偵察
銅を食べて分裂したスライムたちを眺める。
「意思疎通できないけどどうするのさ」
「向こうはこちらの意図を理解していますよ」
「そうなの?」
「モンスターは人語を理解しますので指示に従ってくれます」
「それ、ダンジョンマスターの能力じゃないの?」
「ナンノコトデショー」
「おい」
「ごほん、ダンジョンマスターの能力ではありませんよ。モンスターの能力です」
「でも言うこと聞かせることはできるんだろ?」
「いいえ」
「え?」
「必ずしも言うことを聞いてくれるとは限りません」
「え?ええ?どういうこと?」
「買ったペットが絶対に言うこと聞いてくれますか?」
「ああ、そういうことか…、うへえ」
世知辛いよダンジョンマスター。
「でも、この子たちは脳みそもない種族ですから、アヒルの雛の刷り込みみたいに言うことを聞かせることはできるでしょう」
スライムかわいそう。
まあいいか。使える手札になりえるなら使っていかないとな。俺はただでさえ戦力に乏しいのに、かわいそうだからとか同情して戦力を減らしては生きていけそうにないからな。
「クソ雑魚ですし」
「そこうるさい!」
銅を食べたスライムということはカッパースライムと名付ければいいのだろうか。銅色のスライムなんてゲームとかでもみたことない意味不明な種族だが、使いようはあるはずだ。分裂して増えてるし、斥候としてダンジョン外に送ってみるか。
「まだ例の冒険者さんたちは戻ってきてないみたいですね」
「コアで飛ぶぞ」
「12時間は戻ってこれないのでその辺も考えておいてくださいね」
「大丈夫だよ」
「肩から力抜いて、ついでにぬかってもいいですよ」
「ぬかったら俺が死ぬわ」
気は引き締めていかないとな。
東北東方面に1200kmの位置。そこに俺たちのダンジョンという名の星の入り口が存在する。星というか宇宙といってもいい。
「これがダンジョンの入り口の門か、ストーンヘンジみたいだな」
「古代人が作ってそうですけど、ハルト様の想像の産物ですからね」
「ダンジョンの入り口なんてただの洞窟と考えていたけど、こっちがダンジョンでどちらかというと出口だからな。俺でも自分の想像はよくわからん」
「ダンジョンは超自然現象ですから仕方ないといえば仕方ありません」
俺はカッパースライムたちをダンジョンの入り口から外へ送り、1分後戻ってこさせた。
「どうやら何もいなさそうだな」
「すごく、原始的です」
「なんで一拍溜めたし、仕方ないだろ!こっちはクソ雑魚ダンジョンマスターとアドバイスしかできないナビゲーターだぞ」
「何か言いましたか?」
アイアンクローはやめて!
「1つ心配事を解消させていただきますが、ダンジョンマスターがダンジョンの外に出ても支障はありません。ただ、ダンジョンコアはダンジョン外には持ち運べませんので」
「了解。じゃあ、これ隠しておいたほうがいいな」
「遠出でもするのですか?」
「いや、割とすぐ戻るけど、なにがあるかわからないからな」
「私が持っておきましょう」
「ああ、頼むわ」
「あ、手が滑った」
「おいぃぃぃぃぃ」
ヘッドスライディングしながらどうにかキャッチ、あぶねえ。中二時代にヘッスラ極めておいてよかった。
「申し訳ありません。アドバイスしかできないもので、物を運ぶこともできませんでした」
「根に持ち過ぎだろ!っていうかそれならアドバイスになってすらいねえ。アドバイスすらできてないやんけ」
「何か?」
頭ぐりぐりしないで、目覚めちゃうでしょ。
「冗談はここまででいいでしょう」
「さりげなく俺のHP減ってるんだけど」
「もとより一撃でやられるようなステータスではHPなんて飾りでしょう」
「辛辣」
俺は戻ってきたカッパースライムとともにダンジョン外に出る。
「おお、大自然」
視界に入ってきたのは森と山である。見るからに街のような光景は見られない。
「でっけえ鳥飛んでるなあ。でけえ虫もいるし、魔境じゃね?」
足元でカッパースライムがぷるぷるしてる。ビビってんのかな?だとすれば俺と同じか。そう考えていたらスライムがスネに体当たりしてくる。
「ビビリじゃないって?そうは言ってもなあ。地球とはえらい違いだ」
まだスライムが俺に体当たりしてくる。
バチッと音がなる。
「いって!静電気走ったじゃねえか」
静電気?
俺はカッパースライムを観察すると何やら右斜め前を指している気がした。
「あれは…、人間か!?」
先行していたカッパースライムの何体かが交戦していた。音も静かにスライムたちは例の4人組の冒険者に倒されていた。
「もう帰ってきたのか、しかも4人じゃねえ」
後ろにさらに2人の人間がいる。
「こっちに向かってきているな。ちっ、一旦引くしかない。戻るぞ」
俺は足元にいた動きの遅いカッパースライムを抱きかかえ、ダンジョンにすぐさま帰還した。
「あらお早いお帰りで」
「緊急事態だ。例の4人組と追加で2人がこっちに向かってきていた。身を隠す」
「わかりました」
ワイズちゃんも顔が引き締まる。ダンジョンにとって冒険者は結局のところ敵であることには変わらない。つまり俺たちの敵だ。
1分もしないうちに、6人がダンジョンに入ってきた。俺たちは近くの茂みに身を隠している。
「これがダンジョンですか」
「はい、時間も外とは異なって進んでいます」
「太陽があるのですね。ダンジョンとは本当にまこと不思議です」
言葉通じるんだな。全員日本語しゃべってやがる。いや、実は日本語じゃなかったってオチもあったりするかもしれんな。俺の方が翻訳機能がついていたりするのだろうか。ダンジョンマスターの力って購入する力以外ないって言ってたけど。
「私の力です」
「さいですか」
「力切りましょうか?」
「やめて、めっちゃ不利になる。紅茶飲めなくなるぞ」
「まだ飲ませてもらっていません」
これでもかというほどの小声で会話をしていると、連中に動きがあった。
「お話ししておきたいことが」
「何か?」
「どうやら我々以外の足跡とスライムの通った跡がダンジョンの入り口から見つかりました」
うん。ど素人は足跡消したりしないんだよ。
ぬかったわ。
これは死んだわ。