防衛戦の準備
「2人ともすまないな」
「別にいいさ。俺1人じゃこのダンジョンは攻略できなかったからな」
「私も格段にレベルが上がったからのう、その報酬とでも思っておけ」
能力が上がる実をカイト王子とギルマスのエリスの2人から譲り受けていたことを感謝する。チート級に強くなったかと思えばそうではなく、1週間という短い間でこれだけの実を集められたのはかなりの幸運である。
どういった仕組みで行われたかというと、最高難度のダンジョンのコスモ・エクステリアに存在するモンスターはあまりに強すぎて通常ドロップが能力上昇の実であり、レアドロップに謎の浮遊力を持つアイテムが手に入る。カイト王子とエリス、もちろん足しても0にしかならない俺だけではコスモ・エクステリアのモンスターを1体狩れればいい方だろう。だが、圧倒的な物量攻めがコスモ・エクステリアのモンスターのヘイトを買い、2人は俺が召喚しているモンスターを壁にして攻撃を繰り出していた。そのおかげで最初は2時間で1体しか倒せなかったモンスターも最終日にはそれぞれが10分で1体を倒せるまでになっていた。
勇者パーティーは30分で1体まで倒せるようになっていたらしいが本当かどうかはわからない。指数関数のような成長具合だった。
「ドラゴンがかなりタフだったからな。壁にさせてもらったぞ」
「おかげさまで防御力方面の技術はまったくもって上がらんじゃろうな。ひたすらに攻撃していただけであるし」
「あー、確かに」
ドラゴンならびにゴーレムには大変お世話になりました。ただ、生物を生贄にしている罪悪感的なものがないのは俺がダンジョンマスターの種族に変わったせいだろうか?倫理観が結構歪んできているのかもしれないな。
「本当はアリアと対等に戦えるくらいには鍛えておきたかった」
「もうほとんどレベルは上がらなくなってきたのでしょう?」
「まあな、200辺りから上がりにくくなったな。それに、普通ダンジョンの敵を攻略してレベルの上昇が控えめになれば1人でも対処できるはずだが、このダンジョンの敵はやばいな。ソロじゃまるで勝てる気がしない」
スライムのような空中を浮遊する謎の軟体生物。今も近くにいるが、ゴーレムとドラゴンを倒されていくだけだ。その分俺に経験値が入ってくるが全くと言っていいほどにレベルが上がる気配がない。10秒に1体は倒されているのだけれども。
「さて、次のステップとやらじゃな」
「そうだったな。もう少し成長はできるだろうけど、時間がなくなってきているし、次のこともワイズちゃんに考えがあるらしいけど」
俺は背後に控えている化け物みたいに強くなっているチュートリアル妖精に目をやる。レベル250のカイト王子ですらソロじゃ勝てない化け物を相手に、レベル200で楽に勝てるワイズちゃんとかいう謎の生物。
「そうですね。次にやるべきことは国力をあげること、もしくは下げることです」
「はい?」
「今のままでも私たちが頑張ればクレアを攫うことはできるでしょう。協力者も多いでしょうから。しかし、ほぼ確実にクレアを攫えばハルト様は指名手配されます。そしてここラビリンスアースに敵が攻めてきます。そうなればノースランドの協力なしにウェストランドと戦うことになります。さらにいえば、国際的な立場上ノースランドも敵側に着く可能性も考慮にいれなければなりません」
「マジでか…」
「ええ」
ウェストランドの王様がクレア王女に執心だということは知っている。確かに恨まれて勇者をこちらに向かわせる可能性が非常に高くなる。そうなれば先の教会も協力してラビリンスアースに攻め入ってくるだろう。
「ラビリンスアースの入り口、ならびに近くのもう一つの街はノースランドが保有している状態です。しかし、他の土地を陣地にこの世界を探索しハルト様を撃ちにくるでしょう。話がこじれればノースランドの保有地も危ないかもしれません」
「………どうすればいい?」
「どれを選択するかによります。現状のまま発展させるというのが1つ。2つの街を破壊し、周辺にウェストランドの基盤を作らせないというのも1つです」
「後者は嫌だ!」
「ハルト様、相手は国になるのですよ?それなら周辺地域にウェストランドが拠点を作る準備が早まる街を残しておくのは危険です」
「2つの街を壊すなら俺がクレアを助ける理由はなくなる」
「………」
「ラビリンスアースを発展させてきたのは俺が理由じゃないんだ。主にクレアの理由なんだ。俺の当初の目的ならノースランド王と謁見した時点で達成されたも同然。クレアを助けると決めたのなら、クレアが発展に寄与してきたあの街を破壊するなんてことはできない!」
そうだ。あの街はノースランドの発展のためとクレア王女が作り上げた街なんだ。
「クレアはお茶入れてただけですよ?」
「………」
「………」
確かに。
「よし、破壊しよう」
「おいぃぃぃ!!!」
止めるな、カイト王子。俺はあの街を破壊して身の安全を!ウェストランドからの襲撃に備えるんだ!
「もう少し人道的な解決の道はないのかよ!?」
「ウェストランドの侵攻を遅らせるには手っ取り早いんだ!」
「そんな理由で街を破壊したと知られれば姉上に殺されるぞ!」
「………」
「………」
「………よし、破壊はやめよう」
「手のひら返しが早すぎる」
命あってのダンジョンマスターなんだよ。
「ならあの2つの街をこちら側に引き込むか?」
「どうやって?」
「ククク、セーフティーゾーンの悪用をしようか」
「セーフティーゾーン?」
そういえばこれ内緒だった。
「まあ、ダンジョンは俺の庭。やりようはあるさ。それに2つの街は両方ともノースランドの保有地だ。貸し出しはあってもこれだけの土地があるのにわざわざウェストランドの奴らも奪い取りに戦争みたいなことはしないだろう」
「まあ、とにかくどうにかなるのだな?」
「拠点の方はなんとか」
だが、それだけでは不安だ。確かにドラゴンとかを用いれば勇者のような化け物以外の王国兵くらいであれば退かさせることはできるが、結局のところ勇者からは常に逃げ続けなければならなくなる。この広大な世界といえど、アリアさんのような索敵能力ともしかしたらワープ能力なんてものがあれば逃げ切るのは非常に困難になる。相手は勇者だから常識なんて通用しないだろうしな。
「もう一つの方はこのまま街を発展させるって言っていたな」
「ええ」
「それがなんか抑止力になるのか?」
「あの街を国に仕上げて拠点を作る際に、かかる費用に税金をたんまりかけてウェストランドから絞り上げてしまえばいいでしょう。それで拠点づくりを遅らせます」
「ワイズちゃん悪魔かよ」
「———何か言いました?」
「いっへまへん」
拳が顔面にめり込んでるからぁ!




