悪いニュース
イーストランドからの視察団が国境を超えてノースランドに入ってきたらしい。その間も街の発展に寄与してきたつもりだったが、ワイズちゃん曰く暗殺者に常に狙われていたとのこと。そいつはすでに無力化したらしいが、俺の立場がグレーゾーンすぎてノースランドも表立って介入ができない。一応アリアさんにも守られているからどうにかなってはいるが、サウスランドの暗殺部隊の先鋒みたいなのだったらしい。これからさらに手練れが送り込まれてくるから自分でも自己防衛しろとのこと。
「それで引きこもっているのですか、なんというか極端すぎますね」
「命かかってまで住民優先するほどお人好しではないぞ」
「もう少しやりようはあるでしょうに」
「お外怖い」
「はあ…、こうなるなら暗殺者のこと伝えなければよかったですね」
引きこもりと化した一方で、もう一人の引きこもりであるクレア王女は外へと興味があるようで、不平不満を俺にちょくちょく言ってくる。
「ダーリンの代わりに私が市長の代役をしてきますわ」
「(ボロが出ないようにハルト様から距離を置きたいだけでしょう)私が代わりでもいいのですよ?」
「あら?ワイズではいささか役不足ではないでしょうか?力量はあっても見た目から疑われてしまいそうですわ」
「それでは攫われた立場の姫君は救出でもされますか?」
「ぐぬぬ…」
「ハルト様と2人きりになれるというのに不満ですか?」
「不満はありませんけど…」
傷つくわー。
四六時中クレア王女と共にすることはあまりないけれど、目の前でさりげなく拒否されると凹むな。
「でも、万が一にも暗殺者がここに来たりしたら…」
「来ませんよ。きちんとここにいれば、勇者ですら攻略を諦めたというのに」
「勇者以外全然警戒してなかったからなあ…、ワイズちゃんに頼りっぱなしなのも情けないし、ダンジョンに引きこもるしかないのかな」
「表の街もダンジョン内部ですけどね」
「ダンジョン深部ってこと」
「わかっていますよ」
舌をべっと出してからかわれる。かわいい。
「でも、こうしているとイーストランドの視察団を案内できないな…」
「それはアリアに任せてはどうでしょう?」
「アリアさんに?なんか向いてない気がする」
「アリア以外となると、エリスあたりでしょうか?」
「エリスさんか…、いや、今めちゃくちゃ忙しそうにしているからな。ここに来た冒険者全員出稼ぎ扱いだろ?そのせいで管理する冒険者の量と依頼がアホみたいに多いらしいし」
「そうなると適任がいませんね」
「あ、聖女はどうだ?一応こっちの事情もわかるはずだし」
「アレですか…」
まあ、アレだけど…。
「あんなのに任せる必要はありません。私がやりますわ」
「姫様が一番あかんのですよ」
「では、私にまだ引きこもれと?流石にこれ以上はこりごりですわ」
わがまま言わんといてくださいな。だけど、どうしようか。ウェストランド王の執念というのはわかっていたけど、こっちが根を上げかねない。クレア奪還のためにどんなに長期戦になっても諦める節が見られない。そしてクレア王女も引きこもり生活に飽き飽きしていると。
うーん…。
「また悩み事ですか?」
「どうしたもんかなと」
「いっそのこと放棄してみればどうでしょう?」
「放棄?」
「ダンジョンをですね」
「いやいや、ダンマスがダンジョン放棄とはこれいかに」
「いえ、ハルト様はすでにダンジョンエナジーを取得しています」
うん?
ダンジョンエナジー?
ここに来て新しい要素出てくるんか?
「ダンジョンエナジーってなんだ?」
「ダンジョンマスター同士の争いで敗れた相手方のダンジョンのマナの総称のことです。それを取得したダンジョンマスターは新しいダンジョンを作り出せるのですよ」
「ふーん…、…?」
「よくわかっていないという顔ですね」
「いや、それいるか?」
「ダンジョン間というのは別世界なのですよ。つまり、どんな索敵能力であれ、違うダンジョンにいる存在を探せるスキルはありません」
「なん…だと…!?」
「そして新しいダンジョンを作り出せば、そのダンジョンもまたハルト様のダンジョンとなります」
「へー、でもダンジョンコアはどうするんだ?」
「ダンジョンコアは統一化されます。そしてダンジョン間の移動もコアで移動可能になります」
「………それって別世界なんだよな?」
「ええ、区分ではそうなりますね」
「移動できるのに?」
「はい」
なんというかご都合主義感があるな。いや、でもどうだろう。結局クレア王女と一緒に引きこもるだけなら何も変わらない気がする。索敵の反応がなくなっても他に俺の目撃情報もないわけで、探すとなればこの広いダンジョンになる。そうなれば結局ここにいるのと変わらないなあ。それにしてもダンジョンエナジーか。
「姫様救出のためにダンジョンをいくつか攻略してたけど、そんなドロップなかったけどな」
「それはあくまでハルト様が送り込んだドラゴンがダンジョンマスターを倒しているだけで、ハルト様が直接倒していないために、ダンジョンを構成していたマナは雲散して空気中に溶け込んでしまいます」
「ダンジョンマスター同士の戦いじゃないと意味ないのか」
「アリアからも聞いていますよ。砦のそばのダンジョンマスターを倒したと」
「そういえばそんなことあったな」
あれはノースランドに向かう途中の砦でスタンピードに遭遇した時か。それなら帰ってきてすぐにワイズちゃんがもう一つのダンジョンを作るのを提案しそうなものだけど。
「デメリットってあるのか?」
「あります」
「あるんか…、一応聞くけど」
「魂への負荷が大きくなります。人型を保てるかはわかりません」
「却下」
即答即決した。
「人間やめる気ないぞ」
「すでに人間ではありませんが」
「それでもな」
見た目って重要だろう。別にイケメンでもないけど、やっぱり人間形態だから俺をみんなが受け入れてくれている。いくら中身がそのままでも受け入れてくれない可能性があるから、その関係を手放す気は無い。
「ダンジョンエナジーって他になにか使えないのか?」
「ダンジョンコアに食べさせればこのダンジョンが大きくなります。ただ規模が違いすぎて効果を実感できることはないでしょう」
「それだけか」
「どうでしょう?私の知らない法則でもあればまた別ですが」
「ワイズちゃんが知らない法則ってなんぞや」
「私もすべては知りませんので」
つまりしばらくはクレア王女と引きこもり生活が続くんだな。
クレア王女の方に顔を向けると、顔をそらされた。これはあかん。
『もしもし、いいか?』
いきなり部屋の奥にあるトランシーバーが反応した。
「あれ?なんで勇者がトランシーバー持ってるん?」
『エリスから借りた』
「つまりこっちにいるのか」
『少し厄介なことになってな』
「えー、悪いニュースは受け付けていないんだが?」
『なら切るぞ』
「さーせん」
マッハで謝った。冗談が通用しないではないか。
『サウスランドから暗殺者が派遣されたよな』
「ああ、来てたらしい」
『らしいってなんだよ』
「俺、気づいてなかったし」
『………』
「トランシーバーに音声入ってないけど、ため息ついたの知ってるからな」
『心の中でしかついてないぞ』
「ついとるやんけ」
『それで問題なんだが、どうやらうちの国王がイーストランドの視察団に暗殺者を忍ばせたらしい。視察団がこのダンジョンに来て市長が案内する手はずになっていると聞いたぞ』
「つんどるやんけ」
『それもノースランドの暗殺者とのことだ』
…まじかよ。黒い職業を生業としているやつ多すぎぃ。サウスランドが暗殺者の本山ならノースランドにも分社があるというのか。
『つまりある程度の内情も筒抜けている可能性がある。いくらワイズやアリアがいるとはいえ、サウスランドからの刺客もいれば、その2つの防衛網を抜かれる可能性もある』
「引きこもり生活が加速するなあ」
『いや、引きこもるな。非常に悪いニュースがもう1つあるんだ』
「…何さ、もう何が来ても文句は言わんから手加減してくれ」
『俺、ワープのスキル取得した』
何してくれとんねんこのチート野郎。




