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2人のテッド

「商品の補充ができないか…」

「ゲートは一度設置したら動かせないからな、設置したゲートを使って再設置してもいいけど、ゲートの秘密は門外不出みたいなところがあるから、大衆の面前で使うのは憚れる」


 ゲートはダンジョンを繋ぐものであり、住人が現実世界と考えている、このワールドワイドウォールの世界でゲートが設置されるのを目撃されると混乱が生じるかもしれない。騒ぎ1つも起こしたくはないので、余計な心労を負うデメリットある行為は避けたい。ゲートは人目につかない城内に設置する必要がある。ロイドにはしばらく商品の補充は断念してもらう。


「城内は散策していいことになっているから、しばらくは自由でいいぞ。他の商品は持ってきてないのか?」

「今は誰かさんの専属商人だからな。例の空調機以外には運んでねえよ」


 ロイドと喋りながら、城の門までたどり着く。反省して正座している門番の前でガミガミと怒鳴っている女騎士がいるが、視界に入らなかったことにしよう。


「ゲートの場所を見繕わないのか?」

「今はな、ちょっと今後のことでマリエルに相談したいこともあるし」

「聖女様にねえ、…浮気は良くないぞ」

「ねーよ」


 こっそりとひっそりと、しかし逆に目立つことのないようにさりげなく説教現場から離れる。後ろ通っても気づかないものなんだな。


「いいのか護衛?」

「ま、いいだろ」

「そうかい。ありゃ…」

「テッド?」


 城の外に出たところ、城の側面側の通路にテッドの影が見えた。


「何してるんだろうか?」

「さあな、それにしても姫様もよくわからねえ男をパーティーに加えたもんだ」

「様子を見るか」

「そうだな」


 テッドへの不信感は未だに残っている。城の近くに来ていたのも気になる。それに魔物探知機が作動していたとき、テッドがいた位置なら探知範囲にギリギリ入っていたかもしれない。俺の知らない魔物だろうか。いや、人間と同様の形態から魔族の可能性もあるし、もちろん普通に冒険者の可能性もある。


「どこに向かってるんだ?」


 狭い路地に入り込んでいく。

 城の近くにこんな入り組んだ場所があるなんて違和感あるなあ。

 限られた土地を有効活用すると下町が城の隣にあるのも仕方ないのかもしれない。正面入り口は立派な広い道があるが、城の周りは所狭しと建物が並ぶ。狭い路地の割には商店が立ち並んでいる。


「いらっしゃい、買うかい?」

「何を?」

「何かだよ」


 狭い路地の敷物の上に座り、フードを目深にかぶっているため顔はわからないが、声と口元を見る限り初老の男性に声をかけられた。何かを買うか問われたが、聞き返せばそっぽを向かれる。


「こんな場所で…か」

「こんな場所だからだよ」


 初老の男性はそっぽを向いていたにもかかわらず、意外にも俺の言葉を拾った。

 

「失礼する」

「………」


 テッドを見失わないように路地を進んでいく。


「…よくわかったな」

「なんとなくな、商品も見えないほど小さいものなら薬の可能性もあるって」

「王都だけじゃないぜ、どこの街にもこういった場所はある」


 光あるところに陰が差す。

 俺のダンジョンのラビリンスアースだって魔物から奪われない広大な大地、衣食住が保証された安全な大地という光に人が集まっているが、もちろん人一倍治安に考慮はしている。しかしそれも人口が増加すればするほど、治安維持は間に合わなくなるのだろう。外の世界、ワールドワイドウォールは普通に人々が魔物に領地を奪われている世界、つまり土地が狭い。人口が集中する要塞の街のような王都には良からぬものが多く住み着いてしまうのも納得がいく。そして路地裏も狭くなればなるほど監視の目が届かなくなるものだ。


「テッドだ」


 ロイドの言葉と静止のジェスチャーに俺は歩みを止める。見失いかけていたが、路地の奥の方で、テッドは強面の大男と話をしている。距離をとっているため具体的な会話の内容は入ってはこない。しかし、会話が進み大男から何やら金銭が入っているような小包を受け取っていた。


「怪しい金の匂いがプンプンするぜ」

「金と決まったわけではないけどな」

「商人の鼻を舐めんなよ」

「そんな汚ねえもん誰が舐めるか」

「比喩だアホ」


 無駄口を叩いていると近くにきた少年が両手を突き出してきた


「貧乏な大人に金を恵んでも出てこねえぞ」

「なんて可哀想な大人なんだ」

「うるせえ」


 路銀なんてすぐにどっかの王女と聖女が使い果たすからな。マッハで無一文だよ。

 興味をなくしたのか少年は去っていった。

 路地の奥の方を再び見ればもうテッドも話していた大男もいない。


「見失ったな」

「しゃあない、宿に戻るか」


 踵を返そうとした瞬間、魔物探知機がけたたましく鳴り響いた。


「おとりが役に立ちましたね」


 テッドの声が背後から聞こえた。




「ダメだ見つからない」

「街の中にはいませんね」

「本当に魔族っているのでしょうか…」


 山砦の街の道中で出会ったテッドと共に魔族の探索を開始したが、山砦の街の中はもちろん公道にも反応がない。


「私の探知にも引っかかりませんね」

「アリアの探知なら広域だからこんなアイテムに頼らなくてもいいんだけど」

「それは王子が単独行動をするということでしょうか?先ほども言いましたが、それは私が許しません」

「二手に別れた方が早いんだけどなあ…」

「私の感知も勇者のように馬鹿げた範囲はありませんし、勇者たちがこちらが対処できずにいればそのうち助けに来るでしょう」

「めちゃくちゃカッコ悪いなそれ」

「適材適所というものです。私たちの一番の優先事項は山砦の街の住人の安全確保ですので」

「それもそうか」


  広域探知といえどアリアの探知範囲は半径300mほど、山砦の街の半分近くは一度に探知できるが、勇者の言葉では近くにいるとのこと、しかも街それぞれに近いということから具体的な数値はわからないにしても広範囲である。そこから魔族を見つけるのは至難の業だが、街の近くに現れるということは山砦の街を監視していることは確かだろう。山頂にあるこの街を見張るのは難しく、東西南北のそれぞれの入り口のどこかを見張るなら多少遠くとも見張れるだろう。4つ見張るなら街中にいないとおかしい。感知を妨げる何かを使っている可能性もあるか?


「うーん…」

「僕がその魔族探知機というもので探すのはどうでしょうか?」

「…」


 テッドの提案に俺とアリアは顔を見合わせる。


「頼めるか?」

「あまり期待しないでくださいね」

「ああ、反応があったらすぐに知らせてくれ」

「伝達方法は?」

「水の精霊魔法を使えるんだったな。空に水の輪を作ってくれ」

「了解しました」


 テッドに魔族探知機を持たせ、俺とアリアで南側へと向かった。テッドが北側に歩いていく。アリアは手元に光を集め、それを地面に落とした。


「何のスキル?」

「探知の1つです」

「なんで今更?」

「申し訳ありません。これはかなり秘匿事項の高いスキルですので」

「母上か」


 母上の一番弟子であるアリアはその力の一端を継承している。今のはおそらくではあるが光の精霊魔法関連だろう。精霊魔法は解析がほとんどされていない魔法で不明瞭なことが多い。アリアはその中でも特別珍しい光の精霊と契約をしていることになる。ノースランドで光の精霊魔法を扱えるのは母上とアリアだけ、さらにいえば四大国でも使えるのは5人しかいない。

 テッドのいる前では使えなかったということか。


「それじゃあ南からしらみつぶしか」

「いえ、どうやらその必要はなくなりました」

「え?」

「北側です」

「………テッドか?」


 アリアは静かに頷いた。

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