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ダンジョンの国の王様  作者: てるいち
国づくり
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事件後

つなぎの話

 ハルトが疲労で倒れ伏した頃。


「ああ…、ビッグブルーバタフライの鱗粉か…」


 カラーコンタクトなるものを目に嵌めて操られた演技をし、洗脳が解けたことを装うためにカラーコンタクトを目から外し、ビッグブルーバタフライの鱗粉を使って昏睡状態になっていたのか。そうすることで、傍から見れば洗脳が解けて事が切れたように倒れ伏す王子の完成だ。この鱗粉は色々と便利なものだな。


「ここは、ウェストランドの医務室だろうか…」


 これから軽い尋問に会うだろう。ある程度本当のことを言って良いと言っていたからな。下手な嘘をつくと俺とハルトの関係性が露見しかねないとのことだったはずだ。


「目が覚めたかカイト王子」

「エリスさん…」


 医務室のカーテンを開けたのはこちら側の人間。しかし側には母上とウェストランド王とウェストランドの第二王女のエリルがいる。名前似ている2人がいるとはややこしいな。


「体調の方はどうだ?」

「大丈夫です。あまり疲労感とかはない…かな」

「怪我は治してある」

「そういえば怪我していたか。夢中であまり覚えていないけど」


 あの名演技を必死に熟すのに本当に夢中だったからな。怪我してたかは正直覚えていない。エリスさんが微妙な顔をしてるけど気にしない。


「奴のことは知っているのか?」


 聞きたかっただろう質問をようやくウェストランド王が告げる。


「ええ、知っています。ですが、表の顔と先ほど見た裏の顔があるのなら、あまり知らないかもしれません」

「知っていることで構わない」


 さすが賢王と呼ばれるだけにがっついて聞いてきたりはしない。


「奴はハルトと名乗り、ノースランドにある1つのダンジョンのマスターをしているものです」

「ダンジョンマスターだと!?」

「ええ、しかし…」

「…知っている事だけ話してくれれば構わん」


 俺は正直に話した。

 ノースランドにかなりの恩恵を与えてくれるダンジョンマスターであり、友好的な存在で姉のクレアもそれを認知していた。ノースランドの最近の好景気はハルトのダンジョンが影で支えていたものであり、ノースランドも友好関係を築いていた。


「なるほどな…、初めは友好的な相手だったということか」

「姉上とも仲が良かったですね」

「むぅ」

「ですが、それはただの表面上の顔だったかもしれません」

「なるほどな」


 この設定だと誰かさんとモロ被りするんだけど大丈夫だろうか?姉上以外に興味がなく、それ以外では良人を演じる。いや、本分は良人ではあるが、その対価として絶対に欲しいものは譲らず打算的に見える人物、俺の目の前にもそれに該当する人物がいるんだけどね。


「姉上がウェストランド王と婚姻関係にあることはハルトに話してしまいました」

「いや、それならば仕方なかろう。その時は悪人であると知らなかったのだからな」


 うん?

 ああ、なるほど。

 すまんハルト。どうやらウェストランド王も目当てのものを目の前で取り上げられてしまったせいで怒りの矛先をハルトに完全に向けて冷静を装っているみたいだ。内心怒り心頭だろう。このままその方向に任せてハルトを悪人にしておくことを許してくれ。


「こちらにいましたか」

「アリア、どうでした?」

「近くのダンジョンに教会の管理するダンジョン、ロストルインと同じゲートのようなものが壊れて存在していました」

「つまり逃げられたと?」

「申し訳ありません」

「わかりました。アリアは近くのダンジョンの捜索を続けてください」

「はっ」


 アリアが帰ってきたと思えばすぐに次の支持を母上が飛ばし、アリアは会釈だけしてさっさと退室して行ってしまった。

 俺自身あまり実感が湧いていなかったけど、次期国王の肩書きの重要度は滅茶苦茶高いんだな。姉上の護衛のアリアですらその本分を行えなくなる事態を引き起こすのにはうってつけというわけだ。俺自身が元々強いから護衛をあまり割く必要がない。それは姉上にも通じる事があるが、それを上回る存在がいれば、容易く出し抜かれるというわけだ。ハルトに上回られたわけではないけども。


「ウェストランド王、もう質問はありませんか?もう少し療養させていたいのですが」

「ああ、今はもうないさ。私もやらねばならないことが増えたので、これで失礼するよ」


 ウェストランド王はこれから王都で起きた魔物の襲撃事件を片付けなければならないだろうし。父上はどうなされているのだろうか。




「くそっ!」

「王、どこに目があるかわかりませんから悪態を吐くようなことはしないでください」

「これは我々の沽券に関わることなのだぞ!くそっ、ノースランド王め!」


 事件が起きた後にすぐにノースランド王は帰国した。自身の護衛を最小限に自分の妻を最大の護衛として息子のカイト王子に付かせている。ノースランド王妃は今の俺でも到底敵わないくらいに強いのはすぐにわかってはいた。王が悪態を付いているのは今回の儀式における護衛をウェストランド側が一任されていたこと、それにより事件が起きて花嫁をさらわれてしまったこと、さらわれるような戦力の国に娘を預けられるだろうか?ノースランド王は自分が娘を奪還した際には娘の婚約は破棄するとウェストランド王に突きつけて帰国した。


「勇者、どれくらい時間は作れる?」


 怒り心頭でも頭はそれなりに回るのがこのウェストランド王だろう。最初に聞いてきたのは勇者の俺の持っている時間だ。


「どうでしょうね。ある程度は時間が作れます」

「クレアを攫ったのはノースランドのダンジョンマスターの1人だという」

「…へえ、そうですか。なら思っているよりも時間は取れるかもしれません」

「どういうことだ?」

「ノースランド支部からの情報によればノースランドは今とあるダンジョンの中に街を作り、そこから結構な利益を生み出しているらしいんですよ。それを教会の立場としては看過できないので討伐依頼が来ていました。利益になるなら放置しても良さげだと思っていましたが、件の犯人なら話が変わってきますね」

「わかった。それ相応の報酬も用意しておく」

「………」

「なんだ?欲しいものでもあるのか?」

「いえ」


 むしろ第二王女のエリルとの婚姻関係を作ろうとするのをやめてもらいたいなあ、と思ったけどまだ口に出す時ではないな。


「あまり期待しないでくださいね」

「ずいぶん弱気だな」

「まだイーストランドの地は行ったことがありませんが、ウェストランドとサウスランドと違ってノースランドのダンジョンの強さは身にしみていますので」

「そんなに強いのか?」

「ダンジョンマスターの部下に俺の一撃を素手で止めた化け物もいるので」


 あのゴスロリ衣装の少女は軽々と俺の攻撃を止めた。聖剣が反応しなかったということは魔族ではないのだろうが、俺はこの世界で最高難易度のダンジョンで鍛えた。俺を超える実力者はそうはいない。人類最強と歌われるノースランド王妃、最強の軍を持つイーストランドの総隊長、ノースランドの剣姫アリア、轟く異名の持ち主には敵わないだろうが、少なくとも五指には入ると思っていた。だからこそ本気では切りかからなかった。だが、相手の少女はいとも容易く素手で止めた。それを加味すると今回の任務はそう簡単に片付きそうにないな。


「サウスランドにも交渉をしてみる」

「そうですか。それよりも、俺は王都の巡回に回った方が良いと思うんですけど?」

「ああ、頼む。そしてなんとしてでもクレアを奪還せよ」


 王の言葉を背中で聞いて退室する。

 おっさんの見苦しい姿を見る趣味はないんだよなあ。


「絶対あのクレア姫はあの誘拐犯に惚れてただろ…」


 人の恋路を邪魔するような役目になるとは…。

 なんか勇者って思ってたのと違うなあ…。

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