侵入者
「カタログ購入ってさ、やっぱり持ち越しとかできないんだよね」
「持ち越しですか?」
山菜や果物をこれでもかと採取し、ダンジョンコアのテレポートのリチャージが終わるまでの間、ワイズちゃんと雑談。
「ハルト様のMPは上限で80ですが、明日に160のお買い物ができることはありません」
「やっぱりそうか」
「眠っているうちにMPは回復しますので、使わないのはもったいないですよ」
「だよなあ」
でも80までで欲しいものなんてあんまりないんだよなあ。強いて言うなら歯ブラシと歯磨き粉くらいか。ベットとかは備えついていたから大丈夫。そんなこんなで太陽も沈み、まだまだだジョンコアの回復が終わらないので、枝を集め、マッチをMPで購入。50MPで火が手に入るのはお得なのか、それとも不便なのか。
「焚き火なんて久しぶりだなあ、さつまいも食べたくなる」
「飯テロやめてください」
「言ってる俺も飯テロ食らってるから、というかワイズちゃん食べたいの?」
「食べてみたいですね」
「ふーん、待てよ?ここが俺の中にある世界をイメージしたところなら、さつまいもくらい埋まってそうだなあ」
「埋まっているでしょうね。ただ、どこにあるかは不明ですよ。ここアホほど広いので」
「それもそうか…」
まったりまったり、なんか眠たくなってくるなあ。俺、どうしてこんなところにいるんだろう。実はこの世界は夢で、こっちで寝ると元の世界で起きるとかないかな。ないな隕石直撃してるだろうし。
「ハルト様」
「なんだ?」
おぼろげになっていた。
「侵入者です」
「うそやろ?」
「本当です」
「もう夜中だぞ!」
「ダンジョンの外は昼です」
「は?」
時間軸ズレてるのかよ!
初めて訪れる命の危機、俺はなんとなく想像していたことがあった。それは管制室で見たときにワイズちゃんに聞くかどうか迷っていたことだ。それはダンジョンの入り口である。
「侵入者ってどこらへんにいるかわかる?」
「ナビゲーションシステムの私にわかるのは侵入してきたと言うことだけです」
「そっか」
ダンジョンコアはここにあるし、一旦管制室に戻るのは怖さがあるが、おそらくたどり着いてはいないだろう。アホほど広いぞ、そこから拠点を即座に見つける確率なんて隕石にぶつかるレベルで難しいに違いない。
「当たるやん」
「何がですか?」
首を傾げるワイズちゃんかわいいよー。
「はいはい」
「帰ったぞー」
「帰るなりなんですか」
「挨拶は基本。さてと、侵入者を探すか」
「私はパスで」
「探すんだよ」
ワイズちゃんの頭をがっちりとホールド。逃がしはしねえ。
「これだけある監視カメラからどうやって見つければいいんだ…」
監視カメラを切り替えるが、一向に見つからない。あと監視カメラ多すぎるからな。いったいいくつあるんだよ。
「AIに任せましょう」
「AI?AIなんてあるの?」
「ただ動く物体を識別させるだけです。ついでにサーモグラフィー(赤外線カメラ)もいれておきましょう」
空中に半透明のキーボードが現れ、ワイズちゃんがカタカタと何かを入力してる。待って、それ音出るの?キーボードタップしている音が聞こえるんだけど。
「録音ですよ。タップの速度や強さに合わせて音量が鳴る仕組みです。あくまでも空中を認識しているだけなので実際に音は出ません」
この基地ハイテクすぎじゃね?
これも俺の想像の賜物なのだろうか。なんか誇らしいぞ。アニメとかでこういう近未来的な基地とか定番だよな。
「そうですね。あと基地に不可欠なものって何か想像します?」
「脱出ポッドとか?」
「あとは?」
「うーん、………え?まさか…」
「自爆機能も搭載されてます」
「マジいらねえ想像入ってるじゃねーか!敵の基地にありがちな奴じゃねえか!」
…あれか。
目の前にあるドクロマークのボタンを視界に入れたくない。
「押してみます?」
「やめてくれます!?」
人工知能による解析が終わったらしく、人工知能の割に時間かかるんだな。俺の想像の産物は大したことなかったのか。
「発見しました。2147483648台の監視カメラの解析が終了しました」
「カンストしてるぅ!監視カメラ多すぎるやろ。それ手作業でやらせようとしたんか!」
「所詮21億台じゃないですか、何を甘いことほざいているんですか?」
「全然甘くないから所詮じゃないから」
中央の大きなモニターに4人組が写った。
「一応聞くけど、ここどこらへん?」
「ここらへんですね」
中央のモニターが切り替わり、地球っぽい何かが映る。そして4人組と俺たちのいる位置が表示される。
結構近いな。表示されてる場所すぐ隣じゃねえか。
東北東に1200kmだとよ。
近くねえわ。地球規模で見せられたら隣に見えるけど、めちゃくちゃ遠いわ。
「これ敵対勢力ってことでいいのか?」
「おそらく冒険者でしょう」
「ふーん、やっぱりそういう職種はあるんだな。中世ヨーロッパ的な」
「珍しく正解ですね」
「珍しくごめんね」
それで、どうすればいいのか。害意がないなら放置でもいいような気がする。
「あそこに拠点を築かれたら面倒ですよ。そして拠点が徐々に町となり、国となれば、この地は制圧されるでしょう」
「…そんなことある?」
「可能性の話をしているのです」
「それは嫌だな。…ちなみに国が築かれたとして、ダンジョンコアが壊れたらどうなるんだ?」
「他のダンジョンと相違なく、ダンジョンは崩壊して行くでしょう」
それむしろダンジョンコア守るようになるのでは?
「引き込む方針で?」
「そうしようかな。そのまま帰って行く可能性もあるし」
「少し楽観的に思えます」
「ぶっちゃけ、少し余裕ができたとはいえ、サバイバル生活中だから、侵入者のこととか考えてられない」
「ダンジョンマスター的には残念すぎる理由ですね」