助太刀
「勇者はすでに出発しています。それにしてもいいのですか?私と共に行動しても」
「あんた1人ならどうにかなるからな」
「ふーん」
聖女は背後をついて来るワイズちゃんに目を向ける。
「相打ちくらいには持ち込めると思うけどー?」
「恐ろしいこと言わんといてくれます?」
「いいじゃないですかー、可能性の話ですよー」
聖女の思想がイマイチ掴みきれない。教会の方針は分かっているが、聖女はそれにどこまで従順に行動を示すのだろうか。ダンジョンに恨みでもあるのだろうか。引き返すために電車に乗って時間が多少あるから聖女に聞いておきたいことを聞き出すことにする。
「なあ、教会はなんでダンジョンを破壊する方針なんだ?ダンジョンは結構その地に恩恵をもたらすことが多いだろう?」
「ええ、魔物を倒せばドロップ品という報酬を受け取り、それを生計にする者も確かにいます。しかし、世にはびこる魔物はすべてダンジョンから生まれています。ダンジョンを放置する限り人類は狭い土地で防御を固めるしかないのですよ」
「あー、やっぱりダンジョンからしか出現しないよな」
「そうですよ。もしかしたらダンジョン外でも魔物が繁殖していると考える者も世の中にはいますが、それは間違っています」
魔物は死体が残らない。倒した後しばらくすると死体が空気に溶け込むように消え、そこにはドロップ品が残される。魔物と野生生物の違いだ。魔物は厳密に言えば生物ではない。意思疎通を行える魔物もいるが、その実態は不可解なものだ。繁殖はしないが、コロニーは作ったりもする。例外的にスライムは分裂のスキルを持っているから増える可能性はあるが、ほとんどの魔物は生態系もどきを構築するだけにとどまる。
俺がドラゴンを最難関ダンジョンのコスモ・エクステリアに突撃させたのはどこか生物としての共感がなかったからだろう。送り込む大量のドラゴンたちはドロップ品として帰ってきた。回収してたのはカイト王子たちだけども。
「それだけ世界にはダンジョンが多いと」
「多すぎますー。そして生まれてくる速度もここ最近は尋常ではありませんしー」
「ここもその1つか」
「いいえ」
「うん?」
「ここはある種のサンプルですよー」
「サンプル?」
「まだわからなくても構いませんー。本当はノースランド王室より先に管理する手筈でしたのですがー」
おいおい。どういうことだ?
なんか教会の重要なことについて口を滑らせてないか?
「おい、そんなこと俺に言っていいのかよ」
「いいのですよー」
やっぱりこの人よくわかんねー。
追求したけど情報はそれ以上は漏らしてくれなかった。
入り口の街を抜ける時に別行動をしていたクレア王女と合流する。フードを目深に被って一応の変装はしてくれるみたいだ。
「俺だけでもいいのに」
「そういうわけにもいきませんし」
そう言って聖女を睨みつける。
いや、ワイズちゃんいるし刺されたりしないと思うけど?
「こちらはー?」
「信頼のおける実力者としか」
「わかりましたー、それより早くいきましょう。先行してる勇者は魔族相手には負けることはないでしょうが、魔物相手には勇者の加護は働きませんのでー」
俺たちは用意された馬に乗り、境界の街へ急いで向かう。途中の厩戸で疲弊した馬を乗り替えて4時間で境界の街までたどり着く。
境界の街。
鉱山街であり山に囲まれた街は大きな煙に包まれていた。
「大火事になってるじゃねえか」
「勇者はあそこです!」
「カイトが街の住人を避難誘導してます!」
姫様呼び捨てしたらバレますって、まあほとんどバレてるけど。
勇者は魔族というよりは魔族が誘導してきた魔物と交戦しているようだ。
「さすがに勇者と正面から交戦はしませんか」
黙っていたワイズちゃんが口を開いた。
「そんなに勇者が怖いのか?」
「それはもちろん、勇者の加護は魔族敵対時に、全ステータスを10倍にする破格のパッシブスキルですから」
………ほわっつ?
「10倍?」
「10倍です」
「へー、HPとかMPとかは上がらないならまだやれるんじゃね?無理そうだけど」
「いえ、HPもMPも10倍ですが?きちんと現状の割合で増えますし」
「………なんやそのクソゲー」
「なので魔族からすれば勇者の存在は病原菌のようなものでしょうか」
「そんなレベルじゃないと思うぞ、核兵器だ核兵器」
勇者が一回切りつけるだけで俺は何千回死ねるのだろうか。
「ちなみにパーティーメンバーにもその加護は及びます」
「魔王かわいそう。まあともかくゲート繋げて援護しなくちゃな。魔物を対処するだけで手が足りてないみたいだし」
俺はカタログ購入していたダンジョンゲートを開設する。小さなボールを設置目標場所に投げつけるとポンという間の抜けた音とともにゲートが作り出された。
さて、勇者の援護だ。俺の見せ場はここだけだしな。気合い入れて、前線で戦っている勇者に援護が来たと聞こえるように叫ぶ。
「さあ、来い!ラビリンスアースの即席部隊よ!境界の街を救え!!」
「ウオオオオオォォォォォ!!!!!」
「え?ぶへっ!?」
ラビリンスアースに控えていた部隊に轢かれました。
「すまねえとは思っているぞ、ぷくく」
「すまねえと思っているなら笑うんじゃねーよ」
ゴルドさんが先陣切って俺を轢いてたからな。その後ずっとワイズちゃんに看病されてたから役得だったけどさ。
「敵は勇者の存在を認知していなかったようですね」
「3日もダンジョンに籠っていたしな。ノースランドに来てることも知らなかったかもな」
ステータス10倍だもんな。しかもレベル300はあるから実質レベル3000の化け物か。裸足で逃げ出すわ。魔族涙目だろ。俺も魔族だったわ。涙目だわ。
「助かったぞルパン」
「その名で呼ぶのかよ」
「ならなんて?」
「ちっ、しゃあなしか」
「お前の号令で魔物相手から魔族相手に戦う相手をすぐ変更できたからな」
「でも逃したんだろ?」
「殿を2人倒したくらいだがな。俺がいるとわかるや、ほとんどがすぐに逃げて行きやがったし」
やっぱり裸足で逃げ出すレベルなんですね。魔族相手に理不尽すぎる強さを誇るからな。
「魔物は大したことなかったけど、魔族が民家に火を放ちまくってたし、魔物の量も量だったからな。住民を助けながら魔物の対処はきつかった」
「助けになれてよかったよ」
こいつ本当に勇者してるな。市民の味方ってイメージが酷く似合う。逆にそこを付け込まれるとこいつの行動原理から不利を付かれることになるだろうな。俺の援護を快諾したのは俺が防衛戦を得意とするから、ウェストランドを守ってもらおうという魂胆があるのかもしれないな。俺の防衛力はどちらかというと逃げだから勇者の思惑に合致するものではないけども。
勇者は俺が設置したゲートを眺めている。
「こいつが、逃げ切れる自信って奴だったのかな?」
「さあな」
「まだ何かあるのかよ。このゲートってのは破壊できるんだよな」
「できるぞ」
「そら何年も追いかけっこになるわな。逃げてはゲートを破壊すれば俺が追いかけるのはかなりきついと…」
そう言ってゲートに触れる。
「壊すなよ。境界の街の人も送るんだから」
「壊さねえよ。ってもう決まったのか?反発もあるだろうに」
「その辺はカイトに任せた」
「確かに次期国王のお言葉の方が心に刺さるわな」
故郷を捨てるのはかなり覚悟が必要になる。それを王子に任せるのは結構危険だったりするが、カイトは自分にも責任があると言って説得に向かっていった。なんか男気ある奴ばかり周りにいて自分が不甲斐ないな。
「ハルト様は頑張っていますよ」
「そうかな」
「きちんと自分のなすべきことをすれば皆が認めてくれます」
「なすべきことねえ…」
「頑張っている分、黒歴史も増えていますけど」
それは言わないで欲しかった。
今回の一件でからかいたくてウズウズしている姫様から目を反らしておこう。




