあの子は失敗したようですので」
「スザンヌ、てめえ…、一体!?」
「想定外なことが起きすぎています。ですので、今ここで死んでもらいますね。ダンジョンマスターさん」
スザンヌの歪んだ顔は愉悦の表情をしている。魔族に恨みがあるからと、こんなことを、する…、だろうか?
くそっ、意識が…。
「本当はこの街にたどり着く前に殺す予定でしたが、あの時は王女がいましたし、他にも一応、部下の兵もいましたので機を逃してしまったのですが」
「な、何を…」
「幸運なことに女騎士を演じていれば、あら不思議、ターゲットの坊やがたった1人で私の前に現れるなんて」
「…」
「早く転移しないとまずいですからね。首をはね、さようならしましょうか」
視界の端には状況が読み込めず困惑している門番くらいしかいない。誰か増援は…。ちくしょう。こんなことならきちんと能力アップの実をレベル分は食べておくんだった…。
「水の精霊よ」
テッドか…。万事休す…。
「気配が消えました」
魔族探知機を託したテッドがそれを破壊したとのことでアリアと共にテッドを追っていた。
「感知内から突如として消えた?」
「ええ。しかし、あの青年の行動は不可解なものでしたが、私の感知範囲を突如として抜け出せるほどのレベルのものではないかと」
「そもそもテッドは何なんだ?」
「魔族に通じる内通者…、でしょうか?」
「それは少し違う気もする。魅了され洗脳でもされてたのだろうか、そもそも魔族に通じる内通者としても都合よく俺たちと遭遇できるか?」
「見張られていたとすれば」
「俺たちは最速で山砦の街に来ている。情報が伝達するよりも早くだ」
「偶然の可能性もあるでしょう。たまたま見張っていた方面にいた私たちを見つけたとか」
「偶然か…、可能性としてはあるのか?」
「もしも必然的に私の感知をくぐり抜けて間者を送り込むとなればかなりの手練になりますね」
「そんな魔族いたらイーストランドに送り込むだろ。わざわざノースランドを攻めに来たりはしない」
…そういえば間者を送りこむことが得意な魔族がいなかったか?
「魅了となればサキュバス、洗脳となれば音や匂いを操る魔族がいくつか該当します。あとはゾンビ化させた駒としてならリッチーもありえます。しかしゾンビなら探知で、魅了や洗脳なら光の精霊で看破できます」
「いや、コピーのスキルだ」
「コピー…、まさかミラーですか?」
「ああ」
「ミラーならテッドはミラーもしくはドッペルゲンガーの可能性もありますね」
「なるほど、月の暦は?」
「新月から2日経っています」
ドッペルゲンガーはかなり特殊な魔物だ。人工的というかミラーが様々なアイテムと同族のミラーの死体を使って作り出す魔族産の魔物。代償もそれなりに大きく、生涯で化けられる相手は1人のみで、原因はわかっていないが、新月にのみコピーが可能になり、次の新月でドッペルゲンガーは寿命を迎える。ミラーの場合は次のコピー対象へ強制的に化ける。一応魔王にはコピーできないらしく、コピーできないものがいくつか存在する。
コピーの条件にもう1つだけ重要なものがある。化けている相手が生きていることも条件である。これは操るミラーも同条件でコピーのスキルが継続的なスキルのパッシブスキルであり、スキル発動時にすべてをコピーできるといったこともない。つまりコピー対象は生きているし、生きているからこそ繋がりがあり、記憶の経路に刺激を受け、その反応をコピースキル発動者に還元する。だからバレない。昔の記憶も会話をすれば本人の反応が受け答え、それをスキルを通して表面に出せばいいだけ。判別方法も特殊な方法でしか行えない厄介な種族だ。
「ミラーだとすれば反応が突如に消えたのはドッペルゲンガーを消したのでしょうか?普通に転移の可能性もありますが」
「残念ながらその3、ミラーが死亡したからドッペルゲンガーも死亡したが正解だ」
視界の先、暗がりの中から声が聞こえ、現れたのは肩に血が滴る大剣を担いだ勇者だった。ミラーに唯一コピーされない人物のお出ましだ。
「身構えるなよ、ミラーは倒したさ」
「どうしてここに?」
「ワープのスキルは色々と便利なんだ。味方のそばには一瞬でワープできるからな。味方といってもパーティーメンバー限定にはなる。当然橋梁の街に潜伏していた魔族も倒してきたからな。あっちはミラーじゃなかったが」
パーティーメンバーか。数刻前に別れたがそういえば完全には解消はしていなかったな。冒険者ギルドで手続きする必要があるし。
「どうやってミラーを判別したんだ?」
「勇者の感知もごまかせてねえし、勇者の対魔族スキルもごまかせなかったみたいだぜ。俺には一切の無害ってわけだ。それに雨脚の強い森の中に人間が隠れてたらおかしいだろ。あと質問多すぎな」
勇者強すぎでは?
「それと俺からの質問。こいつらなんでこんな場所に現れたんだ?山砦の街って特別な街でもないだろ。警備もまあまあ強そうだし、攻め込むメリットもないし、撃退されるデメリットの方がでかいだろうに」
「さあな。そもそもミラーが攻め込んで来ていること自体不可解なことだ。ミラーは魔族に迫害されている」
「迫害?」
ミラーは魔族側にも疎まれている存在。理由は専用のコピーのスキルが強制的に発動し、味方の魔族にも化けられるからだ。それで魔族の内輪に亀裂をいれてしまった過去が何回もあるらしい。そういう経緯があり、魔族から疎まれるミラーがなぜ勇者が現れた今になって攻め込んで来たのか。ミラーの及ぼす影響力はとてつもない破壊力があるが、勇者がいないときにミラーの工作を決めていれば人類は一気に劣勢に立たされていた。どうにも今回の魔族側の行動が読めない。
「もしかしたら奴らの狙いは私たち人類ではなかったみたいですね」
「人類では…、北側でテッドの反応が消え、山砦の街はノースランドの北方。四大国の土地の最北端の街。その先にあるのは…」
「エルフの森」
奴らの狙いはエルフか。
あのー、なんで俺はテッドにお姫様抱っこされているんでしょうか?
「無事だったかハルト」
「お、おぅ…」
なんだこのイケメン。




