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暗殺者A

「ダンジョンの国?」

「ああ、ノースランドが2つの街を新たに作ったと公表してな。その2つがダンジョン内にあるらしい」

「どういうことだ?」

「さあな。最近色々と物がよく動いているのもそれが原因だとか」

「確かにな、鉄が値崩れするとは思わなかった」

「そのせいで鉱山を閉めなくちゃならなくなったところもあるらしい」

「ダンジョンってことはもしかしてアイアンスライムの群生でもあるのか?」

「おそらくは」

「そら炭鉱夫はきついな」


 噂話に耳を傾けつつ、酒場で強い酒をぐびっと一口。度数は高いが味がさっぱりとしている。いい酒だ。


「麦の蒸留酒ですよ」


 酒場のマスターが俺の考えていることを察して声をかけてくる。


「高いんじゃないのか?」

「普通なら、ただ、ダンジョン産の酒は質が良く、いい酒ばかり舞い込んでくるんですよ」

「これもか…」


 注がれている酒を手で回し、酒の水面に映る自分の顔を眺める。最近の情勢はおかしい、そしてそのほとんどが例のダンジョンに関連している。


「あんたも行くのかい?あー、ダンマスを倒しに行くのか?」

「興味はなかった。ただ依頼を受けただけだ」

「そうか」


 サウスランドで暗殺を生業とする俺にウェストランド王から直接の依頼があった。他国の王からの依頼は本来は受け付けてはいなかったのだが、額が額で、昨今話題のウェストランドからの依頼は断りづらい。サウスランドの王もまた乗り気であり、おそらくは打算的な部分はあるだろうから俺に依頼が飛んでくるのに時間はかからなかった。

 強い酒で酔いがまわる前に勘定を終え、酒場を後にする。


「勇者ですら撒かれる相手に俺がどうできるか。警戒を解いて街中にでも顔を出していれば確実にやれるんだがな。俺の経歴に傷がついたらどうしてくれようか…」


 暗殺歴20年、逃した獲物は一人もいない。




「次の方ー」


 なんだこれは…。

 ダンジョンに入るのになんで入国管理みたいなことされるんだ!?


「ダンマスの討伐ですか?」

「いや、その…」


 いきなり確信を突かれて動揺してしまい二の句を告げない。


「違うのですか?」

「俺はダンジョンで出稼ぎに…」

「あ、違うのですか?最近は普通の出稼ぎの人ばかりになってしまいましたね。ダンマス討伐の場合は不要ですが、出稼ぎの場合は通行量がかかります。10ゲインお願いします」

「…」


 なんか嘘ついたら余計な出費がかかった。


「なんだ兄ちゃん出稼ぎか。俺は一山当てるためにダンマス討伐だぜ!入場料かかるとか馬鹿らしいしな」


 ついでに知らない大男に声をかけられる。しかもこいつはダンマスを倒しに来たらしい。馬鹿正直に入場受付相手にダンマス討伐を告げるとかバカだな。逃げられるに決まっている。同時期に出稼ぎの冒険者として入場した意味がないじゃないか。


「やっぱり出稼ぎでよかったんじゃないか?」

「ダンマス倒すどころか見つけることができねえな。ってか出稼ぎの許可証発行してもらうのに、街中じゃダメなのかよ」



「許可証がねえとギルドの依頼も受けられねえぞ。ついでにギルドの支援も受けられない1人10ギルくらいなら依頼1つ分だから、長期間滞在するなら許可証発行した方がいいぞ」

「情報ありがとよ」


 パーティーと別れてしばらく隣の大男が顎に手を当てて考える。


「…やっぱり出稼ぎの方がいいか?」


 なぜ俺に聞く。自分で決めろ。


『今月の新ダンジョン:魔晶石のダンジョン』


 そんな張り紙があった。


「俺出稼ぎするわ!」


 悩んでいた姿は何処へ、一瞬で大男は許可証の発行へ向かった。

 ダンジョン内にダンジョンがあるとは聞いていたが、これは本当にダンジョンなのだろうか…、それに魔晶石といえばかなりの高級品な消費アイテムだ。そんなものがボロボロとドロップするだろうか。いや、する可能性はあるのだろう。鉄を過剰供給したダンジョンもあるくらいだ。

 俺は仕事のこともある。出稼ぎは噂がいくつもあるくらいには儲けることができるのだろう。魔晶石をたくさん確保できれば価格は落ちるだろうが、それでもかなり稼げるはずだ。欲を言うなら俺も出稼ぎ冒険者として活動はしておきたい。だが、仕事を放り出すことはできない。


「この広いダンジョンにダンマスは本当にいるのか?」


 あまりの広さに絶望をしてしまう。これは無理そうだ。


「初の暗殺失敗か…、とりあえず索敵するか」


 索敵スキルで魔族の反応を探す。こんな街中にいるとは思えないが、もともと人間と親しく協力的だったことからもしかしたら街の中にいるのかもしれない。


「いるのかよ!?」


 反応あったわ。しかもすぐ近くだ。


「おーい、こっちも買うぞー」

「ちょっと待ってくれ、まだ荷下ろし中だ」

「はよしろー」

「無茶言うな!」


 ドワーフに絡まれていた。謎の大きな箱のようなところから何かを取り出している。

 あいつだ。

 特徴はほとんど一致する。目は黒いが、確かに魔族の反応がある。なんかこんな往来の多いところで殺害するのはためらってしまうな。よし、遠距離から往来の中でも姿を見せずにやればいい。俺は物陰に隠れ、人気のない路地に入り、民家の屋根に登る。

 遠距離放出型毒殺法で行こう。

 うん。

 まあ吹き矢だ。

 魔法で性能を上げた吹き矢だ。

 身体能力をあげ、肺活量を増やす。

 よし、こんな機会はないんだ。さっさと倒してしまおう。

 俺は集中して獲物が止まった瞬間に毒矢を吹いた。針の細い毒矢は発射と同時に見えなくなってしまったが、この距離なら外したことはない。首を狙ったし、当たれば痛みで当たった箇所がわかるはずだ。

 ………。

 おかしいな。反応がない。普通にドワーフとまだ会話をしている。そして箱の中から何かを取り出して売買している。

 仕方ない。もう一度だ。

 俺は今度こそ集中して毒矢を吹く。確実に首筋に直撃コースだ。

 ………。

 おかしい。反応がなさすぎる。

 今度は何やら超絶美人な女性が現れた。親しげに会話している。ふざけんな。なんでダンマスがあんな美人と知り合いなんだ!?

 ちくしょう。今度こそ。

 ………。

 どうなっていやがる、確実に吹き矢は当たっているはずだ!?

 くそっ、今度はあの箱に乗り込んでしまった。なんで箱の中に入るんだ!?

 俺は最初の作戦の失敗を認め、探りをいれるために箱の近くまで来た。


「ご乗車ですかー?」

「えっと…」

「あ、初めての方ですか?これは電車と言いましてあと2分で隣町に出発いたします」


 どういうこと?よくわからないが、巨大な馬車という説明を受けてそういうものかと無理やり納得し乗り込むことにした。ダンマスを見失うわけにもいかないからな。


「はーい、10ゲインですよ」


 また金を取られた。俺もそんなに裕福な生活を送っているわけではないんだがな。しかし、此度の報酬を考えればほとんど無料といってもいいだろう。


「いた」


 電車なるものが動き出し、その快適さに感動を覚えたが、すぐに思考を切り替え暗殺に集中する。かなりの人数が乗っているな。読書をしながらリラックスしている者もいる。つまりダンマスもまた油断していると言うことだ。


「山桃ジュースはいかがですかー?」


 快適な乗合馬車だけではなく、ジュースの販売もしているのか。すごいな。


「いくらですか?2ゲインですよ」


 ジュースは嗜好品だ。2ゲインはかなり安い。他の乗客たちもかなり注文している。ということはダンマスが口にする可能性も高い。そしてすぐ近くにダンマスがいるのはわかっている。俺は無味無臭の猛毒をジュースを受け取るついでに2つのジュースに入れる。次の次に買うのはダンマスだ。次の客が買わないことも含めてダンマスに飲ませるために2つに毒を混ぜ込んだ。他に犠牲者は出るが仕方ない。ダンマスを確実に殺すための犠牲になってくれ。


「っ!?」


 まずいぞ!?隣に座っているすごい美少女な子に飲まれてしまった。しかし、ダンマスにも飲ませることに成功したぞ。これで暗殺完了だ。

 くくく。美味い。美味いぞ、このジュースも。

 そして出発からしばらく、隣町に到着した。


「何故だー!?」


 俺は到着し、誰もそばにいなくなったことを確信して叫んだ。ダンマスには毒が効かないのかもしれない。しかし、あの美少女にも効いてないのはどういうことだ!?ダンマスの関係者だったりするのだろうか?


「この毒本物なのか?」


 いや、飲もうとするとか俺はバカか?本物なら一瞬であの世行きだぞ。いや、偽物なら死んでないのもおかしいよな。どういうことだ?頭混乱してきたぞ。


「仕方ない。失敗は失敗だ。今日は失敗だ。だが、まだ手段はいくらでも残っている」


 ターゲットの行方も捕捉できている。落ち着かない思考回路を冷静にするために時間を置くことにした。俺は鉄道の街で50ゲインの宿に泊まった。多少値が張るだけにベッドがふかふかで、飯も大変美味しいものだった。

 明日は必ず暗殺を成功させてみせる。

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