教会
戻って来たぞー。
だが、最初に出てった一行に比べればかなりしょぼい人数である。行くときは十数人で帰りは3人である。一応懸念した強敵とのエンカウントはなかった。やはり滅多なことでは遭遇しないらしいな。
「あ、ハルト!早かったな。…姫様たちがいないが?」
副隊長さんが出迎えてくれた。
「勇者の到着が早まってな。終焉の街に急ぐことになった。それで、俺たちもまた姫様の護衛につく必要がある」
「え?ラビリンスアースの開拓は?」
「ひとまず保留だ。国家の重要な案件が控えているからな。急ぎ部隊を招集して終焉の街へ向かうぞ」
「了解」
王国兵の方々が忙しそうに準備を開始し、アイアンスライムのダンジョンで鉄鉱石集めをしていた部下も集め、1時間もしないうちに出発となった。
「それでは、我々はひとまずこの地を後にするが、ハルトも気をつけるんだぞ」
「わかってますよ」
一同がぞろぞろとダンジョンの入り口の迷路へと入っていく。迷わないだろうが、本来のダンジョンの出口まで見送ろうかとも思ったが、少し忙しくなりそうなので、見送りも手短に駐屯地の情報を整理しなければならない。2週間ぐらい空けてしまっていたからな。
「久しぶりじゃのう」
「エリスさん、お久しぶりです」
終焉の街のギルドマスターの幼女もどきのドワーフ、エリスさんだ。
「硬いな。まあ、とやかくいう連中もいなくなったことだし、鉄鉱石の利率の変更の話し合いと行こうか」
「話の展開が早いですって、まず聞きたいのは俺がいなかった2週間何かありましたか?」
「そういえばそうじゃな。まあ、あったといえばあったぞ」
エリスさんの表情が若干曇る。嫌なことでもあったのだろうか。
「嫌な事件が2つだ」
「やっぱり聞きたくないんでいいです」
「ちゃんと聞け、たわけ。…ごほん、一つは境界の街の商人がまた来てな」
「ロイドたちですか?」
「いや、また別の商人で鉄鉱石の顧客をだいぶ奪われたことに文句を言っとったわ」
「それは半分ロイドたちのせいでは?」
「そうじゃな。ここから3日のところにある小さめの街があるのじゃが、そこにも鉄鉱石をロイドたちが卸していてな。境界の街の景気がまた悪化したらしい」
なるほどな。宣伝効果で移民を持ちかけるより先に景気が悪化して、経済状況が悪くなって、俺たちに対する悪感情の育ちが早まっているのだろうな。敵視されるより先に移民として歓迎するにはどうすればいいのだろうか。俺としては早く境界の街を取り込みたいんだがなあ…。
「境界の街の炭鉱夫たちにも噂は広まっているからな。これからどうなるかはわからないが、王宮からの伝達でもあればなんとかなるのかもしれんぞ?」
「一報入れて小細工してもらいたいのですけど、今はクレア王女もカイト王子もここにはいないからなあ…。それに謁見で何もしないって言われましたし」
「王め、面倒くさがったな」
「クレア王女が自国の成長の機会がー、とかなんたら言って不満を愚痴ってたような」
「王はあまり向上心がないからな」
「そうっすか」
なんとなくそんな気はしていたが、もしかしたら王妃に頼めば何かしてくれるかもしれない。その反動の見返りを請求されるのが怖いんだけども。
「境界の街は経過を見ながら少しずつ手を打ちますよ。それでもう1つの嫌なこととは?」
「教会だ」
「境界?」
「教会、なぜ境界が出てくる?」
あー、これが翻訳機能の限界か。言葉が同音異義語でもこっちの意図は相手に反映されるのね。だが、向こうの意図が俺には同じ言葉に聞こえてしまうと。
「ちょっと俺、翻訳機能を使ってまして、言語が違うんですよね。なので境界の街の境界とシスターとかがいる教会が同じ音に聞こえるのですよ」
「ほほぉ、それは聞いていなんだな。やはりダンジョンマスターというのは変わっておるなあ」
「どちらかといえば魔王側でしょうし」
「まあ、その魔王側ってのが問題ごとなんじゃがな…。教会、あー、シスターとかがいる方じゃな。そっちの教会の話じゃが、奴らにとって魔王関連は完全なる敵である。つまり———」
「つまり、このダンジョンを敵視されたと?」
「そうじゃ、教会は今までならそこまでの力を持っておらなんだが、今はこの地に勇者が来ているのだろう?もしかしたら、勇者にたれ込んでこのダンジョンを襲撃してくる可能性も出てくる」
参ったな。勇者って言ったら最強の一角であり、驚異の成長力で最難関ダンジョンに挑むという化け物だ。戦えば指先ひとつでダウン必至。まったく成長していない俺じゃ太刀打ちできない。
「だが、出会わなければどうということはないな」
「それならここから離れなければならんぞ」
「またサバイバル生活に逆戻りは勘弁してくれ…」
それにしても問題が山積みで予想以上に面倒なことになりそうだ…。




