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ダンジョンの国の王様  作者: てるいち
国づくり
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責任のありか

「本当にいきなりなんですから」


 勇者との突発的な会談を終え、勇者は街に消えていった。今のギルドは冒険者はまったくいないのでど真ん中の席でくつろいでいる状態だ。


「すまんな、とりあえず勇者とは休戦状態には持ち込めたんだからいいだろう?」

「教会とは折り合いがついていませんが」

「そっちはしょうがない。勇者はあくまでも個人ですから。教会やら国やらの組織の影響で攻め込んできてもおかしくはないですけど…」

「それにしてもいいのですか?魔王討伐の協力なんて」

「前線に出るつもりはないですよ。バックアップみたいなものです」

「勇者が約束を破棄する可能性は?」

「どうだろう。今のところ勇者自身の判断でそれは99%ありえないと思うけど」

「1%は?」

「絶対はありませんので」


 それにしてもクレア王女も俺の突拍子もない判断に軽く付いてくるようになったものだ。むしろ諦めているのかもしれない。


「ウェストランド王にどういう言い訳をするかは知らないけど、うまくいけばウェストランドがラビリンスアースに入ってくることもあるだろうな。税関でたっぷり絞ってやろう、ぐへへ」

「最低ですわね。その企みは勇者に話しませんでしたね」

「全部話したら討伐されちゃうから」


 話さなくていいことは話さないだけ。勇者と和解した結果偶然ウェストランドが拠点を築きにやってきて、偶然通り道に税関があるだけだから。


「さてと国づくりを進めていきますか」

「顔を出すのか?」

「一応は」

「勇者が帰ってからにしてくれ、私の立場のこともある」


 アリアさんがこっち側なのはカイト王子のせいでバレているでしょうに。仕方ない1日待つか。


「いや隣町に行こう。あっちならどうせ誰も来ないだろ」

「そうですねそちらに出向きましょうか」


 というか誰も突っ込まないから放置してたけどいい加減名前つけないとな。でも近所の街の名前が終焉の街と境界の街だしな。ネーミングセンスとかねえよ。終焉の街とかもネーミングセンスあるとは思えないけど。




「こんにちは」

「まだおはようの時間じゃねえか?」


 そういえばそうか。


「あっちでは煙たがられているのでこちらに顔出しに来ました」

「そりゃあ建築家に喧嘩売ってるようなもんだしな。プライド傷つけられているんだろうよ」

「俺はダンジョンマスターですから、ダンジョン作りじゃ負けませんて」

「造形が建物だったからな。良くも悪くもドワーフの性分だよ」

「はあ、ダンマスなんだからいいやんけ…」

「お前さんはダンジョンマスターという名称ほどの大物感がまったくないがな」

「ひでえ」


 隣町のドワーフの親分、ゴルドさんとは砕けた関係が続いている。ゴルドさんの工房には見ない顔ぶれが何人かいた。俺と歳はそう変わらないだろう。


「彼らは?」

「ああ、あいつらは建築志望じゃねえ。電車の操縦志望だ」

「なるほど」


 あれだけ大きな物体が動いているのだ。何もドワーフだけが興味を唆られているわけではないということか。


「他にも路線作りたいやつとかもいるがな」

「意外と後継がすぐに決まりそうですね」

「俺も電車以外にもお前さんの知っている知識に興味はあるがな」


 目が笑っていないんだけども。ゴルドさんって少しマッドサイエンティストなところがあるなあ。


「研究資料があれば俺たちドワーフはいつまでも仕事ができる。いや違うな、あとは酒がありゃ言うことはないってところだ」

「へいへい、持ってきましたよ」


 安酒ですけどね。


「へへへ、やっぱりこいつがないとな。3日も空けやがって、こちとら楽しみを奪われてたんだよ」

「昼から酒盛りしないでくださいよ」

「大丈夫だ3時までは我慢する」


 おやつかよ。


「ごめんくださいー」

「ん?」

「誰だ?」


 ドワーフの工房に用がある人はかなり限られているはずだが。


「こっちに酒屋があると聞いたのですがー、閉まっていましてー」


 聖女ーーー!?!?


「あら、見かけない顔ですわー」


 俺の方を見てそんなことを言う。


「全員見かけない顔では?」

「確かにそうですねー」

「酒屋のルパンです」

「姫を攫った悪党の偽名と同じですねー」

「そうですが?」

「余裕綽々とは恐れ入ります」


 普段のにこやかな表情が引き、真剣な表情が表に出てくる。


「個人的にお話があります」

「俺は今日朝早くからお話だけで胃もたれしそうなんだが?」

「簡単なお話ですよー」


 元に戻った。なんか気が抜けるな。


「それではうちに寄りますか?」

「はいー」


 三歩ほど後ろをついてくる聖女はにこやかな表情を浮かべている。なんかこの表情が不気味に思えてくるな。確か宣戦布告をしてきた聖女との話だけど。


「どうぞ」


 鍵を開けて入り口のドアにかかっている看板を営業中に変える。


「おおー、お酒いっぱいありますねー」

「どのようなお酒が好みですか?」

「果実酒が一番好きですー」


 果実酒ねえ。酒については詳しくないんだけどワインって果実酒だよな…。なんか特別な枠の酒類だったりするのだろうか。


「このあまり売れていないお酒はなんですかー」

「梅酒ですね。梅から作られたお酒で結構甘いですよ」

「リキュールも好きですよー」


 果実酒とリキュールって違うのだろうか…。そこらへんは飲兵衛に聞いておかないとな。いや、ロイドに聞いておこう。買い手に聞いては俺の酒屋の立場が変なことになるし。


「こちらは白ワインです」

「白ワインですか、赤も好きですよー」

「ではこちらも」


 ドワーフ達に受けの悪い果実酒系を買おうとしてくれる珍しい客になっている。あとはクレア王女が白ワインを好んで飲んでいるくらいだ。


「3点で60ゲインです」

「そこそこしますねー」

「一律20ゲインでやらせてもらっています」


 価値換算的には6000円ほどか。一泊しても御釣りが来る値段だ。


「聖女ですのでー、50ゲインに負けてくださいー」

「理由ひどすぎ!?」

「ハルトさんがダンジョンマスターだということは黙っておいてあげますのでー」

「っ!」


 名前をいきなり呼ばないでほしい。当たり前にバレているのだが、心臓に悪い。


「はいはい、50ゲインでお願いします」

「やったー。マリエル感激ー」


 ハルト傷心ー。

 ふざけていないで本題に入ろうかと思っていたが、お話という認識に齟齬があったみたいだ。勇者のように真剣な話し合いをするのかと思えば、普通に酒屋から出ていった。


「またのおこしをおまりしておりますー」


 果てしなく棒読みになってしまった。

 さて、せっかく店を開いたのだから時間的に買い付けに来る客もいないだろうから訪問販売でもしようかな。仕事場にいつもの飲兵衛たちはいるだろうし。ダンジョン入り口の街にも出荷しなければな。


「おい!ハルトいるか!」

「ゴルドさん?お酒が恋しすぎて来たんですか?」

「ちげえ!境界の街が今魔族に襲われているって早駆けが来た!」

「っ!?本当ですか!?」

「ああ」


 境界の街。

 俺がラビリンスアースを発展させるために代償になっていた街の名前だ。そして俺はノースランド王との謁見で境界の街に起きることの責任を取ると直接の言葉ではないが宣言はしていた。そのことをラビリンスアースに住んでいる人はある程度理解している。


「俺が出ます」

「バカ言え!今はここに勇者も来ているんだろ!?任せるか援助するのがいいに決まってる」

「違う。あの街で起こる事態の責任に俺が関与しているからだ!」

「そんなわけあるか!」

「境界の街から人が抜け、街を守る衛兵の人数も少なくなっていました。その隙を魔族に晒してしまった。遠からず俺が関与しているんですよ。」

「だとしてもお前の力量じゃ勝てるわけがないだろ!」

「それは百も承知です。ですが!ゲートを繋ぐには俺自身が向かわないといけないんです!」


 興奮が冷めない。ゴルドさんも俺の言葉に目を丸くしていた。


「ゲートってのは、道をつなぐみたいなことか?」

「ええ、ダンジョンと外の世界を繋ぐ入り口です。それは1ヶ所だけとはいっていません。逆に言えば境界の街に直接ダンジョンの出口を繋げることができます」

「そういうことか…、わかった」


 ゴルドさんは自分の掌を眺めている。


「バックアップは任せろ。俺たちも戦う。戦える奴らを集めて、境界の街に出撃する準備は整えておく」

「…お願いします」


 俺は急いで酒屋を飛び出ると聖女が待機していた。


「私も聞きましたー、行きましょうか」

「ああ」

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