永世中立国
ウェストランドの騒動が落ち着きを見せていた頃、ようやくウェストランドの最高戦力である勇者に動きが見られるようになってきた。ついでにいえば教会も本腰をあげてここを検挙するようだが、住人の理解は得られないだろう。
「そういうわけだ。勇者がハルトの討伐に本腰をあげてやってくる」
「了解しました」
「了解ですわ、お父様」
「………」
本日はノースランド王が娘の奪還のためのダンジョン視察という名文でダンジョンに視察に来ている。紛らわしいが、王様としてはラビリンスアースの発展を見に来ただけで、娘を取り戻しに来たと言うのが建前になる。
「ハルトよ…」
「いえ、私の言うこと聞いてくれませんし。ジッとしてもらえるような人でもないですからね」
姫様の自由っぷりは父親が一番理解しているでしょうに、俺のせいではないぞ。
「そうはいうがな…、どこに目があるかもわからんのだぞ。事の次第によってはノースランドとウェストランドの仲が引き裂かれるやもしれん」
「承知しておりますわ」
「承知しておるなら少しは身を隠せバカモノ!」
おう、なんか王様のブチギレシーンはなかなか珍しいな。
「ですが、私はもうハルトのものなのです!身を隠そうにも愛しの妻を見せびらかせたいと」
「そんなこと一言も言ってないんですけど、嘘つかないでくれます?」
「いけずな方」
「姫様絶好調ですね…」
王様は額に手を当てて悩んでいる。自由奔放な自分の娘に呆れているのか。
「ハルト、娘はくれぐれも頼むぞ」
「は、はい…」
これ絶対に結婚とかそういう方向性の頼みごとじゃないって一瞬でわかるな。
「アリア、囚われの身であるクレアの護衛は不自然だからな。ダンジョン街の町長ハルトの護衛の任、かつクレア捜索隊としてこの地に就いてくれ」
「はっ」
アリアさんお久しぶりです。襲撃した会場で本名呼ばれたの覚えていますからね。
「久しいなハルト」
「お久しぶりですね」
握手を交わすが互いに思いっきり握りしめている。
「あのあと大変だったのだぞ?」
「姫様のためですよ?それくらいの任務、華麗にこなしてくださいよって、いてててて、タンマ!痛いって」
さすがレベル300台。とんでもない握力してやがる。ゴリラやん。
「姫様、くれぐれも身分がバレないように気をつけてくださいね」
「わかっているわ」
「あれ?あれ?父の言葉と同じことだよね?なのに対応違う?」
俺は王様の肩に手を置いといた。
隣町の見学もしたいとダンジョンコアのテレポートをして普通の街づくりをしたということを伝え、帰りは電車を利用することになった。
「これが電車というものか、結構速いな」
「雷の力を利用しているという説明でいいでしょうか?」
「さっぱりわからんな。だが、これだけの運搬能力はあってもここでしか使うことはできないだろう。モンスターが存在しない世界というのは新鮮だ。それに見たこともない馬鹿高い塔もあるし」
「それら以外はいたって普通です。外との違いは私のダンジョンというくらいしか」
「うむ、やはりモンスターに支配されている世界をどうにかしなければならないのだろうな」
隣町も含めた見学から帰ってきつつ、王様と電車に揺られながら外を眺める。速度は抑え気味なので時間はかなりある。いくらモブ顔の王様でも王様なんだよ。緊張するんだよ。早く着かないかなあ。
時間が余りすぎているため、ラビリンスアースの住人の生活基盤が整っていることを確認したノースランドの王様と少しばかり話し込むことになった。
「税関か。いよいよをもって独立といえばいいのか」
「どうですかね?自治区と認識すればいいのでしょうか?」
「一応はノースランドの傘下という扱いか?」
「そうですね」
「うーむ…」
「不満ですか?」
「ああ、ないとは言えん。むしろ反対意見を出したいくらいだ。第一にここには自衛をできるほどの軍がない。ウェストランドに攻められたら我々ノースランドの立場がいかにあやふやか」
「軍は作ろうと思えば作れます」
「モンスターか?それは教会という巨大な組織を相手にすることになる。そうなればノースランドからの援軍もありえなくなる。我々は教会といざこざは起こしたくないのでな」
「そうでしょう。デメリットはたくさんあります。ですが、自衛にモンスターを用意をする価値もありますよ」
「価値?どんなだ?」
「ええ、モンスターの軍隊は自衛軍であり、外に出て戦わなければいい。それならウェストランドはラビリンスアースと戦争をしているのではなく、ダンジョン攻略をしているように見えませんか?教会からの援助は受けることはできても、他国からの援助は降りない。住人はモンスターが勝手に守っているだけという口実も立ちます。そうすることで住民は結局のところノースランドの人間であり、生活のために税金を取る必要があると。そうすればラビリンスアースに移住したノースランドの人たちに手出しはできません」
「税金取ってるのはノースランドの人間じゃないんだがな」
「人間でもないですけど」
「あくどい男だ。関税はあくまでノースランドの利益になると言うことか。なるほどウェストランドが人材を派遣すればするほどに税金が入ってくるのか」
「軽い税でも積もれば大金ですよ」
おそらくは攻略に難航し、教会もウェストランドも支部を作らなければならなくなるだろう。そうなれば出入り口は現状ノースランドにしかなく、ノースランドががっぽり稼ぐことになる。分け前は町長としての立場でもらうけど。発展のための徴税よ。
「うまくいくだろうか…。色々な問題を抱えそうだ」
「もちろんノースランドにも表面上の関税を取らせていただきます。まあ、表面上ですが」
「これが不正か」
「魔族に不正とか言われても、人間界のルールなんて知りませんよ」
「都合のいい時だけ魔族面するんじゃない。不正とはいつか公になるものだ」
「それは姫様にも言えることです…、本当に彼女を覆い隠すことなんてできないと思いますよ。いつかはウェストランド王にバレるはずです。」
「………ハルトよ。もしやお主ノースランドとラビリンスアースの関係性を露見させようとしているのか?」
「………」
図星。さすがに不自然すぎる態度だったかもしれない。
「参ったな。そうか…、お前には何らかの策略があるのだな」
「王都を訪れた際に他国への交易ルートを確保したいと俺は言いました。それも結局は同じ企みなんです。俺が目指しているのは永世中立国です。永世中立国を目指すにはノースランド以外の3カ国もこの地に呼ばなければなりません」
「永世中立国…、それは夢のまた夢にすぎない。今魔王という存在が我々人類の生命を脅かしているからこそ団結しているだけで、それが取り除かれれば、再び人類同士の醜い争いは生まれる!そんな最中に永世中立国を、しかもダンジョンに作るだと!?」
「はい」
ノースランド王が威勢よく睨みつけてくるがそれに怯むわけにはいかない。確かに俺の力量では無理難題なのかもしれない。
「…きっぱりと、言うんだな」
「ウェストランドとのしこりはそう簡単には消えないでしょうけど、それでも俺の目的はこの地を永世中立国にすることです」
「…本気のようだな。すでに四大国政府機関という自治区があるのは知っているか?」
「はい」
「それでも作るのか…」
考え込むように下を向き、椅子に体を預け、そのまま目を閉じた。しばしの時間が経ち、ノースランド王が目を開く。
「よしわかった。今はサウスランドにウェストランドが接近している現状、ならばイーストランドに私が掛け合ってみよう」
「ノースランド王…」
「勘違いするなよ。私はきっかけだけは作ってやる。あとはハルト、お前次第だ。それに永世中立国になればきちんとクレアをお前の嫁にやれるだろう」
「了解しました」
俺なりのクレア王女の守り方ってのはダンジョンマスターとしての能力に過信はしない。それはノースランド王に伝わったと思う。
まあ、俺が楽に生きたいのがメインの理由だったりするんだけど、口が裂けても言えねえな。20回はぶん殴られる。
さて、もう早馬の情報では国境を超えて勇者が来ていると話が入ってきた。しかも今回は勇者パーティーの4人に加え、聖女とノースランド王子のカイトの6人パーティーらしい。魔王城にでも乗り込んでこいや。




