王女誘拐事件
「フハハハハ!我が名はアルセーヌ・ルパン!クレア王女を攫いにに来たぜ!」
「ハルト!」
オイィィィ!?誰だ本名呼んだ奴!?ってアリアさーーーん!?
「あっ」
しまった!みたいな顔もしないでくれ。こんなところでアリアさんが炸裂しなくてもいいでしょうに!
「何者だ!?」
いや、すでに名乗っていますよ、ウェストランドの王様さん。ついでにアリアさんに本名もバラされました。幸いなのはアリアさんとウェストランド王の距離が離れていたことか。慌ててクレア王女がアリアさんの口を塞いでる。初手からアドリブ要求されそうになるとは…。
「ククク、こうも著名人が並んでいると壮観だな」
「貴様!私の問いに答えんか!」
「おっと、ウェストランド王。あまり怒らないでほしい」
「怒るなだと!?この事態を作り出し、よもや宣戦布告に等しい状況で怒るなだと!?舐めているのか!」
「いやいや、冷静さを欠いてはいけませんなあ。名君の名が泣きますよ」
カイト王子まだですか?結構時間を稼いだぞ?まだかよ。
「ふん、そんなことどうでもいいわ。勇者、奴を捕らえてくれ!」
「おっと、私が何の策も用意していないと思っているのかい?」
はよしてくれー。
一応勇者の動きが止まった。
「この場でもっとも価値のある者を人質にしているというのに」
「人質だと?」
「ああ、誰かわかるかな?」
意外と冷静なのか周囲を見渡す余裕があるようで、まあ確かに俺の存在って威圧感とかないだろうしなあ。余所見とか余裕すぎだろ。っとようやく準備が終わったみたいだ。
「人質などおるものか…、勇者よ!」
「はっ」
「この婚姻の日にもっとも価値ある人物がわからないのか?」
まさかクレア王女かといった具合で花嫁衣装のクレアに目をやっているが、残念ながら違う。
「招待した上で、もっとも警護しなければならないのはノースランドの次期国王。カイト王子だろう?」
「なっ!?」
皆の注目がカイトに注がれた。そしてそのカイトの目は赤色に変化している。そして自分の首元にナイフを構えセルフで人質の構図となる。まるで操られているようだ。
「カイト王子は操らせてもらった。勇者よ、私を斬りたければカイト王子も死ぬと思え」
「なんだとっ!?」
両国の関係に大きなヒビが入る要因はカイト王子である。ノースランド王は側室をとっていないため2人の後継者がいるだけで、その2人の優先度が高い人質になるのは男子のカイト王子である。もちろん、なんらかの要因でカイト王子が死んでしまうようなことがあれば国王につくのはクレア王女となるが、それはウェストランド王も望まない展開である。
というか、どんだけカラーコンタクト入れるのに苦戦してんだよ。右の白目が真っ赤だぞ?
「それではクレア王女、こちらへ。聡明なあなたならこの現状をよく理解していると思いますが?」
聡明なクレアさんならカイト王子もこっち側だと気づいているよね?
俺の言葉に会場の人間はただ見守る他なかった。カイト王子が最大の人質になるのは盲点だったようだ。普通気がつくと思うのだけれど、長年狙っていたクレア王女を前に注意力が散漫にでもなったのだろう。それはそうとクレア王女の護衛担当はアリアさんだが、もう1人補助的な護衛についている人がいる。俺は衣装の首元についている小さな四角く黒い物体を取り上げる。
「無粋なものが付いているではないか」
「お、お止めください…」
なんかクレアさんも迫真の演技かましてんな。これでもう1人ノースランド側だと確信を持たせられる。
「これは遠く離れた位置でも場所がわかるアイテムだったな。こんな小型のものがあるとはさすが護衛には結構全力ですなあ。終焉の街のギルドマスター、エリスさんよ。だが、それなら先にカイト王子をお祓いにでも行かせるんだったな」
「くっ…」
「ウェストランドの護衛は調べるまでもないな。勇者の足止めさえしておけば問題はないだろう」
俺は慢心した姿を晒す。
「馬鹿め!ウェストランドの護衛は勇者だけではないわ!」
「よせ!やめるのじゃ!」
エリスの制止を振り切ってウェストランドの護衛陣が動き出してしまう。
勇者とアイコンタクトをとっていた連中が一気に動き出し、カイト王子が構えていたナイフを弾き飛ばす。そしてカイト王子の身柄を拘束しようと勇者パーティーと思しき2人が動き、それを見た勇者がこちらに突撃してきた。
「馬鹿…ねえ。馬鹿とは私のことだろうか?」
勇者の聖剣の一閃はワイズちゃんが素手で受け止めてしまった。
なんやこのチートキャラ…。
「なんだと!?」
「勇者は魔王や魔人といった魔族に対するアドバンテージ、そして驚異の成長率があるが、逆に言えば、魔族に該当しない相手にはただの人間と大差はない」
まあ、俺は一応魔族に該当するんですけどね。ワイズちゃんは精霊に位置するから該当しないだけです。
「ついでに人質が増えたみたいですね。あとそれと勝手な行動をとった罰としてカイト王子には多少の怪我を負ってもらうことにしました」
「そんな…」
ぶっちゃけ今のいざこざで勝手に傷ついているだけだけども。
確かウェストランドの第二王女だったかな。勇者パーティーに入っているお姫様だ。事前情報通りの縦ロール具合だ。すげえな、ドリルやん。カイト王子の身柄を確保しようと思ったのだろう。だが、勇者のように成長補正があるわけではない勇者のパーティーメンバー相手なら今はカイト王子の方が強い。無傷とはいかなかったけど。
簡単にカイト王子が縦ロール姫を逆に捕らえて人質にしたあたりでノースランドの王妃様は気づいたようだ。カイト王子の実力では勝てない相手だったからな。それをいとも簡単に捕まえたということはそれだけ成長したということ、姉の晴れ舞台の前に俺のダンジョンにいるという情報から、俺とカイト王子がグルだということはわかっただろう。
「勇者の力に甘えた結果がこれだな。やはり一般兵から考えて見てもノースランドの兵は優秀らしい。拍子抜けだな。ウェストランド相手なら簡単に奪えると思っていたが、予想以上に簡単だったよ」
ざまあ、ざまあ。いい歳こいて2周りも下の女性を囲おうなど片腹痛いわ。ダンマス舐めるなよ?
「あら?カイトの左目が戻っているわ」
と王妃の言葉。俺とカイト王子は同時に目を見開いた。
「え?」
「え?」
なん…だと…!?
カラーコンタクト左目だけ外れているやんけ!?
即座にエリスさんが困惑するカイト王子にジェスチャーで左目のコンタクトが外れたことを伝える。カイト王子も困惑していたが即座に左目を覆い隠し悶え始める。
「クソォォォ!?出てくるな!この俺の支配下から脱け出ようというのか!そんなことはさせん!くっ、俺の中から出て行くのはお前だ。俺は貴様なんぞに操られたりはしない!そうはさせるか!」
なんだこの茶番。
カイト王子、お前俳優になれるよ。すげえわ。どこにも痺れたり憧れたりしないけど。
俺なら黒歴史一直線だぞ。
とにかくカイト王子の人質(仮)の価値が半減してしまった。それでも縦ロールがそこそこに人質としての価値があるが、どうなるんですかね。分が悪そうだし、とりあえずさっさと退散した方が良さげだ。
「カイト王子も不安定か。そうやすやすと洗脳しきることはできないか。…それではバイビー!」
「あ、待て!」
反重力性質を持つアイテムで飛行して逃げる。もうクレア王女はさらっている。まあもちろん暴れられたら勝てないんですけど、本人も抵抗する気は無いみたいだし。
というかなんか背後からついてくる連中がいるんですけど?ここ空中なんですけど?
「フライの魔法ですね」
「そんなんあるんですね。最初に言ってくれます?」
「多重詠唱はきついでしょうし、行動も鈍るので余裕で対処できますよ」
「つまり俺と五十歩百歩だと」
「そういうことですね」
何も安心できないんだけど。ワイズちゃんは強いからいいけどね!?
「おい!俺は一般人なんだよ!こんな人数で群がるんじゃねえ!まだカイト王子は半分人質だろうが!?それでちょっと怪我負ってただろうが!国際問題だろ自重しろ!」
盛大に思った愚痴を言いまくりながら、空中で互いに不器用に動き、なんとか相手の追撃を振り切っていく。マジで最高難度ダンジョン産のアイテムなかったら終わってたな。地上戦じゃ勝ち目ねえわ。それで、フライの魔法の維持は結構きついらしく。飛んで逃げて行くだけでどんどん追撃してくる兵士たちが落下して減っていく。ウェストランド王都上空を抜け出す頃には空中戦に参加していた追っ手はいなくなり、それまで大人しくしていたクレアさんがついに口を開いた。
「ハルト」
「なんですか?」
「言いたいことはたくさんあるわ」
「へーい」
「ふふっ。まずは一言、ありがとう」
「…どういたしまして」
そのまま俺たちは近くのダンジョンに設置しておいたダンジョンゲートを使って俺のダンジョンであるラビリンスアースに帰還する。ワイズちゃんが旅の扉的な場所を破壊した方がいいとのことで、追跡を避けるために設置しておいたダンジョンゲートはコスモ・エクステリアを除いてすべてを破壊する。
これで一仕事を終えられた。準備も時間がかかったが、いざ実践で予定が狂う事件が起きたりと散々だったなあ。
あれ?体が動かん。
「アドレナリン切れたわ」
「うつ伏せで倒れていると芋虫と間違えます」
「踏むなや。もう無理疲れたねん」
「2、3日は動けませんよ」
「なんて劇薬だよ」
「でも、良い機転が効いていましたよ。最高にハイって状態がなければ失敗していたでしょう。それと今後の追っ手のことですが———」
もう眠いっす。ワイズちゃんが何か話しているがまぶたが重いのよ。そういえば、なんか変な黒歴史が増えた気がするけど、とりあえずおやすみ。
それと、おかえりクレアさん。
やっとダンジョンマスターとしての敵を用意できました。




