2人目
「ガラクタばかりだな」
「そうか?」
「…」
勇者というのは異世界から召喚されたものである。そしてハルトも同じ異世界から来た。その拠点に初めて侵入することに成功したが、ダンジョンコアもなくハルトの姿もない。生活感のある場所は残っていたが、その広い拠点もほとんどを探索し終えてしまった。ハルトの痕跡は残っておらず、おそらく今はダンジョンの外にいるのだろう。
「ダンジョンコア見つかりませんね」
「ダンジョンコアをサーチするスキルなんてないよな?」
「そんなもの聞いたこともないな」
勇者パーティーの面々も部屋を物色し続けるのにも飽きている。俺ももうこの作業を切り上げたい。
「あとはあの娘か」
「ワイズ?」
「ああ。だが、俺には精霊を感知するスキルがない」
「そもそも精霊を感知するスキルも聞いたことないけど?」
「そうか…」
もうこのダンジョンでやることは終わってしまっただろう。外にいるハルトを探知して見つけるしかない。
「ダンジョンの外にいるのなら追いかけるべきなのだろうな」
「さすがにこれ以上の時間は費やせません。もう魔族の活動も活発になっています。境界の街が襲われ、他にもいくつもの場所で魔族の出現情報が入っています」
ボーイッシュロリ聖女ももう我慢の限界なのかもしれない。いくら功績のあるウェストランド王といえど、彼の事情にいつまでも付き合ってはいられない。教会もさっさと魔王を討伐しに行きたいのだろう。魔族を足止めしているイーストランド帝国からの要請もあるだろう。
「そうか…、わかった。ならばダンジョンの外に出た際に道中でハルトを見かけたら倒すことにしよう」
そういってこちらをちらりとみた。
この勇者は本当にどの立場に属しているのだろうか。ウェストランド王の言うことはある程度聞くが、やはりハルトは倒したくないのだろうか。その辺はよくわからないな。
「カイト王子、早く姉を取り戻せると良いですね」
「あ、はい」
そんな体裁あったな。
「久しぶりの外だー」
年相応の反応を見せるウェストランドのボーイッシュロリ聖女がはしゃいでいる光景を見ながら、その意見には賛同できなかった。ラビリンスアースの世界を外の世界と違うと判断ができない。違いを感知できないのであれば、ラビリンスアースがダンジョンだとして、こうして戻ってきたこの世界もまたダンジョンなのだろう。父上から聞かされたこの世界の秘密の方を実感する。
「魔族の反応がいくつかあるな」
「いくつか?」
「ああ、かなり広範囲に探知が可能だからか、…終焉の街、橋梁の街、山砦の街、要塞の街。どっから行く?」
「多すぎる。要塞の街ってことは王都まで届くのか」
「ああ、ギリギリ範囲内だ」
「2手に分かれよう」
「いや、3だ」
「3って…」
「俺以外で2つのパーティーを作ってくれ」
勇者1人でどこかの救援に向かうのか。要塞の街にはハルトがいるから何を考えているかわからない勇者を万が一にも向かわせるわけにもいかない。
「俺はアリアの助けを借りて要塞の街に向かう」
「王都か」
「ああ」
含みをもたせたような口調をされるが、目を外さずに俺の意思をまっすぐに勇者に伝える。
「わかった。そもそも要塞も街は堅牢だろうに増援が必要とも思えないが?」
「あ」
そういえばそうか。母上もいるからな。
「なら、山砦の街に向かう。その後に王都へ流れよう」
「わかった。ついでにいえば俺たちとカイト王子はもう合流する意味合いもないから、ここでお開きでいいだろう。俺たちがクレア王女奪還の手助けをできるのはここまでだ」
「ああ」
勇者と俺を除いたメンバーで終焉の街に、勇者は南の橋梁の街に、俺とアリアは東の山砦の街と要塞の街へと向かうことになった。
「ふふふ、勇者とカイト様があんな熱視線を…」
「エリル王女、声を抑えて」
「どうした王女鼻息荒いぞ?大丈夫か?」
「おい、このメンツで男1人とか嫌なんだが?」
あっちのメンバーが何か言っているが気にしない。俺はラビリンスアースに戻りアリアを見つけに行く。
「あと最後に1つだけ言っておくと、要塞の街の魔族の反応は2つある」
「…ありがとう」
勇者に別れを告げ、俺は猛ダッシュでアリアを拾う。この時間帯なら市長室にいるだろう。
「アリア!」
「どうしました?」
「何かありましたか?」
めっちゃくつろいでるな。しかもワイズと一緒に。というか寛いでるテーブルの上にダンジョンコアないか?
「こういうのってもっと他に隠す場所あるんじゃないか?」
「木を隠すなら森の中と言いますし、ハルト様もその辺に置いておけと放り出すように言われましたが、さすがに放置はできません。私が守ったほうがいいので、…それより要件は?」
「そうだった!魔族の反応を勇者が感知した」
アリアは目を軽く見開いて口につけていた紅茶を置き、即座に立ち上がった。
「場所はどこでしょう?すぐに支度をします」
「終焉の街、橋梁の街、山砦の街、要塞の街だ」
「要塞の街は予想が立ちますが、まずは終焉の街でしょうか?」
「いや、勇者たちが終焉の街と橋梁の街に出没している魔族を討伐しに向かってくれている」
「なるほど、わかりました。すぐに向かいましょう。細かい話は進みながらお願いします」
準備を即座に終えたアリアを連れ、俺たちは2人だけで山砦の街を目指すことに———。
「待ってください」
「なんだ?」
「ショートカットが可能ですよ」
「ショートカット?」
「山砦の街は東といえど、少し北ですよね?公道も結構ズレていますし、最難関ダンジョンへ繋がるゲートはまだ生きています」
「そうか、コスモ・エクステリアか!だが、ゲートに向かうのに時間が———」
「———着きました」
「………」
「あれ?初めてでしたか?ワープは」
「マジかよ…、道理で捕まらないわけだ」
ハルトはこのワープがあるから勇者の侵攻をものともしなかったのか。だが、勇者もワープを習得しているから逃げきれなくなったと。どんな戦いをしているんだ…。
「これでコスモ・エクステリアから向かえるな」
「ですが、山砦の街についてからどのように魔族を見つけましょうか?」
「それならちょうどいいものあってな」
俺は懐から聖女がくすねていたアイテムを取り出す。
「魔族探知機ですね。半径30mくらいが有効範囲です」
「他にも魔物とかいろいろあったけど、まあまあ大きいからな」
「ハルト様がMPがもったいないからと買ってたアイテムの1つですね」
「なんか盗賊みたいだった…」
「いえ、ハルト様の世界の勇者は他人の家に入って物あさりをするのが一般的ですので、何もきにする必要はないかと」
「とんでもない常識だな、あれか召喚された勇者もそういう…」
こっちの世界でやったらさすがに犯罪だよな?
え?
ハルトたちはあれが常識なのか?
「早く向かいましょう」
「あ、ああ…」
俺はハルトと勇者の人となりに困惑しながらゲートをくぐった。
道中アリアに要塞の街のハルト以外の魔族が存在することを伝え、俺たちはスキルの援助を受け、猛スピードで山砦の街へと向かっていた。
「魔物ですね」
「アクアベアーか」
「すぐに終わらせます」
アリアは進むスピードも大概速いが、さらに踏み込んで一瞬で遠くに見えていたクマの姿をした水の魔物を一瞬で切り裂いた。ここからではアクアベアーの本体のコアすら見えない。それを目で捉え切り裂いたのだろう。遅れること30秒。アリアに追いついたところ、1人の青年がアリアに感謝していた。
「ありがとうございます!雨天下でアクアベアーに遭遇して、絶体絶命かと思いました」
「山砦の街は近いがどうする?」
「お急ぎですよね?」
「ここまでくれば多少遅れても大丈夫だろう」
アリアは俺に視線を送ってきた。
「疲れてるしゆっくりと行こうか」
魔族が街にいるとも限らない。道の近くに魔族が潜伏している可能性もある。ハルトが買った魔族探知機の出番だ。30m以内に入れば魔族を感知できるはずだ。
「お二人はとても強い冒険者なのですね」
ガクッときた。
確かに特徴のない顔だけど、父譲りの顔だけど、国内で認識されない程度の王子なのだろうか。
「失礼だぞ」
「アリア、俺は気にしない」
「ですが…」
「俺はカイト。この国の王子だ」
「カイト王子!?とんだ失礼をっ!!」
「いや、いいんだ。自分の顔が覚えにくい顔だということはわかっている。気にするな」
「で、ですが…」
「いいんだ。それより俺は自己紹介したからなお前の名前を教えてくれるか?」
アリアも軽く自分のことを紹介した。
「僕の名前はテッド、山砦の街で冒険者をしています」




