お姫様
悲報、ど素人マスター足跡消さずにバレる。
悲報とか行ってる場合じゃねえ。大ピンチじゃねえか。コミュニケーション能力だってそんなに高くない凡だぞ。交渉術とか駆使しないと生き残れないだろう。そんなものないけどな。
「どうします?」
「いたって冷静だな、おい」
「ピンチらしいですね?」
「他人事かい…」
4人組は周囲を警戒し始めてるし、追加の2人もお姫様っぽい人とそれを護衛する屈強な女騎士っぽさ。絵になるなあ。
「現実逃避しなくてもいいですよ」
「したいんだよ」
「そろそろサーチ系の能力とかで場所割り出されてしまいますよ」
マジでか!?
「少しお待ちください」
「外で待っていてもいいかしら?」
「すぐ終わりますので」
「そう」
「右ですね」
ばっちしバレてるじゃねえか。
「ここか!」
ひょっ!?上を剣が通り過ぎた、心臓に悪い!
「下がれ!」
「こいつはいったい!?」
「曲者め!」
ぎゃあああああ!
俺が購入した案山子が切られたぁ!
「まだ、敵の反応あり!」
「待て、こいつはデコイだ!探知能力を妨害するアイテムに違いない」
「デコイだと!?」
いいえ、案山子です。
「周囲を警戒しろ!探知じゃ引っかからないかも知れん」
「了解しました」
おうおう、リーダーくん割と普通の顔立ちなのに血気盛んじゃねえか。しかし、いいのかね?お姫様から遠ざかってしまって。
ま、人質に取るなんてできないんだが…。
「行きましたよ?」
おや、お姫様が何か言ってる。誰に話しかけてるんだ?
「もう出てきてもいいのでは?」
いたたたた、電波ちゃんだったか。美少女なのにもったいないな。いや、それはそれでありか。
「ハルト様バレてるみたいですよ」
「何をいうこの完璧な作戦に穴なんてあるか、静かにしろ」
バレたらどうするんだ?お姫様がこっちを見ているような?
「聞こえていますよ」
「バレとったんかい!」
案山子の下に敷いた人工芝のマットをめくられる。
「ほら、言ったじゃないですか」
「俺の完璧な作戦が…」
「むしろあれで騙された4人がどうかしているかと」
「いや、いっぱしの冒険者を騙せたんだ完璧じゃないか」
「この方々にはバレましたが?」
「完璧なんてものはこの世に存在しないんだな」
「いつにも増して残念モードですね」
失敬な。
「それで、お前たちはここで何をしていんたんだ?」
女騎士さんよ。人の話を聞こうとする前に剣を突きつけるのをやめていただきたい。
「はあ、まったくあれで次期国王が務まるのかしら」
お姫様は明後日の方向を向いているし。
「なるほど、異世界出身のダンジョンマスター様でしたか」
「そうです。私がダンジョンマスター様です」
「ふふふ、面白い方ですね」
ごめんなさい。調子に乗った瞬間に首筋に剣を添える従者をどうにかしていただきたい。
「ハルト様もあまり調子に乗らないでください」
「というかなんでワイズは正座していないねん」
「別に悪いことしていませんし」
「俺もしてねえわ!」
「ダンジョンマスターの時点でどうかと」
「そしたらお前も共犯じゃねえか!」
苦しそうなので足崩していいですよとお姫様に言われる。やったぜ。
「ちっ」
「なんで舌打ち!?」
ところで、背後の女騎士の従者さんはなぜカッパースライムを撫で回していらっしゃるのでしょうか?俺のだぞこら。
「うむ、可愛いな」
「いや、可愛くはねえよ」
昔から女子の可愛い発言は理解不能だったが、異世界でも理解不能だったわ。万国共通どころか、異世界すらも共通かよ。
「そういえば、私たちの自己紹介がまだでしたね。ハルト様のことを根掘り葉掘り聞いておいて申し訳ありません。私はノースランド王国の王女、クレアです」
「で、3サイズは?」
「アリア?」
「ちょっとした出来心でございました!!」
背後からの殺気に人生初の座った状態からジャンピング土下座した。
「お茶目な方でしたのでお返ししてみました」
「目が本気だったぜ…」
「命拾いしたな、小僧」
「マスター死に晒せばいいのに」
あまり冗談は言わんとこ、お姫様やし。
「それで、いろいろとまだ聞きたいことがあるのですが、そろそろ弟たちも戻ってきますので」
弟?
「ええ、冒険者をやっています」
「似てないですね」
「血は完全につながっているのですが、弟は父親にそっくりで、私は母親に似ています」
王様モブ顔やんけ。
「何を考えた?」
「アリアさん?!ちょっと待ってー」
「名前呼びを許した覚えもない!」
「ノーーーーー!?呼び方わからないじゃねえか!」
ちょっと、助けて!
「まださっきの冗談の恨みが晴れていないのでしょう。冗談も少しは控えてください」
「私は気にしませんが、アリアが怒ることも止める義理もありません」
ですよねー、ってその紅茶どこから引っ張り出してきたんだよ。ほのぼのムードかよ。紅茶大好きワイズちゃん懐柔されてるじゃねえか。
「ところでここは不思議な場所ですね」
この真剣白刃取り状態の俺を見ていたって冷静に話しかけてくるんだな。やっぱりお姫様って特殊な人種ですね。
「そりゃな、俺だってダンジョンマスターなのにわかっていないことの方が多いぞ」
「そうですか…」
ちょっと、従者控えさせてくれます?こちとら一歩も動けないんだが?
しょうがない。
「それで、俺は殺されるのか?」
「………わかっていましたか。人となりを判断させていただきました」
「なんとなくだがな。試したんだろう?」
お、剣を収めてくれた。
「そうですね。私も王女として色々なしがらみを抱えて生活していましたが、この地を見て心が揺れ動きました」
「ほー、ダンジョンを見てか」
「ここがダンジョンですか。ダンジョンでしょうが、これまでの歴史を覆すものですよ」
「さいで」
「それで決心しました。ハルト様、私と結婚してください」
「俺はワイズちゃんと結婚するから無理」
………。
この静寂、嫌いじゃないわ。
「アリア?」
「お任せを」
それは卑怯だろぉ!