勇者たちのお話
「あー、疲れたー」
風呂に浸かりながら今日の特訓の疲れを癒す。長く深呼吸して心臓の鼓動を確かめる。
「相変わらず宇宙空間は慣れねえなあ…、息ができない状態で謎のモンスター相手に戦い続けるとか人間やめてるだろ…」
地球の日本から召喚されてどれくらいたったか…、1年以上は経っていたはずだ。もともと身寄りのいない身だったし、高校にも進学できずに就職が内定していたが、突如現れた魔法陣で異世界に召喚。そして魔法のある世界で勇者になることを頼まれた。最初は嫌悪感があったが、生まれてから誰かに必要とされずに生きてきた俺は、この役職が天職になっていた。人を助けて感謝され大金がもらえる。ついでにモテる。その分きつい訓練をしなくちゃならないが、対価を知ってしまえば自ずと勇者街道を走っていた。
「それにしても宇宙はねえよ、うん。ねえわ」
その訓練の最難関ダンジョン。名前はコスモ・エクステリアといい、それは俺が召喚されたウェストランドの隣国ノースランドが所有しているダンジョンで、その許可をもらって挑戦している。レベルが上がりにくくなってきた最近の悩みを簡単に解決していた。宇宙生物とでも称すればいいのだろうモンスターはかなりの経験値をもたらし、さらには重力を無効化し、浮遊する貴重なアイテムをドロップする。このアイテムは持ち帰って売るだけでも相当な大金が手に入るときたもんだ。パーティーの一員のウェストランドの第2王女のエリルが持ってけるのに躍起になるのもわかるが、王女なんだからもう少し慎みを持ってもらいたいものだ。
「…ねみぃ」
湯船で寝るわけにもいかねえな。立ち上がると隣の区画から女性たちの声が聞こえる。内容は聞き取れないが、何か声が上ずっているあたり恋バナだったりするのだろうか。
「ノースランドの第一王女か…」
どストライクのめちゃくちゃ好みの女性ではあった。俺も王宮暮らしが長かったから弁えるが、これで王様の婚約者じゃなかったらなあ…。あのオヤジの妻になるのか…、非常に残念すぎる。エリルも美人ではあるし、他の綺麗どころであれば群を抜いて美人で可愛い。だが、ノースランドの姫とその従者の美貌はその上を行っていた。従者ですらエリルより美人だったな。俺の好みかもしれないけど…。
「…さすがにな」
本人たちも俺に惚れてたり憧れたりしていることはなかったからな。本気で両思いになれるなら駆け落ちもやぶさかではないのだが、そうはいかないか。
風呂から出て体を拭いて、先に上がっていた仲間の元に向かう。
「お前はカラスかよ」
「長風呂は嫌いなんだ」
「10分は長風呂じゃねえよ」
3分で湯船から出てった仲間が部屋で剣の手入れをしていた。
「エリルたちは今日もうるさいな、もう1週間以上時間が経っているだろうに」
「気になるのか?」
「そういうお前は、…幼馴染を残してきてるんだっけ?」
「ああ」
「なんか反応枯れているよな」
「ほっとけ」
「ヴァイスくん的にはどの子が好みよ?」
「野郎同士で話してもつまらねえだろ」
「幼馴染への義理立てかー?別に問題ないだろ、ただの好みなんだからよ」
「…」
「おい寝るなよ」
「お前もさっさと寝ろ。あのダンジョンいまだに俺にはきついんだ」
「安心しろ俺もきつい」
「どこに安心する要素があるんだ…、お前が負けたらうちのパーティー壊滅だからな」
「わかってるよ。ちゃんと療養しますよ」
寡黙系イケメンくん、かっこ幼馴染持ちかっこ閉じも寝たことだし、俺も寝るか。
「眠れないのですか?」
月明かりに照らされ、まだ増設されたばかりの野営キャンプの外でアリアに背後から話しかけられる。そういえばこの時間の見張りはアリアでしたね。
「ええ…」
「姫様、それほど懸想なさるならいっそのこと告白したらどうですか?」
「む…、私は懸想なんてしていませんよ?それに誰に対してですか?」
「はあ…、それなら他の方角を見たらどうです?いつも南南西の方ばかり見ていますよ」
「う…、そんな細かくわかるのかしら?」
「まあ、懸想は言い過ぎかもしれませんね。私も気になりますから…、ハルトが何かやらかしている気がして」
「やはりそう思いますの?」
「ええ。やはりということは姫様もですか」
アリアもハルトが奇行に走っていないか気になるみたいだ。ハルトはかなり常識人ではあるが、やはり根底が別世界の人間、それはここで勇者の指南を任されてからも痛感しました。彼は誰もが一度は嫌厭するコスモ・エクステリアに堂々と入り、『宇宙空間だと?』と疑問の声をあげていた。宇宙、空のはるか上を行けばコスモ・エクステリアと同じ世界が広がっているという。ハルトから教えてもらったことだ。無重力で地面がなく、遠くに太陽のようなものがあり、見えない壁を伝い、進むという、迷えば確実に死に至るとても危険なダンジョン。そのダンジョンに足を踏み入れて発した言葉がそれだった。ハルトと同じ世界からの来訪者、それが勇者。そして彼はコスモ・エクステリアを嬉々として進んで行った。途中で苦しそうになったり、勇者パーティーは大変そうだったが、彼は好奇心の趣くままにコスモ・エクステリアを攻略していた。途中、パーティーで浮いていた。さすがに仲間がついて来れないことを察したあたりで自分がグイグイと進むことはやめたが、これだけ危険なダンジョンに好奇心で進んでいけるのは私たちとは何か違がうのでしょう。それはハルトにも言えること。何かしら進んでバカやってそうではありますし、そばにワイズがいるから大事には至らないでしょうが気にはなりますね。
「はあ…」
「あら、ため息とは珍しい」
「いえ、…姫様もそろそろおやすみになられてください」
「アリアは平気そうね」
「ええ、コスモ・エクステリアは王妃様に鍛えてもらっていた頃に何度も潜りましたので」
昼は勇者の指南、夜は見張り番。これがレベル300台の強者の余裕なのかしら?私も180はあるのだけれど。
最後にもう一度ラビリンスアースの方角を向いて、軽くだけでも祈っておきましょう。彼らに神のご加護を。
「…」
アリアがジト目で見てきますね。これ以上長居は無用ですね。




