裏技
「俺はシスコンじゃない」
「説得力ねえぞ」
「じゃあ今度は俺のストーカーですか?」
「んなわけあるか、………」
「え………」
聞けば、普通に動向を見張っていたらしい。自分の姉が望まない結婚を強要され、王子としての立場上、介入することが難しく、それを相談する相手として一番の候補であるハルトこと俺に相談するのが恥ずかしかったからとかなんとか。
「ツンデレですね」
「そのルートは断固拒否する」
というか、この最高峰難度の入っているだけで危険なダンジョンでのんびり会話してても平気なのか。こいつら人外すぎるだろ。
「それでひとまず戦力を整えるために俺たちはここに来たわけだが、カイト王子はどうするので?」
「敬語はいい。俺も今の実力じゃ何もできないだろうからな。ひとまずは鍛えるつもりだ。それと何か策はあるのだろう?」
「あるのだろう?」
カイト王子からの視線をそのままワイズちゃんに受け流す。
「攫うだけですよ」
「お、おう。しんぷるいずべすと」
さらっと国際的な犯罪者にレベルアップする作戦ですけどね。
「攫うって言っても難易度高すぎるだろ」
「いや、注意すべきは勇者ただ1人だろう?」
「いや、アリアも母上もいるのだぞ?」
「あの2人が介入してくるのか?」
「しないのか?」
「しないだろ」
「………確かに、元をいえば父上も婚姻にはあまり賛同的ではなかったからな」
「そういうことだ。もとよりノースランド側は誰も望まない結婚であり、その望まない結婚を可能にしたのが勇者召喚の恩恵だ。逆に言えばそれさえなければクレア王女は結婚なんかしなかったはずだからな」
「それで、攫うと?」
「ああ、ウェストランドには完全に一切の不正がないだろう。たとえあったとしても見つけるの指南の技だし、その不正も勇者召喚の大義の前では潰される程度の可能性も高い。向こうが正攻法で来ているなら邪道で返せばいいのさ」
「どこの大魔王だよ…」
世の中正義がすべてじゃねえんだよ。
「とはいえ、このままじゃ勇者1人にボコボコにされるパーティーのままだ。それを打開する必要がある」
「自然に私をパーティにいれておるな?」
「当たり前だろう」
「頭が痛くなってきたわ」
やれやれといった感じで呆れながらもエリスは俺たちについてきてくれる。
「ハルト様とカイトとエリスでは鍛え方が異なります」
「鍛え方?」
「ええ、ハルト様に必要なのは召喚したモンスターがやられることにあります」
「ここにモンスタースポットでも置くのか?」
「正確にはここではありません」
「だけど、俺のダンジョンじゃねえんだし、こんなところでカタログ購入なんてできないぞ?」
「裏技ですよ」
「裏技?」
「ここにダンジョンを繋ぐ経路を作ります」
「ダンジョンゲートか。だが、まずくないか?」
「大丈夫です。繋がっている場所がセーフティーゾーンなのでモンスターの逆流は起こりません」
ダンジョンゲートは外部との接続である。ダンジョンと外の世界は実は異世界であり、ダンジョンにはダンジョンゲートを通して異世界と繋がっていることになっている。レベル30を超えたあたりからダンジョンゲートを作ることができるようになったが、入り口が2つあるとダンジョンの防衛が大変になるから普通は作らないものらしい。それを今回は使ってダンジョン同士を繋げるという。つまり異世界であるダンジョンと通じて移動のショートカットが行うことができる。
「それで俺たちのダンジョンに繋げてモンスターを流入させるのか?」
「ええ、それで倒されたり倒したりすればハルト様は急速にレベルアップしていきます」
「なるほどな」
「そして、モンスター同士が互いに削りあっているところをカイトとエリスが倒せば彼らも比較的簡単にレベルアップができます。そしてこのゲートのそばで戦えば万が一致命傷を負ったとしても帰還できる確率はかなり高いでしょう」
レベルアップにこんな裏技あるんかい。
「それからここだけでは敵側のモンスターの量に限界があります。マスターはいくつか他のダンジョンとゲートを繋げながらウェストランドを目指しましょう」
「ショートカットを作りながら目的地にだんだんと近づいていくのか」
「そういうことです」
ひとまず俺たちに残された時間はまだあるらしい。
今クレア王女はまだ王都にいるらしいが、そろそろ出発するとのこと。カイト王子は普通に結婚式もとい婚約式だったかに招待されるので潜伏させる最高の相棒ということになる。準備は最大限に行わないとな。
「それと、もし下手人としてハルト様の素性がバレた場合ですが」
「勇者が俺のダンジョンに攻め入る可能性があるってことかな?」
「ええ」
「それなら本格的にダンジョンマスターやらないといけないかもな」
「いいのですか?死ぬ可能性が出てくるのですよ?」
「ああ、別にいい。どのみち教会の連中が攻めてくるだろうしな」
「そっちはどうでしょうね」
「うん?」
まあいいや。気分はアルセーヌ・ルパン。盗むのは王女。失敗は死に直結。
「やる気でねえ」
「出してくださいね。阿呆マスター」
召喚するモンスターは今のレベル32、MP2520で購入できる。MP2500を使うモンスタースポットはゴーレムである。呼吸をするモンスターだとこのダンジョンで戦わずに死ぬ可能性が高いから、無機物系のモンスターを送り込む。それが初日にできたことだった。
だが…。
ウェストランド方面のダンジョンにそれぞれ中継地点を作りながらモンスターを送り込む。中継地点からまた中継地点を作りに移動しモンスターを送り込む。さらにその中継地点から…。2日に一度しかゲートとモンスタースポットの組み合わせを1つしか作れなかったが、レベルがどんどんと上がり、1日にゲートとモンスタースポットを1つずつ作れるようになり、そしてついには1日でゲートを2つ、モンスタースポットを2つ、さらに最難関ダンジョンに送り込むドラゴンのモンスタースポットを1つ作れるようになってしまった。
「あれから1週間、もうレベル200か。今までの苦労はなんだったんだ…」
「この急速なレベルアップに直結する布石ですよ」
「その準備といえばそうなのかもしれないけどさ」
なんかやるせないのよ。
「ドラゴンのモンスタースポットのMP1万も容易に召喚できるようになりましたね」
「モンスターだけでダンジョンを攻略してしまったところもあるしな」
「そしてアイテムも集まりました」
「これなんてチート?」
俺の目の前には能力上昇の実がずらりと並んでいる。レベルアップではMP以外成長しない俺に必要なものである。
それを全部食べる。
「力の実が79個、速さの実が120個、体力の実が110個、知恵の実が96個ですね」
「前に食べた分を合わせると力の実が80個だ」
「それでも一般的な王国兵に毛が生えた程度ですね」
「それにしても…、ステータスが力と速さとHPとMPの4つ、それから移動ができるゲート…、まるでどらごんく————ぐえっ」
「言わせませんよ」
だってあれ旅の扉じゃん。




