母娘
「下がって良いぞ」
「しかし王!こやつは魔族です!」
「いや、知っておるぞ…」
「むぅ」
結局お堅い女騎士様は謁見の間まで付いて来てしまい、俺を討伐しようとしている。クレア王女は頰を描きながら苦笑いを浮かべるだけだし、周りは目を合わせてくれないし。あとは頼むぞノースランド王。
「仕方ない。お主の好きにしろ」
「了解しました」
「おいこら待てや」
なんかあっさりと売られたんだけど?
「今すぐそこに直れ、私自ら叩き伏せてくれる」
「スザンヌさん下がってくれませんか?」
「女王様…、わかりました」
あっれー?
王様には結構楯突いていたのに、女王様の言葉には一瞬で従うのかよ。王様が凹んでいるけど、俺をあっさり売った罪だ。ざまあみろ。
「ハルトさん?」
「はいぃぃぃ!?」
「ぷーくすくす」
後であの王様ぶっ飛ばす。
「わざわざここまでご足労をお掛けしました」
「いえ、元はと言えば自分の責任ですから」
「いいえ。我が娘のワガママに付き合っていただきありがとうございます」
「…自分が決心してやったことです」
「ふふっ、紳士な方ですね」
なんか、年上のお姉さん感があるからか、真面に立って話すのが照れる。
いてっ。脇腹が。
「クレア」
「はい、お母様」
「私は今まであなたにとても自由に育ててきました。私の意図がわかりますか?」
「…」
「あなたの今の決意を教えてください」
ごくりと喉が鳴る音が聞こえる。
クレア王女が自分の母親に対して緊張している。
言葉の裏まで掬い上げるなら、クレア王女にここで何かを決定しなければならないと言っているのだろう。
「私は…」
クレア王女は俯いてしまった。
「何も迷う必要はないと思っていましたが?」
「…」
女王様は目を細めてクレアを見つめる。しばらくして目を閉じ口を少しだけ動かした。何か言っているのだろうが、距離の離れた俺たちには聞こえない。そして目を開け、俺の方に顔を向ける。
「ハルトさん」
「はい」
「もう少しだけクレアを頼みます」
もう少し…?
「わかりました」
「あと、少しの間王都に滞在してもらえませんか?」
女王様の視線を追うとクレア王女を見つめている。
「…わかりました」
「ふふっ、優しいお方ですね」
それだけ話すと腰を落ち着かせた。
「え、えっと、ごほん。それではハルトよ。ゆっくりと寛いでくれたまえ」
いや、王様貫禄なさすぎ。
「ノースランド王」
「ん?」
「例の件がありますが…」
「ああ、それなら宝物庫にしようと思っている」
なんて場所にゲートを置くつもりか。いや、王室とかだと侵入者が出たらまずいか。しかし、宝物庫だと盗品があれば真っ先に俺が疑われるだろうに。
「さすがに宝物庫は…」
「うーむ、まずいか?」
「まずいです」
「しばらく滞在するのならちょうどいい場所を見繕ってくれ」
「了解しました」
変な仕事の案件が入ってしまったな。すぐに設置できないからロイドが商品を補充するのに時間がかかることを伝えなくては。
「あっ」
「む」
女騎士さんことスザンヌさんに出くわしてしまった。
「私はお前の護衛になった」
「ぇ…」
「不満か?」
「滅相もありません!」
「ふん!何かあれば即座に叩っ斬るからな、覚えておけよ!」
「了解しました…」
なんやかんやあって護衛を手に入れたぞ。
しかも女騎士だってさ、最高だね。
…正直あんまり嬉しくない。
「私は自室に向かいます」
「お疲れ様です」
「…ハルト」
「何でしょうか?」
「いえ…、お疲れ様でした」
落ち込んでいるのか塞ぎ込んでいるのか。よくわからないが、砦の時のように様子がおかしくなってしまった。原因は女王様が少しは知っているのだろうか?
「王女様、どうなされたのだ?」
「さて」
「原因は貴様か」
「ちょっと落ち着こうな。剣をこんな場所で抜くんじゃありません!」
「魔族のいうことなど!」
「ちょっとは耳を傾けて!?」
唐突な鬼ごっこが始まってしまった。捕まったら斬られるマジものの鬼ごっこである。城の庭まで逃げたが、暴れている女騎士はすぐ後ろまで来ている。怖えよ。
「何してんだ?」
「うお、ロイドか。この女騎士止めてくれ!」
「…いや、何してんだ?」
そんなの俺も聞きたいわ。
ピコピコ。
「あん?なんだ?」
また故障か。これ、本当に魔族に反応するとかか?
「なんだそいつは?」
「魔物感知用のアイテム」
「そういえば王女様がそのようなことをおっしゃっていたな。いや、やはり貴様に反応しているのではないか?」
「それはどうだろう?」
説明書きには魔物に反応するとしか書いてなかったし、範囲内に魔物がいればずっと鳴り続ける代物だ。しかしまたすぐに鳴り止んでしまった。
「壊れてるんじゃね?」
「姫様もそう言ってたな」
「ちょっと貸してみ?」
ロイドは職業柄、アイテム関連には詳しいはずだが、こんなおもちゃみたいな代物はさすがに知らないだろう。いや、おもちゃというほど悪い性能していたわけではないか。常人ならある程度は使えるだろう。使えないのは俺みたいに弱すぎるやつか、多少の感知は必要ないほどに強いやつかだ。
「わかんね」
「だよなあ」
「どうするそれ?俺がもらおうか?」
「いるのかよ」
「直れば使えるんだろ?そのうち直せるかもしれないし」
「…うーん。いや、俺が持っておくよ」
「そうか」
ワイズちゃんが俺の護衛のためにクレア王女に持たせたものだ。その意図まではわからないが、もしかしたら壊れていない可能性もある。魔物に詳しいクレア王女が感知できない魔物なんているかわからないし、それにもしかしたら俺が魔物化しているなんて突拍子も無いけど、一度死んだ人間がダンジョンマスターに生まれ変わっているという謎の存在であるから、絶対に魔物化なんてあり得ないとも言えないし。
「ところで、ここ敷地内なんだけど、よく入れたな?」
「門番にハルトの知り合いといったら通してくれたぞ。ダメ元で言ってみるもんだな、わははははっ!」
「警備ザルすぎるだろ!?」
ぶちっ。
なんか誰かがブチ切れる音がした。
「なんだ?」
「しばし休戦だ。お前の命しばらく預けておく。用ができたのでな」
「あ、はい」
あれは門番が絞められますね。南無。
「何あれ」
「俺の護衛」
「骨は拾えたら拾う」
「やめろし」




