会場入り
決戦前夜。
カイトはすでにウェストランド城に招かれている。エリスも国賓として招かれている。そして俺とワイズちゃんはウェストランドの王都の宿屋に泊まっている。たった4人の叛逆行為だ。失敗は許されない。
作戦は決まった。俺の役割はクレア王女の略奪。国賓で招かれるエリスにはカイト王子の補佐。そしてワイズちゃんは勇者の足止めだ。カイト王子にはかなり重要な役を押し付けてしまったが、本人はやる気十分だからなんとかなると信じたい。
「勇者の足止めって大丈夫なのか?」
「魔王や魔人相手には無双する勇者補正がチュートリアル妖精には働きませんので、素の状態の勇者は普通の人間と大差ありませんから、多少のレベル差があっても平気でしょう」
「その言い方だとレベル差が開きすぎていたらきついと?」
「勇者は経験値補正もありますのでレベルが300後半くらいあるとキツイですね」
「倍くらいまで平気と言えるワイズちゃんが恐ろしいよ…」
「それ以外にも不安要素はいくつもありますが、まだ考えていても仕方ありません」
「あるのかよ…」
実感は大して湧かなかった。それは単純に俺たちがいたラビリンスアースが、ドが着くほどの田舎に位置しているからで情報があまり入ってこないことにあるのと、そもそもノースランドとウェストランドのテンションに格差があったからだ。おっさんと美女とかいうカップリングなのにウェストランドは大盛り上がりである。ノースランドは比較するとお通夜だったな。
「しかし潜入も生半可な方法では軽く一捻りにされますね」
「幸いなのはウェストランドの兵がノースランドの練度に比べて弱いということだな。2回りくらい弱いぞ」
「ノースランドは魔王一派と交戦することが多く、ダンジョンの平均難度も高いのが理由でしょう」
「やっぱりそんな理由か」
「それで作戦は覚えていますか?」
「結婚式だか、婚約式だか知らないが、始めるのは11時だろう?」
「ええ、決戦は11時10分。作戦決行時間も11時です。おそらく王都に配備されている魔道具で会場の様子は王都に放送されますので」
「まるでテレビだな」
「大型ビジョンの方が適切な言い方でしょう」
細かすぎるのはモテないぞ。
「痛いです」
「余計なこと考えると殴りますよ」
「すでに殴ってるから」
それより、すでに緊張してて眠れん。
「はい」
「はいじゃないが。で、これ何?」
「ビッグブルーバタフライの鱗粉です。よく眠れますよ」
「いや、これ睡眠状態じゃなくて昏睡状態になるって————」
「適切な処置はしておきますよ」
そういう問題ではないと、思う…ぞ………。
「おやすみなさい」
婚礼の当日。
周辺警備が一層厳しい状態の最中、時刻はすでに11時に迫っていた。
「こんなに警備が厳しくなるなんて思わなかったな」
「王様が自ら警備を強化したらしいぞ」
「へーなんのために?」
「さあ?どこかかしらの密偵から何かの情報を得たんじゃないか?」
「にしても国の半分の兵力を集中しないといけないのかよ」
「うーん…、まあ俺たちが話していてもな。どうせ仕事だし」
「残してきた俺たちの街が魔物に襲われたりしなければいいが」
「そのために周辺ダンジョンで魔物の群れ化が起きないように討伐命令も行われていただろ」
「平気だといいんだがな…、お?11時だ。そろそろ始まるぞ?」
さあ、始めようか!
『王都南南西にてドラゴンの群れが出現した模様!担当兵士ならびに周辺兵士は南門へ急行されたし』
「な!?」
「こんなときにドラゴンの群れだと!?」
おうおう。結構動揺しているな。それにしても情報の伝達が早い、会場の開会と同時に司会進行が止まり一瞬で会場の進行が止まる。中にも兵士たちの号令は聞こえたのだろうか?
「つーか、この大型ビジョン止まらないのな。王家の動揺する姿とか国民には見せないようにするものだと思ってたわ」
「ドラゴンの出現がすでに想定外でしょうし、消し忘れているのでは?」
「かもな。でも、どうせじっくり見ているのなんて俺たちくらいだし」
周りはすでに何事かと大型ビジョンを見て国王たちが動揺しているのが見え、周囲の衛兵たちに人がこぞって問い合わせている。
「次いくぞ」
「どうぞ」
地下に待機させてある大量のゴーレムを北北東に出現させる。
『北北東にゴーレムが出現!その数はドラゴンの倍以上!北部の護衛隊は速やかにドラゴンの排除を任されたし!』
「よし、本命いくぞ。ポチとな」
『西門が突如爆破!大量のゴブリンが街中になだれ込んでいます!』
『東門も同じく爆破されました!?大量のコボルトが街中に!』
「さて、行こうか」
「もう一国落とせる魔王ですね」
「魔王ではなく今日はルパンの気分やで。敵戦力の分散は戦術のきの字だからな」
「いや、それ魔王の発想ですから」
大型ビジョンはまだ稼働しており、それに豪華絢爛な衣装に身を包んだクレア王女が見えた。その表情は今起きている混乱に対するものではなく、ある種の期待に満ちたものだろう。そしてその近くにつくカイト王子がド緊張で固まっている。
「カイト大丈夫かよ?」
「エリスに期待しましょう」
「ええ…、あのシスコンが要なのに」
俺たちは混乱する街中を進み、婚礼の会場の城に向かっていたが、道を塞ぐように男が出現した。
「見ない顔だな?」
「はい?一般人を覚えているので?」
「一般人ならこの状況下で城には向かわんだろう」
「いや、一番安全なのがお城の中では?」
「………一理あるが、一般人は今日は城には入れん」
なんだこいつ?
「強いですよ」
「勇者パーティーの人辺りか?」
「ほぉ、俺を知っているか」
知らん。
「俺の名はヴァイス。勇者パーティーの一員だ」
「変に勘が働く奴もいたものだな」
「お前たちを拘束させてもらう」
「お前状態異常耐性そこそこあるみたいだが、昏睡耐性は最優先事項だと思うぞ?」
「何?くっ!?なんだこれは…」
「ビッグブルーバタフライの鱗粉。よく効くぞ」
「くそっ、こんなので………ぐかー」
あれだな。この世界で人類が生存地域を増やせない理由がよくわかる一幕だな。
「それでもレベルが高い前衛職ですから、昏睡ではなく睡眠状態ですね」
「へー、じゃあ起きる可能性あるのか」
「ええ、れっきとした勇者パーティーの一員ですからね」
「起きる頃には終わってるだろう」
「では行きましょうか」
「会場に遅刻して入るならド派手に行かないとな」
早く行かないと会場はお開きになって堂々とクレア王女を攫うことができなくなるからな。
「どうなっている!?」
「危険なモンスターはまだ王都外で暴れている模様。しかし数の多いゴブリンやコボルトが街の中に侵入し多くの兵士達が王都内で交戦中です。しかもその数が尋常ではなく、すでに被害者も確認されています」
「クソッ、こんな大事な日に…、予言のままではないか!今すぐに城に配備されている兵士を半分城下に向かわせろ。ここには勇者の護衛がある」
「了解しました」
会場はようやく落ち着きを取り戻しつつある状況。ここで一旦会場をお開きにしたいところだが、王にはそれができない。城の各部屋に来賓を返してしまうと護衛の数が足りなくなる。身の危険はないだろうが、ノースランドの王妃を始め、クレア王女も護衛の必要はないが、招かれていながら、来賓自らに護衛をさせるのは失態中の失態。それは避けなければならない。ただ、この会場には最大戦力である勇者が護衛についている。
「皆様落ち着いてください。今、何者かによってここウェストランドの王都が魔物に攻められています。今しがた王国兵たちにその対処を任せました。安心してください。出現した魔物たちに対し、十分な兵力を向かわせています。それに伴いこの城の警備の人数が減ってしまいましたが、ここにはかの勇者が護衛についています。ですので控え室に戻るよりも、安全なこの会場に残っていただきたい————」
ウェストランド国王の話の最中、会場の式典の壇上の背後が爆発する。
「王!?」
瞬時に爆風から王を勇者が助け出し、すぐさま会場の護衛に当たっていた精鋭たちが爆破された場所から会場にいた人たちの間に割り込む。
「フハハハハハ!俺の名はアルセーヌ・ルパン!クレア王女を攫いに来たぜ!」
「ハルト!」
おいぃぃぃ、誰だ本名呼んだ奴!?




