ハルトは電車を手に入れた
「頭がガンガンする…、結構寝たはずなんだがなあ…」
「あんな劇薬飲むからですよ。それともう40時間経ちましたよ」
ということは2日後の朝くらいか。めっちゃ腹減ってるわ。
「パンピーにアドリブはきついんだよ。ブーストしてようやく悪役を演じれるくらいにはなっただけマシだな。それより、あの後どうなったかわかるか?」
「カイト王子の容体は不明ですが、今朝方エリスが帰国していたため、持たせていたトランシーバーで状況を教えてくれましたよ」
王都襲撃から始まり、王城への侵入、勇者を撒き、婚姻を結ぶはずだった王女の誘拐。ウェストランドに起きた悲劇はそう簡単に鎮静するものではない。その責任をウェストランドかノースランドかで議論が荒れていたらしいが、ウェストランド王が勇者に詮索させる旨を主張し続けたらしい。しかし、勇者の仕事は魔王の討伐であり、誘拐犯に集中させるわけにもいかないと教会の言が伝わって自体は混沌化しているらしい。
「それで結局勇者召喚の大義を名分に勇者に一時的に捜索をさせる方向で決まったらしい」
「ちぇっ、結局勇者は追っかけてくるわけか」
「大変ですね」
「ワイズちゃん的にはどう?」
「1対1なら止められますよ。前回はこちらを舐めてかかってきていたので楽に対処できましたが、本気でくるなら私も本気でやらないとまずいので」
ということは勇者パーティーの勇者以外のメンバーを相手にしなくちゃならないのか。
「で、このダンジョンが発見されるまでどれくらいだ?」
「アドリブで色々とやらかしているので、その言い訳をカイト王子に任せましたね?」
「うん、まあ…」
「なので、もうばれています」
「ファ!?え?ここもうバレてるん?」
「色々と調査もあったらしいですね」
壊れたダンジョンゲートがいくつかのダンジョンで発見され、その発見されたダンジョンを繋ぐと終焉の街付近に行き着くという。それとカイト王子があの誘拐事件の場で色々と正直に話さなければならない状態にあり、このダンジョンでノースランドが発展していることをウェストランド側に話し、そのダンジョンマスターが友好的な態度を装って王女を誘拐いたゲス野郎ということになったらしい。激しく心外である。ゲス野郎はどっちだこら。
「とにかく勇者がこの地に入ってくるまでに発展させられることはやっておくか。税収たんまり奪ってるぜ、うへへ」
「何かなさるので?」
「もう随分とレベルが上がったんだ。電車だってカタログで買えるぞ」
「街づくりですか」
「それ以外にもダミー用のダンジョンをいくつか設置して起きたい」
「それとお伝えし忘れていましたが、急激なレベルの上昇により、このダンジョンにも結構な変化が起きています」
変化?
ああ、ダンジョンマスターのレベルが低い時に起きる現象だったか?
「レベルの上昇とともにダンジョンは変化をしていきます。レベルが上がれば上がるほどに反比例して微々たる変化となっていくものですが、拠点が大きく変化しています」
「拠点が?寝に帰っても変化なかったけど?」
「下に伸びていますね。その空間は相当な広さだと言っておきましょう」
確かにレベル30くらいから一気に200まで上がっているもんな。俺のステータスがMP以外成長しないからあまり実感はわかないけれども、というかレベル200くらいの生物のなかで俺は最弱なのではないか?ステータスアップの木の実はたくさん食べたんだけどな。スキルとか魔法とか持ってないし。
拠点の変化は楽しみにしておこうかな。
「あまり時間がないからな。拠点の変化のことは勇者がここに踏み入れて来たらで良いだろう」
「勇者だけが刺客とは限りませんよ」
「ああ、シスコンも立場上、自分のせいで姉が攫われた状態だから参戦してくるのかな?」
「どうでしょうね。というか、良いんですか、あれ?」
「知らんがな」
思いっきり攫われた身でありながら、街づくりの指示を飛ばしているクレア王女から目線を逸らしていたのだが、ワイズちゃんに指摘されて目を配る。残っていた少数の王国兵の中でリーダーを務めてくれている人となにやら街づくりの話し合いらしい。
「———第6番地にその資材を運んで置いて、…あれ?この辺こうなってるの?」
「そこには酒場が立っていますよ」
「へー」
「輸送は隣町からペガサス便で持って来ています」
「へえ!」
やばいですよ。
「脱兎のごとくとか言いながら逃げようとしないでくださいね」
「逃げるそぶりすら許してくれないとは何事?」
思いっきり説教されました。
「鉄道輸送ですか…」
「急ピッチで作ることになるし、安定感は低いかもしれないが、速度制限さえつけておけば事故にはなりにくいだろうよ」
「それをなぜ2つ?」
「ドワーフ達が連日の面白みのない家づくりや道づくりに飽きていてな。この科学の塊みたいなものを分解して分析して欲しい」
「褒美、みたいなものですか?」
「まあ、一部そういった意味合いもあるが、メインはそれで得た知識を使って運用する電車の管理だな。次いで次世代に向けた技術の伝達を可能にさせるためだ。知的好奇心をくずぐるものに勤勉家なドワーフ達が飛びつかないことなんてありえないからな」
「あくどいですね」
「両者にとってプラスならウィンウィンだよ」
「ウィンウィン?」
英語とかスラングとかその辺りの翻訳は相変わらず甘いなあ。
俺とクレア王女は場所を隣町に移し、そこに電車車庫を作る。そして次に線路の土台を用意する。その間に電車の分解を嬉々として行うドワーフにいきなり電気で動く電車はきついから、蒸気機関車を添えておく。そっちも嬉々として分解するあたりドワーフという種族も大概変人だろう。
「ようやく線路引けたよ。人が入らないように柵も敷いたし」
「お疲れ様です。半日がかりでできるだけいいのでは?」
確かに、この距離の整備を終えるならどれくらいの人材を使って何日かかることやら、カタログ購入でそのまま線路を配置してしまうから簡単に配置できるし、土台はワイズちゃんやクレア王女が魔法でいくらでもいじるから簡単に作れてしまった。
「あー、土台を魔法で作るのはいいが、魔法で崩されることもある?」
「ええ、崩そうと思えば」
「干渉できないような保護魔法をかけないとまずいか」
「それならセーフティーゾーンに指定すればいいです。いかなる攻撃も受け付けませんので」
セーフティーゾーン先輩すごすぎる。
「よし、ひとまず強力な輸送経路は確保できた。線路の延伸は明日やっておくか。姫様は2つの街に指示出しでいいでしょうか?」
「私のことはクレアと呼び捨ててください」
「いやあ、その…」
「ハルト」
「それは卑怯では?………クレア」
「はい」
顔が熱くなってきた。
「なにいちゃついているんですかねえ?」
一気に現実に戻る一言やめて。
「それはそうと、物資輸送の基盤を整えてどうするのですか?運ぶものも特にないでしょうに」
「いや、嫌われはしたが、金の卵を生む鶏を締めるのは勿体ないだろう?ウェストランドをこのラビリンスアースに誘致するのさ」
「ウェストランドをですか?」
「ああ、その基盤は整えるつもりだ」
「うまくいきますか?」
「行くだろうさ、こんな資源と土地のある場所を使ってノースランドが好景気に突入しているんだ。ウェストランドの王はさておき、政治に携わる人間なら欲しがってもおかしくはないさ」
「どうでしょうね。ウェストランド自体は勇者の召喚でその感謝として莫大な資金を援助されていますから欲しがるかどうかは」
「支援金ってのは一時金なのさ、安定的な経済のために継続的に利益が出続けるものを欲するものさ」
「そうですか」
不労所得ならなおのこと良しだな。
そう。つまりはノースランドの保有する土地以上に鉄道を伸ばせるようにし、ウェストランドの参入を目指す。敵を懐に招き入れる行為だが、金の卵を産むのは俺にとっては生活している住民がそれに値する。人の少ないこの世界において住民の確保はかなり重要なものだ。ノースランドの人口では境界の街一つ分しか確保はできない。ならやはり他国から人を集い、より強固な防衛を張るならあえて懐に敵を招き入れてやろう。即死系ダンジョンマスターの防御網を張り巡らせてやるぜ。ただし、攻略に時間がかかればかかるほどダンジョンの防御はパワーアップして行くがな、ガハハハ。
「不安が残ります」
「マスターの悪い癖が出てますね。勇者も成長するんですよ?聞こえていませんか」
街の発展に必要な最後の要素として、国を形成する。ドワーフ達は公務員として雇い、主に道路整備や電車の整備の交通インフラを担当してもらう。他にも募集をしたところ、何人かが公務員を志望し、なんとか税金の管理はできそうではある。初めはかなり安く設定しているが、防衛費とかかかると大変なことになるだろうなあ。日本で言うところの国土交通省と財務省のようなものができあがった。あとは防衛省作って、経済産業省とかいるのかな?王政の政治とかわからねえ。税金のことしか勉強していないしな。リアル日本と違ってここは完全に俺を頂点とした君主制度になっているから、日本のときの法制度が大して流用できない。貴族制がどんな運用で行われていたとか知らんし。
「はいどうぞ」
「また猿でもわかる系ですかね?」
「カラスに劣る脳でもわかる君主政治です」
「どこ出版の本だよ!?…といってもこれから身を隠す俺が治めるのは難しいかな?」
「お忍び仕事していればいいのでは?」
「それだと勇者来たらやばくね?さすがに勇者の探知はかいくぐれないだろう」
「カカシ立てておきましょう」
「あれ効くかな?」
「効くとは思いますよ。ハルト様の反応をコピーしますので」
「なんでカカシが索敵に引っかかるんだろうな」
「さあ?」
街中のいたるところに案山子ばらまいとこ。みんなには説明よろしくと王国兵の居残りメンバーのリーダーさんに伝えておく。
「まだ勇者が来るまでには時間がありそうですね」
「ノースランド王の方が来るの早そうか?」
「ですね。おそらくカイトも同時くらいにくるでしょう」
「俺を討伐かつクレア奪還という口実で下見に来るのか」
「発展させていれば文句はないでしょうね」
「いや、勝手に税金を搾取したらキレられるかも」
「もうすでに逃げ腰ですか…」




